#18 どっかで見た展開
「……着いた。待ってろよポーションの依頼!」
右腕を猛毒に汚染されたこのマコト・エイロネイアーが、すぐに解決してやるぜ。
解毒のポーションって『おこぼれ』に期待してな。
――冒険者ギルドに到着した。
冒険者はここで依頼を受注するし、依頼達成後の報酬もここで受け取るんだ。
しっかし、
「相変わらずどいつもこいつも酒飲んでんな……」
昔、誰かから聞いたな。『冒険者ってのは腕っぷしが立っていて自由を愛する者がなる職業』みてぇなこと。
誰だっけ。忘れちまったが、まぁその通りだ。別に毎日働くこともねぇし。
ギルドに寄るといつも、いかにも一般社会から追い出されそうな荒くれ者たちが酒を飲んで大声で楽しそうに語らってる。
そう……荒くれ者が多い。
「さっさと依頼を見つけねぇと」
以前にもトラブルがあったことを思い出し、俺は依頼が書いてある紙が貼り出されている壁へと早歩きで向かう。
もう俺は文字が読めるんで誰かに頼む必要もない。急いで探して――
「おうおうおう! 新聞のまんま! その格好目立つなぁ!」
「みんな見てみろよ!」
「貴族に命を狙われてる『救世主』マコト・エイロネイアー殿だぜ! ぎゃははは」
「……勘弁してくれ」
ほら見ろ。
もう俺の周りに人だかりができちまった。しかもチンピラみてぇな性格の悪そうなヤツばっかりだ。
俺は紫色になっちまってる右腕を隠し、
「何の用だ? 俺は冒険者、仕事しに来て何が悪いってんだよ」
「噂通りの生意気なジジイだぜ!」
「ちょっとギルドカード見してみろって!」
「あ!? おい盗るんじゃねぇよ返せ!」
チンピラ冒険者の一人が、俺のポケットに入れていた『ギルドカード』をスりやがる。
ギルドカードってのは冒険者ギルドに登録をしたことを示すもので、自分の冒険者としての『ランク』なるものが書いてある。
「これも噂通り……見ろよ。マコト・エイロネイアーはDランクだ!」
「はぁ!? ぎゃはははクソザコじゃねぇか!」
冒険者ランクにはA、B、C、D、Eとあり、想像つくかもしれんがEランクから始まって、まぁ一個ずつ上がっていくワケだ。
何で異世界にアルファベットがあるのか? そこはスルーでいこう。
とにかく、あいつらの言う通り。俺はまだ下から二番目のDランクだ。
……忘れてたが、ランク相応の依頼しか受けられねぇとかあったっけ。
ポーションの依頼はDでも大丈夫だろうか。
いや、今はそれどころじゃなさそうだ。
「マジ!? 俺だってDだぜ! 『救世主』と同じランクだ、俺最強!」
「俺なんかCだ! 格上じゃーん!」
いかんな、マジで面倒くさそうだ。
ランクを上げるにはたくさん依頼をこなす必要がある。俺はそれほどじゃないからランクが上がってねぇまんまなんだが、
「ランクなんかどうでもいいだろ? 悪いが急いでる。ギルドカード返してくれ」
「いやぁ、良くないね」
「俺たち信じてねぇんだよ。そんな低ランク冒険者ごときが、魔王を殺したなんてなぁ!!」
中途半端な有名人ってのも楽じゃねぇ。
ったく、魔王を殺したことに冒険者だの職業だのは全くの無関係だってのに。好き放題言いやがって……
「おい詐欺師ぃ、ちょっと俺たちに付き合えよ」
「冒険者ってのはストレス溜まるんだ」
「邪魔すんな! 離せ!」
俺をサンドバッグにする気のようで、俺の左肩を掴んで引っ張ろうとしてくるチンピラ冒険者ども。
その手を振り払うが、
「抵抗しやがって! 有名になって調子に乗ってんだなぁ!?」
「頭が高ぇ! ぶっ殺してやろうぜ!」
「やめとけって……なぁ穏便にいこうぜお前ら」
「はぁ!?」
「ってか右手に何か隠してんのか? 怪しいなぁ、見せろよオラ」
どんどん話がややこしくなってきた。
右腕は見せたくないワケじゃねぇが、もし少しでも触れたらこいつら一瞬で死んじまうんだろ?
こんなクズどもが死んだところで俺は悲しくないが、殺人する意味がねぇ。だからやらねぇ。
しかも騒ぎを起こしたりすると冒険者登録を剥奪される可能性もある。クソが。
「やっちまえ!」
「嘘つき『救世主』はお仕置きだ!」
しかし、この状況はマズい。
今にも俺の顔面にパンチが飛んできそうだと思ってた、その時。
「てめぇら……何してんだ?」
明らかに巨漢の男が、チンピラ冒険者どもの背後から歩いてくる。
いかにもな悪役顔。ドレッドヘア。鍛え抜かれた筋骨隆々の肉体。
「あ、あんたは……!?」
「ブラッドだ……Bランクの、ブラッドだぁ!」
「何で急に!?」
そう、チンピラどもが恐れおののいてる大男の名はブラッド。俺の知った顔だ。
――最近知ったんだが、今のサンライト王国の冒険者ギルドには最上位のAランク冒険者は不在だそうだ。
つまりBランクが一番高く、一番強い。ブラッドはそこに属する。
どうしてそんなヤツが乱入してくるのかって?
それはブラッド本人が言うさ。
「『急に』じゃねぇんだよクソども……大切な人が困ってたら、助けに入るのが筋ってもんだろうが!!」
「「「えぇぇッ!?」」」
そうなんだ。
ブラッドは俺の仲間。というか、
「それ以上マコトの親分に手ぇ出してみろ……全身の骨を粉々にしてやんぞ!!」
「「「ひぃぃ!?!?」」」
「その人は俺が惚れ込んだ本物の強者! 魔王から世界を救った真の英雄! まさに『救世主』だ! 何も知らん情報弱者どもは消えちまえぇぇ!!」
「マジかマジかマジか!」
「何でDランクの子分にBランクいるの!?」
「割に合わねぇぇぇ」
「逃げろぉ! 殺されるぞぉ!!」
いつの間にか、俺の子分になっていた男だ。
チンピラ冒険者どもはブラッドの威圧感に震え上がり、ギルドから大慌てで逃げていった。
「相変わらず騒ぎの真ん中にいるお人だ……『救世主』なのが信じられない気持ちもわかる。親分、大丈夫ですかい?」
「お前がそれを言うのかよ、ブラッド。ありがとう、面倒事を起こさずに済んだ」
「……耳が痛いですぜ」
そういやぁ――俺が冒険者登録をしに初めて冒険者ギルドに来たとき。
初対面のブラッドが絡んできて、結果として殺し合いの大喧嘩に発展したんだったな。
懐かしい。
あんなヤツが今、俺を助けてくれている。
イイハナシダナー。




