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#EX7 ビーチバレー

ラス前です。

次回、本当の最終回です。大したことないです。







 フィアンヌとかいう、水色の髪に青いウロコな若い女の人魚が、唐突に俺にパンチしようとしてる。

 遠慮が全く感じられねぇんで、


「後悔すんなよ」


「誰がっ!!」


 白いオーラを纏わせ、俺も拳を合わせる。

 その瞬間、



「うあっ!!」


「えぇ!? フィアンヌ〜〜!!? あの人間どんだけ強いカニ!?」



 フィアンヌは耐えられず吹っ飛んでいき、海へ逆戻り。

 なんか、喋るカニがさっきからウロチョロしてるような? 気のせいだよな。


「何あいつ……この忙しい時に! あんな強い奴の相手してる場合じゃない!」


 変なセリフが聞こえたが、海面にいるフィアンヌの後ろから何かが泳いでくる。

 あの背ビレ……サメか!?


「普通の生き物ではありません! 魔物です!」


 ルークが叫ぶ。何だよクソ、海にも普通に魔物いんのかよ!


「ちょっとあんたたち! 関わる気が無いんだったらさっさと消えてくれる!?」


「あぁ!?」


「あれは『毒鮫(ドクザメ)』! 海を毒で汚染する最低の魔物なの! 追い払わなきゃいけないから邪魔を――」


 俺は飛び出す。

 海面に浮かぶ喋るカニを踏んづけ、


「うべぁッ!?」


「シュピロ! 人間、何する気!?」


 踏み台にして跳び、同じく海面からジャンプしてくる毒鮫(ドクザメ)と相対する。

 紫!? 本当に毒々しい色だし、体もデケェぞ。


 だが敵は他にもいて、


「いてて……って、来た! 『サハギン』だカニ!! 向こうから三体!」


「マコト、囲まれてるよ!」


 シュピロとかいう喋るカニが魔物の名を叫び、プラムが俺に注意してくれる。

 チラッと横目に映るのは半魚人みてぇな、魚の頭をした人型の魔物ども。三つ又の槍を持ってて殺意ビンビンだ。


 砂浜から海面へとルークの氷魔法が走るのを確認してから、


「ボンッ!!」


 口から毒液の塊みてぇなのを吐いてくるサメ野郎に対し、俺はバケツを生み出す。

 毒液をバケツに全部受け止めて、


「おらぁ!!」


「「「ギャアアアアア」」」


 そのままサハギンどもにブチ撒けて、毒まみれにしてやる。

 ヤツらは海中へ逃げようとしたが、分厚い氷に阻まれて氷上でのた打ち回ることしかできねぇ。海を汚染するワケいかねぇからな。ナイスだルーク。


 で余所見してるとまた毒鮫(ドクザメ)が狙ってくるが、


「づあぁーーッ!!」


 氷のスライダーの上を、炎を噴射して滑ってきたジャイロの『不死鳥』が、サメ野郎を真っ二つに斬った。

 俺は海に落ちる。


「やっべ泳ぐなんて久しぶりすぎテ、バッ、オボゴボゴボボボボ」


「え、バカ!? マコトバカ!?」


 異世界でも川ぐらい見たことあるが、泳ぐ意味もねぇしな。元の運動神経も良くないらしい俺は沈んでいくんだが、


「ゴボゴ……ん?」


「ありがとう、人間。魔物を退治してくれて。それから、ごめんなさい。急に殴りかかっちゃって」


 人魚のフィアンヌが素早く助けてくれた。泳ぐの超速いなコイツ。

 感謝も謝罪も受け取るが、



「まぁ、俺たちは『綺麗な海』を見るためにわざわざ来たんでな。邪魔者にはご退場してもらわねぇと」



 という経緯で戦っただけだ。



▽▼▼▽



 さざ波の音。

 陽の光を反射して煌めく水面。

 寄せては返す波。

 綺麗な青の中に混じる、白波、泡。


「……」


 この世界って……この星って、地球と同じように丸いのかな。

 水平線が見えるが、その先がどうなってるのかなんて誰にもわからない。


 異世界で海を見るなんて、頭に無かったモンだから、凄まじく圧倒されちまう。

 何度も何度も日本で、海で泳いだことはあるだろうに。テレビでも、ネットでも、いくらでも見れるはずなのに。世界が違うってだけで、見た目はほぼ変わらねぇはずなのに。


 どうして……こんなにも感動するのか。


 もしかすると、四人でこうやって並んで砂浜に座ってるからかもしれねぇな。


「……」

「……」

「……」


 俺の横にいるジャイロも、ルークも……まさかのプラムまでもが、ただ黙ってボーッと眺めることしかできねぇようだ。

 無表情だが、やっぱり目はキラキラしてる。だから俺も釣られちまうのかも。


 ルークなんか――数日前の焚き火の夜、みんなが寝静まった後も……



『ずっと考えていることがあるのですが……』


『え?』


『僕らはこの世界の『現地人』であり、マコトさんは異世界からやって来た人……ですよね』


『何を今さら。そりゃそうだろ』


『いえ……魔王との戦いとか、この世界の問題じゃないですか。他の世界の人にばかり頼って、自分たちで解決できないなんて……みっともないかなぁ……って』



 そんな悩みを話してたのに。

 子供みてぇに『海』に夢中だ……俺、なんて答えたんだっけな。



『巡り合わせとか、運命ってモンがあるだろ』


『え?』


『半年前も今回も。女神様や、俺含めた転移者の問題……闇の心臓の問題でラムゼイが狙ってたのも俺。これにお前ら現地人が振り回されただけとも言える……異世界だけの話かと聞かれると、俺は疑問だね』


『……!』


『……犠牲はあったさ。でも……もう起きちまったことだ。これからも……俺や、神様がいる限り、何が起きるかもわからねぇ。もっと酷いことがまだまだ起こるかもしれねぇんだぞ?』


『……』


『ほとんどのパターンで――運命ってヤツは牙を剥いてくる』


『!!』


『半年前――エバーグリーンは一人で魔王に戦いを挑み、幹部ども複数人に袋叩きにされて負けた……だから俺たちは全員の力を合わせて魔王軍を倒した。今回の戦いだって――当然だが俺一人じゃどうにもならなかった。またしてもみんなで力を合わせたワケだ』


『……』


『抗える運命だったらよ、抗った方が良いと思わねぇか?』


『そ、それは……』


『世の中なんて理不尽なことばっかりだ。ズルして良いぜって宣言されたら、俺は率先してズルしまくるけどな――仲間を守るためなら特に』


『合法的な、ズル、ですか……』


『ああ。合法で、人のためになる、ズルだ』



 あいつが俺の答えに納得したかどうか知らんが、どちらにせよ悩みなんて吹っ飛んだろうな。

 こんなにも雄大なんだ。自然って、すげぇ。俺のPTSDコレクションも少し洗い流された気がしてきたところで、


「ねぇねぇ、人間たち」


「おぉフィアンヌ――お前、砂浜に上がってこれるのかよ!? ピチピチはねてる!?」


「魚みたいに言わないでよ。下半身の筋力には自身があるの……で、せっかく海に来たのに泳がないの、マコト?」


「あー……」


 水着回にはならねぇんだわ。

 なんたって水着、無いから。泳いで遊ぶとかそういう文化も無いからな。温泉じゃねぇんだから裸になるのも変だし。


 そうなるとこれで目的達成、あとは帰るだけってワケだが……ちと寂しさもあるな。

 ドラコとポンプ、馬もいねぇし……


 あ、カニが近づいてきた。

 プラムは興味津々らしく見つめてる。


「人魚を目にしてこんなに冷めた態度をする人間、初めて見たカニ。っていうかオッサンさっき私を踏んだカニね……今回だけは許してやるカニが」


「……ね〜、あなたが『カニさん』ってやつでしょ? 何でしゃべるの〜?」

「異世界でもカニって喋らねぇのか?」

「しゃべるわけないじゃん。バカなの?」

「プラムお前さっきから俺にバカバカうるせぇな……調子乗ってると沈めるぞ」

「どこに!? 海に!? やめて!?」

「じゃあ埋める」

「砂浜!? やめて!? ごめんて!」


「……プラムちゃんから質問された気がするカニが、説明して良いカニ?」


「あ、いいですよ。そちら二人は気にせず」


「この私が喋れる理由とは――気合いだ、気合いだ、気合いだ!! カニ!!!」


「へー。気合いでなんとかなんのかー」

「そういうこともありますよねー」


「反応薄ッ!!?」


 これでも俺たちは疲れ切った戦士たちなんだぜ? この世界を二度救ったんだから、お前らの命も二度救ってる――と言ってもいいが、まぁ恩着せがましいことはしねぇ。

 でも良いリアクション求めんな。


「……そうだ」


 この人数なら可能か?

 一つ、やってみてぇことがあるかも。


「フィアンヌ、シュピロ。ボールあるか?」


「は?」


「ほら、この世界のヤツらだって、球を投げたり蹴ったりして遊ぶことあるだろ」


「球……」

「ああ、フィアンヌのサンゴ礁の家を探せばあると思うカニ」


 まぁ俺だって別に好きとか詳しいとかじゃねぇけど、せっかくの海。

 せっかくのビーチだ。



「ビーチバレーすっか」



▽▼▼▽



 フィアンヌからボールを借り、流木と海藻でネットを作る。

 そしてルールを適当に説明して、


「始めるぞ!!」


 試合開始。

 俺はジャイロ、シュピロとチーム。

 つまり相手はプラムとルーク、そしてフィアンヌなんだが、


「プラム」


「まっかせて〜!!」


 ルークとプラムの連携がすげぇ。流れるようにこっちにボールが飛んでくる。


「うおー!」


 ただジャイロが熱血タイプなんで、砂の上をスライディングしまくって防いでくれる。

 俺も負けじとボールを叩き込むが、


「ふんっ!」


 フィアンヌのパワーが侮れねぇな。

 うわ、あいつが攻撃してくるぞ。


「おりゃああ!!」


「あばぶぅぅッ」


 すげぇ勢いのボールがシュピロを直撃。

 カニなりに頑張って打ち返そうとしてたが、あえなく砂に沈められた。


 ――最初は意外と試合の形になってるように見えたんだが、やっぱ知ってるのがニワカもいいとこな俺だけだし……

 だんだん崩壊してきた。


「ぐあぁぁお」


「ぎゃー!!」


「え〜〜〜〜っ!!?」


 なぜかジャイロがネットに突進して破壊、なぜかフィアンヌが海から水流を持ってきてフィールドは滅茶苦茶、いつの間にかシュピロがボール扱いになってたり……

 でも、


「だぁはははは!!」


「あっはっはっは!!」


 なんか楽しいなぁ。

 どんどん楽しくなってきた。



▽▼▼▽



「マコト様ぁぁ寂しかったですぅぅ」

「ちょいちょいマコトっち! 『海』じゃんかこれ! 見つけてたんだ!?」


「ん? あぁ……お前らか」


 もう夕方。

 海もオレンジ色になってきた頃。


 砂浜で、壊れたビーチベッド的なイスを見つけて寝っ転がってた俺は、ポンプとドラコに発見された。


「いやいや『あぁ……お前らか』とか渋い声で言うとる場合かい! 他のみんなは!?」


「見ろよ。ビーチバレー中だ」


「あ……皆さん球を持って駆け回っていますね。もしかしてマコト様の世界の崇高なる遊戯ですか!?」


 もはやバレーでも何でもねぇ、意味わからんことになってるが。

 俺はオッサンだから若者どもについていけなくなったが、あいつらはボールを奪ったりパスしたりしながら走り回ってる。

 遊戯かと聞かれたんで、


「んん、まぁ……競技か?」


「競技ねぇ……今どっちが勝ってるの?」


「だいぶ前から点数とか考えてねぇ」


「えぇ……」


「お前らも混ざってこいよ。あの人魚とカニも気のいいヤツらだ」


「っしゃあっ! アタシも一肌脱ぐかぁ!」

「わ、私はマコト様とも遊びたいですぅ」


「俺ももう少し休んだら行くよ」


「な、ならばお先に!!」


 ドラコとポンプも二人きりの間に何だかんだ仲良くなったのか、揃って駆けていく。

 二人を迎え入れるプラムも、ルークも、ジャイロも、フィアンヌとシュピロも……


 みんな、笑顔だ。




「……最高の思い出だな」




 さて、また俺も混ざるかね。


 ――真っ暗になるまで、俺たちの謎ボール競技は楽しく続いた。

 フィアンヌとシュピロとのお別れも、ちょっと寂しかったな。



『人間好きじゃなかったけど、考えが変わったよ!』


『プラムちゃん、みんな、また会おうカニ!』



 また海に行けるかなぁ。

 先のことはいつだってわからん。


 ――ちょっとボロくなった馬車の荷台に乗って、俺たちはサンライト王国への帰路についた。



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