#22 アツアツカップル
俺は子分たち、そして仕方なくプラムを引き連れ、毒の痛みに耐えながら目的地へ走っていた。
依頼人が拠点を作って待ってるという『東の墓地』までは、もう少しだ。
「あー、マコトの親分。ちょいと気になったことが」
「ん?」
走りながら、ブラッドが聞いてくる。
この状況だとシリアスな話かと思ったが、雰囲気的にはそうでもなさそうだ。
それどころか、
「……さっきあんたの新居を掃除してた、メイド服の女の子。随分と仲良さそうに見えたんですが、もしかして親分の愛人で?」
「はぁ!?」
とんでもないこと聞きやがる。
そうか、リスキーマウスの尻尾を回収しに行ったとき、ミーナにも会ったんだったな。
「ってかブラッド、まず恋人とか妻とか疑ってくれるか!? まぁちょっと年齢的に無理があるけども」
俺は恐らく四十前後で、ミーナは若いもんな。二十歳くらいじゃねぇかな? 知らんが。
「いやいや、マコトの親分も隅に置けねぇなと思いやしてね」
「何だそりゃ……そういやブラッド、お前ミーナに会ったことなかったんだっけ?」
「え? ええ、名前も初めて知りやした」
そうなんだよな。
俺のダチや知り合い達は、立場がバラバラ。皆が互いを知り合ってるワケじゃねぇ。
でも俺だけ全員知ってるから、脳内がゴチャゴチャになっちまう。
「あのな、いいか? ミーナにはそもそも彼氏がいるんだよ。俺の出る幕はねぇよ」
「へぇ。純粋そうに見えやしたが、隅に置けねぇのはあっちの方でしたか」
「……何か嫌だから『隅に置ける』とか『置けない』とか言うのやめてくれよ」
まぁブラッドが楽しそうに話してるのは結構なことなんだが。
――メイドであるミーナの彼氏ってのは、本人公認ってワケじゃねぇ。俺やプラム、魔術師団の団員達みてぇな、知ってるヤツらが勝手に茶化してるだけ。
「あいつのアツアツな彼氏はな……『魔術師団の二番手』ルークのことだ」
「おお、あの人が! 王国の有名人だし、確かマコトの親分と一緒に魔王軍の幹部とも戦ってた――」
「そうだ。ルークは俺の相棒でもある。ルークとミーナがアツアツカップルなのさ」
前にも説明した気がするが、マゼンタ団長が魔術師団のトップ。
その次に強いのがルーク。水と風の魔術師だ。ちなみに、極度の優男。
――俺が異世界に来て初日に出会った一人。空腹の俺を無条件で助けてくれた、思えば最初っから優しさ全開のヤツだったな。
ルークにとってミーナは召使いというか使用人というか、つまりは雇用関係にあり、本来はイチャイチャすんのは良くないかもしれんが……
まぁ恋なんてのはハリケーンらしいし。
そしてこの異世界の誰も――彼らの関係について茶化したりしてるだけで、本気でバカにしたり、白い目で見たりはしてない。
そういうフラットで、のんびりとした雰囲気が、俺がこの異世界を気に入ってる理由でもある。
ほら、俺がアルドワイン・ベルクに殺されそうな状況でも、騎士団長ジャイロも、プラムやブラッド、ミーナ、マゼンタ団長でさえ、真剣に悩み込んだりしてないだろ?
あれは俺のことが嫌いとか、どうでもいいとかじゃなく、この世界の人々の大まかな性分なんだ。俺はそれがまぁまぁ好きだ。
……ま、ルークとミーナの関係については、個人的に嫉妬したり恨んだりしてるアホはいるかもしれねぇけどな。ルークが有名だから。
学園にはリリーをイジメたりしてるヤツもいるし、まぁ全員が良い人ってワケじゃねぇよ。そりゃ日本も、どこの世界も同じなんだろ。
割合の話だ、今のは。
「あっ、マコト! 見えてきたよ!」
――そういえば、最近ルークに会ってねぇな。一緒に魔王軍を倒した仲なのに寂しいな。
と思ってるところ、並走してるプラムが俺の袖を引っ張ってくる。
「よっしゃ着いたぜ東の墓地…………んん?」
素直に喜ぼうとしてたんだが、どうも墓地の様子が変な気がして、首をひねる俺。
錆びついてるが派手な装飾をした門を開ける。石垣に囲まれた墓地の中だが、
「何だこの……ボロボロのテントみてぇなのは」
「いや、テントでしょう親分。依頼人はここを拠点にしてると書いていたはずだ」
ブラッドの言葉にとりあえず頷く。墓地を拠点にしてるとか頭おかしいだろ、ってのは置いとこう。
だとすると、このボロボロ具合いは――
「何かの襲撃を受けた……って感じっスね」
顔が赤く腫れ上がってるロリコン……じゃなくてゼインが合流して言った。
俺が「何の?」と聞こうとした瞬間、
「うーむ、ご名答……」
「ヒャッハー!! 現れた、現れたぜ、マコト・エイロネイアー!!」
ブラッドやゼインよりも、よっぽど悪役っぽい声をした連中が、破れたテントの裏から出てきやがった。
そいつらは人間じゃなさそうだ、被り物でもないよな、アレ……
熊男に、狼男。
「おっと、来る場所を間違えちまった……ここは動物園らしい」
毒の痛みに耐えながら言い放った俺のジョークは、誰にも通用しなかった。




