#15 初めてのおうち
「到着ですね、マコト様」
「おう、確かに魔術師団の寮からそう遠くねぇ位置だ」
マゼンタ団長が貸してくれるというボロ家に到着した、俺とメイドのミーナ。
ほー、二階建てだ。
元は倉庫として使う予定だったそうだが、掃除が面倒にでもなったのかね。
「ひとまず中を見てみましょう。マコト様が気に入ったのなら、すぐにお掃除を始めちゃいますから!」
両手をグッと握ってやる気をアピールしてくるミーナ。カワイイじゃねぇか。
汚い見た目に反して意外としっかりしてるドアを開け、ギシギシと音が鳴る玄関へ。
……このボロボロ具合い、メイドの掃除だけで何とかなるか?
大工とか呼ばねぇとダメな気がするんだが。
一階をミーナとともに見て回る。
「なかなか広いな。作りはしっかりしてるし……」
「では、二階も」
元々俺って家とかに興味も無さそうだし、こだわりとかも無いからさっさと決めちまってもいいんだが。
まぁ普通は全部見てから決めるよな。と思いミーナの後に続いて二階へ上がるが、
「……ん?」
どうにも、他の生物の気配を感じにくいはずの俺が、とても、とても強く感じるぞ……
敵意を向けられてる感覚だ。
「おいミーナ、気をつけろ」
「へっ?」
「何かいるぞ、ここ。魔物かもしれん」
「えー? ちょっとマコト様、そんな急に冗談よしてくださいよー」
「い、いやいやホントなんだって!」
やべぇ、ミーナに冗談だと思われてる。
オオカミ少年よろしく、普段からくだらねぇジョークばっかり言ってるせいで信じてもらえねぇのか。
でも、もし魔物がいるとして、どこだ?
一階にはいなかったし、二階も今見て回ってるが、姿は見えない。
そもそもここは魔物を避けるため高い外壁に囲まれた、サンライト王国の王都。その中でもかなり中心の方にある建物だ。
魔物がここまで侵入してるなら、王都中がパニックになってるはず――
「きゃっ」
え?
嘘だろ、ミーナの声だ。
俺の後ろにいると思ったが……どこ行った? 今の一瞬で消えちまった。
「ミーナ? おーい、ミーナ!」
前後左右キョロキョロと探し回る。
おかしいな、と思い上を見ると、
「あ!?」
ミーナの足が天井へ消えていくのが、ほんの一瞬だけ見えた。
そうか。屋根裏か。
「マズいな。ハシゴみてぇなの出してもどっから登ればいい? と、とにかく武器ガチャよ、上に登れるものをプリーーーズ!!」
手を合わせて祈る。
ポン、と何かが召喚される音が聞こえる。しかし、手には何も生み出されてねぇ。
ちょっと動いてみると、背中に何か背負われてる。
リュックサック? ランドセル? 違うな、やけに重いぞこりゃ。
「まさか……ジェットパックか!?」
驚いたな。ジェットの噴射で空を飛ぶ機械……みたいなやつだっけ?
とにかくこれなら上に行ける。
ってか、
「こんなの武器として出るんなら、マザーガーゴイル倒すとき、アバルドやジャイロを踏んづける必要無かったような……」
あの時の苦労返せよ。
どうしてこれが武器として判定されるのかよくわからなかったが、
「このボタンを押すと上昇……っておい!? おいおいおい速すぎる! 待て待て待て――」
とんでもねぇジェットの噴射力、ものすごいスピードで俺は真上に飛んでく。
「ぼがぁッ!?」
結果、頭で天井を突き破る。痛い。きっと脳天から出血してる。ハゲそう。
そのまま、
「うわあああああああああああ!!」
「チュー!?」
「きゃあ!?」
何か生き物の腹っぽい柔らかいものに頭突きし、そのままジェットの噴射力で、生き物ごと屋根の上へ飛び出しちまった。
――こんな速度で頭突きさせられるんだ、ジェットパックも武器判定されるワケだ。
ってか「チュー」って何!? ネズミ!?
「うお!」
ジェットパックが俺の背中からすっぽ抜けて飛んでいき、消滅する。
俺は何とか家の屋根に着地、ミーナを攫いやがった野郎と向かい合い……
「チューゥゥゥ!!!」
「やっぱネズミだな! 突然変異のネズミか!?」
ネズミとはいえ、長い尻尾でミーナを捕らえるあいつは三、四メートルぐらいの茶色い巨体を持ってる。
突然変異のネズミかと思ったが、
「マコト様! これは魔物です!」
「やっぱ魔物か」
尻尾に捕まってるミーナが、必死そうに喋ってきた。こいつのこと知ってそうだな。
「確か名前が……リスキーマウスです!」
「えっ!? 名前が危険!!!」
あのネズミ、色々な意味でヤバすぎるだろ! 特に名前が! 消される!!
それにしても、魔物がどうしてこんなとこにいるんだよ。とにかくやるしかねぇけど。
「チューウウウウ!!」
――かくして俺は、ミーナを救い、俺の新しい家を取り返すために、
ミッ…………
じゃなくて、リスキーマウスと戦うハメになった。




