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#17 災難

ちょっと今回は特に、話の流れが「?」となることがあるかもしれません。

…というのも作者の悪い癖で、ノリで物語を作っていると説明不足が多くなってしまい、その補足を無理やり今回に詰め込んだからです。


ご了承ください。







「マコト様、ご覧に」


「ん? こりゃ……」


 外でミーナが何かを発見。俺を呼び、腰を下ろして指差す先には……排水口? みたいなのがあって、そこに大きな穴が空いてる。

 誰か気づかなかったのかよ。大問題だろコレ。


「リスキーマウスは下水道から這い上がってきたのでしょうか。そのような話、聞いたことがありませんが……」


「ジャイロによると、魔王不在の今の世界は『不安定』だそうだ。そういうことなのか……?」


 そもそもこの王国にちゃんと下水道みたいなのがあることすら知らなかった俺だ。

 この世界について知ったようなことは、まだあんまり言う気にはならん。


 にしても、


「……マゼンタから貰ったこの新聞。街をよく見りゃ、確かにみんな同じようなものを持ってたり、読んでるぞ」


「すっかり広まってしまったようですね」


「ああ。俺、一度だってインタビュー受けたことないのに、あることないこと書かれてんなぁこの記事……マスコミはどこの世界でも同じようなことすんだな」


 貰った新聞を広げ、これを国民や仲間たちも読んでるのか、とため息。

 完全に忘れてたんだが、


「おっと……毒め!」


 俺の右手を侵食する毒が、開いた新聞にも広がって記事を紫色に染める。

 うっかり俺の左手やミーナに毒が伝染したらいかん、と新聞をポイ捨てする。


「クソったれ……出ちまったよ、俺の悪いとこ」


「大丈夫ですかその腕……壊死してません?」


「リスキーマウスの前歯に毒があるって知ってるんなら、俺は遠距離武器で戦うべきだったんだ」


 心配するミーナをよそに俺は反省していた。

 昔、どっかで言ったことあったが――俺はぜんっぜん武器ガチャを使いこなせてない。

 ある程度自分のイメージしたものを出せるってのに、どんな種類の武器をどんなタイミングで出せばいいのか、考えつかないんだ。


 能力は良いのに。俺の頭が良くねぇ。


「マコト様? あの、申し訳ないのですが、私では応急処置すらできそうになくて……そんな強力そうな毒、どう扱ったら良いのやら……」


 心配かけすぎたか。

 そうだよな、こんな目に見えてヤバい紫色の猛毒なんて対処しようがねぇよな。


「あ、あぁ、すまん。しかし参ったな。診療所でも取り合ってくれるかどうか」


「……そうだ! でしたら、マゼンタ団長にお聞きすると良いかもしれません! 博識なお方ですから」


「なるほどその手があったか。ってかあいつなら解毒の魔法とかできるかもな!」


「そうですそうです! では、私はこのお家のお掃除を致しますので! 穴の空いた屋根はどうします?」


「とりあえずそのままでいい、後で何とかする! 頼んだぞ!」


 俺はすっかり紫色に染まった右腕がどこにも当たらないように注意しながら、期待に胸を膨らませて魔術師団の寮まで走った。



▽▼▼▽



「……無理ね♡」


「あれ?」


 マゼンタ団長の反応は、俺の期待とは真逆のものだった。ちくしょう。

 単なる傷を癒やす回復魔法ならマゼンタはできるらしいが、解毒の魔法は専門外だそうだ。


「リスキーマウス……あの魔物の毒は、そんじょそこらの毒じゃないの。超強力な猛毒よ」


「マジ?」


「ええ、普通の人間なら掠った瞬間に体中に猛毒が広がってコロリよ♡」


「えぇ!?」


「まだ右腕までで済んでいるのは、マコトさんの体の並々ならぬ抵抗力によるものね」


「抵抗力……」


 恐らく俺の能力《超人的な肉体》の賜物なんだろう、感謝しねぇとな。


「痛くもないのかしら?」


「いや、ちょっと痛ぇよ」


「ちょっと……ね。呆れちゃうくらいの強さ♡」


 本当にちょっと痛いって感じなんだが、普通の人間だと一瞬で死ぬらしいから、まぁこれでも異常なんだろう。


「にしてもマゼンタ、このまま放っといたら死ぬだろ俺。『救世主』って呼ばれる奴がみんな命を簡単に捨てると思うなよ? 解毒の方法はねぇのか?」


「困ったわね、リスキーマウスの毒については議論されたことも無いから……」


 そうか、普通は一撃で死ぬから解毒の方法が見つかってねぇんだ。

 しかもそれほど強力な猛毒なんだから、普通の解毒方法じゃダメだしな。


「……そういえば、最近の発明に『ポーション』というものがあるのをご存知かしら?」


「……何だそれ? 『ポーション』?」


 どこか聞き覚えがあるのは、もしかすると日本でもファンタジーなものとして存在があったのかもしれん。

 ゲームとか、アニメとかな。


「説明が難しいけれど、種類によって様々な効果を持つ薬のようなものらしいわ。飲んだり浴びたりすると、モノによっては一瞬で体を癒やしたり、筋力を強化したり……解毒のポーションもあったはず」


「そんなのが最近発明されたと。異世界も便利になってくワケか……どこに行けば手に入る?」


「それが、私もよくわかっていなくて。心当たりは一つあるわ」


 マゼンタさえよく知らねぇとは、ポーションってのはまだ流通してなくて貴重っぽいな。

 って、え? 心当たりあるのか。俺は頷くと、


「マコトさんは冒険者だったわね。今なら冒険者ギルドに行けば、ポーション作りに関する依頼があるかもしれないわ」


「マジ?」


「まぁ、話に聞いただけだから、絶対にあるとは保証できないけれど……」


「いや、いいんだ。その可能性だけでも助かる」


 冒険者ってのは、冒険者ギルドに集まる色んな人からの色んなジャンルの依頼をこなし、報酬を得る職業のことだ。

 こんな形で職業が役に立つとは。とにかくギルドに行ってみよう。


「ねぇ、マコトさん?」


「……んあ?」


 可能性に賭けて急いでギルドへ走ろうとした俺を、マゼンタが止めてくる。珍しい。



「貴族に命を狙われても、あなたなら大丈夫だろうとは思うけれど……良かったの?」


「何が」


「この世界は、あなたにとって『異世界』なんでしょう? 元の世界に逃げ帰る、という選択肢もあったんじゃないかしら?」


「…………」



 なるほど。


 命を狙われてまで、この世界に固執する理由があんのかってことか。俺ももちろん、そのことについては考えた。

 マゼンタも、俺をこの世界から追い出したいとかそんなことを言いたいワケじゃないだろう。


 まぁ、仲間もたくさんできたし、この世界は割と気に入ってる。

 が、話はそう単純でもない。



「知ってるよな? 俺をこの世界に送ってきたのは『女神様』なんだ。前までは女神様と好きな時にテレパシーが使えたんだが、最近は音信不通でな」


「あら……」


「女神様は、この異世界の管理に失敗しちまって――俺が魔王を殺したことが結果として尻拭いになったものの、女神様は世界の管理から外される可能性がある」


「…………」


「とても帰れる状況じゃないらしい……俺もよくわからんが」



 神々の話など人間の俺にわかるもんか。


 よく考えてみりゃ、異世界が『不安定』ということの原因にはこれも含まれるのか?


 『魔王が不在』、そして『神の管理問題』……もう異世界はメチャクチャだな。

 そこに俺個人として『ベルク家に命を狙われる』、『猛毒』という問題も追加されちまった。



 ……なんか、災難エグくねぇ?



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