#20 動き出す、殺し屋ども
――受付嬢に話してポーション作りの依頼を受けた俺は、材料集めを開始することに。
報酬なんかどうでもいい。俺の命が懸かってる。
そういえば、
「ブラッド、ゼイン……お前らは?」
「本気で聞いてます? 当然ながら、親分の窮地とあらば助太刀いたしやす」
「兄貴の言う通りっス、親分に協力するっスよ!」
どうやら無条件で協力してくれるそうだ。子分とはいえ、助かるな。
えっと、必要な材料は『火の魔石』と『ガーゴイルの翼』に『リスキーマウスの尻尾』だな。
そうと決まりゃ、
「ブラッド、俺と来てくれ。また町の変なのに絡まれたらお前の力が要る。リスキーマウスの尻尾を取りに行くぞ」
「了解しやした」
「ゼイン、お前は『学園』に行ってくれ。ガーゴイルの死体がわんさかあるはずだ。騎士団が掃除してるかもしれんが、俺の名前を出せば翼をくれるだろ」
「了解っス」
「残りのモブ子分たちは、火の魔石ってのがどうやって手に入るのか調べてくれ。じゃ解散!」
「「「おう!」」」
俺は自分でもビックリするくらいのリーダーシップを発揮し(火事場の馬鹿力ってヤツ?)、ブラッドとともに夢のマイホームまで戻ることにした。
▽▼▼▽
▽ ▽
私は『殺人貴族』とも呼ばれるベルク家のメイド長を任された女――ジキル。
今は、アルドワイン様のご命令に従って雇った、二人組の殺し屋と共にいる。
「いいか、ベアヘルム、そしてハイド。これは新聞を切り抜いたものだ」
殺戮対象となるマコト・エイロネイアーの似顔絵。
それを私から受け取ったのは、二人組のうち体が大きい方――ベアヘルムだ。
「うーむ。とても強そうには見えんな。ジキルとやら、お前も戦闘員なんだろう? お前一人で充分じゃないのか」
ベアヘルムの言う通り、確かにアルドワイン様はマコト・エイロネイアーの実力を信じていない。
しかし、
「いくらアルドワイン様が権力と財力を持っているからといって、マコト・エイロネイアーのような有名人を関係者が殺すと、流石に揉み消すのに苦労する」
「うーむ」
「だから私が殺すのは最終手段にする、とのこと。あなた達もなるべく目立たないように……血の気が多いのは承知しているが」
「うーむ……ふふ、血は好きだ」
大男ベアヘルムは――熊の獣人。
つまり人間ではない。人間と同じように動くが、動物の熊の特徴も併せ持つ。
ベアヘルムが笑顔を見せると、口内の鋭い牙たちが姿を表した。
「ヒャッハー!! 殺すぜ、殺すぜ! マコト・エイロネイアー!」
「うーむ。騒ぐな、ハイド」
そしてベアヘルムの相棒である、ベアヘルムに比べれば小柄な男――ハイド。
『狂犬』の異名を持つハイドだが、彼は狼の獣人。好戦的な性格は、まぁ見ればわかるだろう。
「――お? おい! おい! いたぜ、いたぜ! マコト・エイロネイアー見つけたぜ!」
「何!?」
これから色々と説明をする予定の私だったが、狼らしく舌を出して喜んでいるハイドの言葉に驚いた。
こんな路地裏から……本当に、今、マコト・エイロネイアーが横切ったのが見えたから。
何という巡り合わせ。
「うーむ。尾けるとしようか、ジキル」
「ええ」
早くも飛びかかろうとする『狂犬』ハイドを押さえながら、ベアヘルムは冷静に尾行を始める。
私もついていくが――やがて、マコト・エイロネイアーはボロボロの建物へ辿り着いた。
「よぉ、ミーナ! 調子はどうだ? ちょっとリスキーマウスの尻尾を持ってくぜ」
「マコト様! ……えっ、まだ右腕が! リスキーマウスは黒焦げですが大丈夫ですか?」
建物を掃除していたメイドのような服装の女に、マコトは親しげに話しかける。
黒焦げの魔物の死体……のようなものが見えるが、刃物でその尻尾を切り落としているようだ。
「尻尾はそんなに焦げてねぇ、オーライオーライ! ほいっ、ブラッド尻尾運んでくれ」
「へ、へい……毒は無いですかね?」
「毒は前歯だけだろ! ビビってんじゃねぇ!」
「すいやせん!!」
魔物の尻尾を回収し、またどこかへと走り去ろうとしている。
ブラッド? あの大男はマコトの手下のようだが、聞き覚えのある名前だ。
「うーむ……あれはBランク冒険者のブラッドか。あんな男を従えるとは、マコト・エイロネイアーの実力は侮れぬな」
「ヒャッハ……んー! んーんー!」
そうか、Bランク冒険者のブラッドか! どうりで聞いたことがあると思った。やはりマコトは本当に魔王を殺した男なのだろうか……
叫ぼうとするハイドの口を塞ぎながら、ベアヘルムは冷静に分析をしている。
「よしブラッド、さっさとギルドに戻――」
「マ〜〜〜コ〜〜〜ト〜〜〜!!!」
「え?」
「親分、ありゃあ……」
ギルドとは、冒険者ギルドのことか。
冒険者ギルドに向かおうとしていたらしいマコトに向かって、奴の名を叫びながら猛然と走ってくるのは――金髪の少女??
「マ〜コトぉ〜〜〜〜!! 新聞読んだよっ、私だってマコトと一緒に戦えるもん!!」
「プ、プラム!? クソ、追いつかれたか!」
「やっぱりプラムちゃんか。親分、どうしてそんな反応なんです?」
「『新聞の件』にあいつを巻き込みたくねぇからだ! せめて夢のマイホームが手に入るまでは、まだ関わるワケにゃいかねぇ! ブラッド逃げるぞ走れ!」
「なるほど了解」
「あっ逃げるなマコトぉ〜〜〜!! そしてブラッドぉぉぉ!!」
「ちょ、俺まで追加されやしたが!?」
あの少女もどうやらマコトと親しい人間のようだが、マコトとブラッドを追って走っていく。
三人は冒険者ギルドへ行くのだろう。理由などわからないが。
「ミーナっ、その調子で掃除頼むぜ!!」
「が、頑張りますマコト様!!」
――ただし、同じく親しげなあのメイドだけは、ボロ家の掃除の為に残るようだ。
ということは、つまり。
「あのメイドは人質として使える……そうは思わないだろうか、ベアヘル――」
ベアヘルムに話しかけたつもりだったが、横を見ても、先程まで一緒にいたベアヘルムもハイドもいなくなっている。
一体、あの二人組はどこへ………………あっ。
「うーむ、相手にとって不足無しとはこのこと! 俺の牙の餌食にしてくれる、マコト・エイロネイアー!」
「ヒャッハーァ! 殺そ! 殺そ!」
大声で叫び散らしながら、ベアヘルムとハイドは人目も気にせず走っていった。
マコト・エイロネイアー達を追って、冒険者ギルドの方向へ。
二人とも完全に『野生の肉食獣』の顔をしていた。本能が丸出しだ。あれで殺し屋なのか。
「血の気が多いとは聞いたけど……そんなに??」
私は呆然と、その場に立ち尽くしていた。
頭を抱えたい気分だ。




