#2 俺の能力と、フィー先生
「はい、はい! フィー先生の彼氏!」
「「「あははははっ!」」」
あのアールとかいうクソガキ生徒め、懲りねぇな……だから俺の名は、
「アールくん失礼ですよ! この方は魔王討伐を果たした救世主マコト・エイロネイアーさん!」
「ちぇーっ。フィー先生、そのおっさんの味方じゃんかーっ」
「別にみんなの敵じゃないですっ! 何度も紹介してるのにふざけてるからでしょ!」
「はーい」
なんだ。
俺の代わりに頬を膨らませた先生が答えてくれてやがるぜ。悪くねぇ気分。
「残念だったなクソガキども。この先生はどうやら俺のファンで、俺につきっきりで味方してくれるらしいぜ! 羨ましいか〜!?」
「子供たちのこと『クソガキ』って呼ぶのやめてくださいマコトさん! 衛兵に突き出しますよ!?」
「全然味方じゃねぇ!」
「「「ぎゃははは!!」」」
ま、ある程度は生徒さん思いの良い先生……であることを願ってる。
話が横道に逸れまくりだ。ってか横道多すぎるわ。そろそろ始めるとするか。
「――まぁまず、ご紹介に与った通り。俺は異世界から飛んできた超常の存在なのさ」
ゆっくりと俺の人生を語っていく。
そう。
俺は日本人。コンクリートジャングルから今話題の『異世界転移』をして、このファンタジーな世界にいるわけだ。
あー、今の段階じゃここがファンタジーな世界だってのは意味不明かもな。
要約すりゃ、まぁここは『剣と魔法の世界』さ。危険な『魔物』もいるが。
「細かい事情は面白くねぇから省くが……女神様ってのがこの世界の上の世界『神界』に存在してな、そいつが俺を呼んだんだ」
その際、自分に関する記憶がぶっ飛んだ。これにも色々事情はあったんだけどな。
自分に関するってのは例えば本名(マコト・エイロネイアーってのは女神様から貰った名前だ)、家族のこと、住んでた場所、どんな仕事をしてたのか、とかか。
ただ一つ思い出しちまったのは、俺は日本で『クッソ無能で怒られてばかりのサラリーマンだった』……というクソ情報だけだ。
妻や娘がいたって話もあるが……その辺は結局よくわからん。
「前に俺が住んでた『ニッポン』という国は、剣も魔法もありゃしない、みんなイ○スタの写真取ったりタピオカ飲んでたりって平和ボケ国家だった……まぁ格闘技とか強い奴もいるけどな? 俺なんか平和ボケの極みだったワケよ」
急に、母国語ならぬ母世界語がめちゃくちゃ出て来て混乱してる生徒諸君。
でも俺は続けて、
「というわけでこの世界では生きてけねぇからと、女神様は俺に二つの『能力』をくれた。『能力ガチャ』とかいう代物のレバーを二度回してな」
俺以外にも転移者はいるが、みんなに能力を二つずつ授けてる。
「まずはこれ。見ろ」
教卓を軽く持ち上げる――左手の小指一本で。
「「おお……!」」
あんなに生意気だった生徒たちから感嘆の声が聞こえる中だってのに、
「アッッ! あぁ小指つったわイデデデデッ!」
「「「カッコ悪ーい!!」」」
ガシャーン、と教卓が雑に床に落ちちまった。だってしょうがねぇだろ痛ぇんだよ。
ちょっと調子乗ったなこれ。
「とまぁ、これが一つ目の能力《超人的な肉体》ってワケで」
「……教室壊さないでくださいよ? 超人さん」
隣の先生がジトーッとした目で俺を見てくる。
よし、俺自身の特殊能力『周囲に迷惑を掛けまくる』を喰らう覚悟があるんだな先生?
「わかったわかった。フィー先生後ろ向いてくれ」
「は、はい? 何ですか急に」
「いいから」
俺のこと信用してないですよ〜感が満載の目で睨まれながらも、俺は先生に後ろを向かせることに成功した。
――右手にハサミを生み出し、チョキッ。
「……え?」
「これが俺の第二の能力《能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました(笑)》だ!」
俺が武器だと思うモノ何でもをこの手から生み出し、使役する面白ぇ能力だ。
俺は想像力がスゴいらしく、他の同能力持ちの転移者よりも色んなものを生み出せるそうな。
先生はシュバッと振り向いてきた。素早いな。
「えっ!? 武器!? その手の物は!?」
「ハサミ」
「そんなことはわかりますっ! 今何し……あっ、水色のものが落ちてる……まさか私の髪切ったんですか!?」
「ポニーテールの先っちょだけ」
「何してくれるんですかぁぁ!? 普通に変質者のすることじゃないですかぁ!」
「俺とお前の仲だろ?」
「さっきお会いしたばっかりですぅ!! このハサミは没収ですっ!」
本当に五センチくらいしか切ってねぇけど、プンスカが止まらねぇ先生は俺のハサミをぶん取ってきた。
あ、これって元の世界じゃ犯罪だったか? 異世界でもか? とにかく良い子は真似するなよ。
ハサミをぶん取ったフィー先生だが、
「あら、失くなった……? そんな、たった一瞬でどこに!?」
そのハサミが先生の手から一瞬にして消失しちまった。意味不明だろ?
理解してる俺はニヤニヤをどうにか隠しながら、
「おいおい! 今のは俺の大事な大事なハサミなんだぞ先生!」
「え、す、すみません……あなたの物を紛失させるつもりは無くて……」
「どうしてくれんだ!?」
「ごっ、ごめ……」
「俺の祖母の形見なんだぞ! あっ、唯一の!」
「ごめんなざっ……こんな事になるなんて私、思いもしなぐで……っ」
泣き始めた先生と、修羅場を見させられてスゲー気まずそうな生徒達。
事情を全部知ってるプラムは一人、席に座って呆れてるワケだが。
そりゃそうだ。
「まぁ生み出した武器は俺の手から離れれば消えるし、同じのもまた何度でも出せるし、祖母の形見でも何でもねぇハサミだけどな」
――『武器ガチャ』名乗ってるだけあってハズレが出ることもあるが。
とりあえず、もう一度右手に同じハサミを生成してやった。
「って嘘まみれじゃないですかっ! 最低ですマコトさん! 私の涙返してくださいよ!」
「いやもう涙止まってるじゃねぇか! お前、今の嘘泣きだったろ!? そうなんだな!?」
「はい」
「返事を急に静かにするな怖ぇから!」
何だこの先生。
演技上手すぎだろ女優目指せよ。
――もう一度生み出したハサミも投げ捨ててやると、青白い光となって世界から消滅した。
この能力は武器を生み出しては使って捨て、また生み出しては使って捨てるってヤツなんだ。
転移初日からずーっと愛用してるからすっかり慣れちまったが、変な能力だわな。
ってか、
「さっきから思ってんだが『フィー先生』ってのは何なんだ?」
「そのままですよ?」
「あー、お前『フィー』って名前なのか」
納得。と手をポンと叩いた俺だったが、フィー先生はまた頬を膨らませて、
「そのままっていうのは渾名という意味ですぅ! 私の名前はフィーナン! 本来はフィーナン先生なんですよ!」
あぁ、何だ。
よくある生徒が先生につけるニックネームか。
にしてもこのフィー先生、妙にイジり甲斐があるな……