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#EX2 ツァーリ・ボンバ



 『闇』『光』『超人』『愛』の入り混じった"最強無敵モード"なんだが、


「メタ的に考えて、ずっとこの状態でいられるワケねぇよな」


 だからプラムも急いでサンライト王国に行ってもらった。

 んで無敵だからと調子に乗って、両手にツァーリ・ボンバ抱えちゃってるんだが……


「マコトおじさん……その大きい物は……?」


「これ、爆弾。〈混沌世界(カオス・ワールド)〉ごと敵を葬るぜ――ということはコイツが起爆する()()俺たち外に出ねぇとな……」


「えっ!?」


 敵を殺した後ゆっくり『裂け目』に行けばいいという全員の認識が、なんかちょっと違ってきちゃってリリーも驚いてる。

 そもそもこんなヤバい爆弾、ここが閉じられた世界だから生み出したってのもあるし。



「……そうだ、私が皆を運ぼう。〈巨人化(きょじんか)〉」



 俺が闇世界を壊しまくったからラムゼイの支配力が弱まったらしく、ウェンディがみるみるデカくなっていく。

 おお『裂け目』に手が届くぞ。いいなぁ。


 ウェンディは仲間たちを手に乗せていく。

 ブラッドにドラコ、ぐったりしたリール。

 そしてリリー……



「……ごめんなさいっ、やっぱり……!!」


「リリー!? どこ行くんだ!?」



 急に走り出した。せっかく脱出できるってのに、どうしちまったんだ。

 困惑しながらもウェンディが皆を『裂け目』に突っ込むと、



「ん!? ……ラムゼイ!!」


「そこを……どけぇ……ウェンディちゃん……俺は……俺は、まだ……」



 唯一の『裂け目』から外に出ようと、片腕片足のラムゼイが空中を泳いでくる。

 どうやら世界が破壊されて『虚無』だらけになると、ちょっとした無重力状態になる空間があるらしい。俺も体験してぇな無重力。いや今の俺空飛んでるけども。


「ふざけるなっ!!」


「ブホォ……ッ」


 バレーボールのスパイクみたいに、巨大ウェンディがラムゼイを打つ。虫かよ。

 すげぇ飛んでったぞ。笑える。


「ウェンディ先に行け!」


「良いのか!?」


「あとはリリーだけだ、俺が何とかする!」


「……では頼んだ!」


 『裂け目』の縁を掴んだ巨大ウェンディは縮んでいき、掴んでぶら下がる状態に。そのまま向こう側へ入っていった。

 そんでリリーが向かった先は、



「――フィーナン先生!!」


「助ける気かよ……?」



 純粋すぎるぜリリー。そいつだって立派な敵だろうが。

 ……でもなぁ……ガーゴイルから体を張ってプラムとリリーを助けたのは……何だったんだ? 混乱してきた。



「ぁ……ダメよ……リリー、ちゃん……何を、する気……」


「助けるんです! 先生を!」


「だ、だって……私はあなたのことを……取り返しのつかないことを……」


「いいんです! 先生は先生です!」



 その言い方……まさかリリーのことをデカい鳥の魔物に変えたのって……



「――マコトさん!!」


「ん?」



 『裂け目』の方から呼ばれた。

 見てみると、それは長いロープを持って入ってくるアバルドだった。


「お前……」


「プラムさんに言われ、長くて頑丈なロープを持ってきたであります! そちらのお二方も救助するでありますか!?」


「……ああ、そうだ! 頼む!」


 フィーナンが驚愕の目で俺を見てきてるのがわかる。

 しょうがねぇだろ、リリーが優しすぎるんだから。とりあえず助けておくよ。


 動けねぇし助かる気も無ぇフィーナンをロープに巻き付け、俺とリリーもロープを掴む。

 アバルドが上の『裂け目』に合図するとロープが引っ張られていくんだが……




「ヴァァァァ――――ッ!!!」




 上空でラムゼイが、また猛スピードで『裂け目』に向かい始めた。

 ツァーリ・ボンバ投げてぇんだが……今投げると巻き込まれるんだよな……


 ん?


「おいアバルド!?」


「……」


 あいつ、無言でロープを登り始めたぞ。

 しかもラムゼイが近づいてくると、わかってて……まさか?



「ッ!!」


「うぐ! ……小隊長ォォ!」


「そうであります――自分も、ラムゼイあなたも……『二番小隊』でありますっ!!」



 やっぱり。

 アバルドはラムゼイに飛びつき、空中で浮遊しながら羽交い締めにする。


 ヤツは気づいてるんだ。

 俺が持っているこの『武器』は……



「マコトさん! それは、前に自分を黒焦げにしてきた兵器と、同じような雰囲気を感じるであります……!」


「勘が良いじゃねぇか……アバルド」


「自分がラムゼイを『裂け目』に行かせないよう、止めているであります! 今の内に……()()()()爆破するでありますよ!!」



 ラムゼイを……アバルド諸共、爆破しろって?



「できるか、バカ野郎!! 俺がお前に贈ったアドバイスはどうなった!?」


「自分は役立たずであります……このぐらいしかできないんであります!」


「そんな役だったら立たなくていい! ラムゼイ投げてこっち来い!!」



 アバルドは強情だった。本当に覚悟を決めていたようで、



「自分は『二番小隊』の小隊長でありながら――ラムゼイもネムネムも魔王軍幹部だなんて気づかず……他の隊員も悪戯に死なせ……もう、自分だって報いを受けなければ……居ても立ってもいられない!!!」



 泣いてる。

 正義感の強いヤツだよ。お前の責任じゃねぇのに。そんなに背負わなくていいのに……


 四色のオーラが、揺らいでくる。そろそろ効果が切れるぞ。



「さぁ早く! 投げるであります!」


「やめろぉぉマコトぉぉ!! 小隊長――アバルドォォ!! 離せぇ!! 離せェェェ」



 この手のツァーリ・ボンバ……どうする。引っ張られるロープも『裂け目』に辿り着きそうだ。もう迷ってる時間が無い。

 頭上まで掲げ、投げる体勢にして、




「ダメぇぇぇぇ〜〜っ!!!」


「え?」




 羽交い締めの二人に、何かが高速で飛び込んできた。

 ……アバルドだけこっちに飛んできて、リリーが頑張って片手で捕まえてる。


 アバルドは自分でもロープを掴み、




「……ネムネム……? 何してるでありますか!」


「見ての通りだよ? 小隊長」


「あなたたち仲間なんでありましょう!?」




 今度は腹に風穴の開いたネムネムが、ラムゼイに背後から抱き着いて動きを止めてる。

 ど、どうして……




「ネムネム貴様ァァァァ!!」


「仲間……? 違うよ。私たちは『同じギルバルト・アルデバラン様に生み出された』……ただそれだけの関係」


「アァアァアアアァアァァァ!!!」


「ウッ……いつの間にか、私がこいつの部下みたいになってた……理由も意味もわからない。ただ……それだけ」




 今だって、いっそう怒り狂ったラムゼイが、剣で背後のネムネムを刺しまくってる。

 ずいぶんと空っぽの関係性だったらしい。




「言ったと思うけど……小隊長。私は感謝してる。他の騎士団のみんなにも……」


「……!! ネムネム……!」


「あなたは生きて。死んじゃダメ。こんなに真面目に生きてる人が――つまらない理由で死なないで!!」




 涙を流しながらも、ネムネムは笑ってる。アバルドを救えたことが嬉しいみたいだ。

 アバルドもまた泣いているが、生きるため、強くロープにしがみつく。


 敵同士でも、友情は芽生えるモンだな。


 もうすぐ『裂け目』に着く。

 俺は――ツァーリ・ボンバを投げた。無重力空間を真っ直ぐに飛んでいき、



「あれ……?」



 四色に輝くツァーリ・ボンバが……揉み合うラムゼイとネムネムの近くで停止。

 こ、これは、



「爆発しねぇ!? 不発弾だ!!!」


「任せてください!」



 最高に締まらねぇラストで、絶望に打ちひしがれそうになるところで――


 リリーが矢を射る、ファインプレー。




「……バイバ〜〜〜〜イ♫」




 矢が命中した衝撃で――起爆。

 瞬間、ネムネムのお別れの言葉が聞こえた気がした。


 俺たちは『裂け目』へ飛び込む。


 直後、その最後の『裂け目』も消滅したことは……言わなくてもわかるだろう。



▽▼▼▽


▽  ▽



 ネムネムに動きを止められ、今、至近距離でツァーリ・ボンバが起爆した――

 魔王軍幹部、ラムゼイ。


(あ……ああ……)


 その爆弾は『光』と『闇』に加え、『超人』『愛』の四色を纏う爆弾だった。

 つまり、


(俺も……〈混沌世界(カオス・ワールド)〉も……終わりだ……)


 何もかもが打ち止め。

 全てが幕を下ろすのだ。


 衝撃波が全身を包むと、


(ギルバルト様)


 とある思い出が脳裏に浮かんだ。

 それは……魔王ギルバルト・アルデバランに生み出され、初めて自我を持った頃のこと。



『どうですか? 調子は……』


『ぜ、絶好調です! ギルバルト様が完璧に創ってくださったから当然です!!!』


『……そんなに肩の力を入れないでくださいよ、ラムゼイ』


『いいえ! 俺は貴方を尊敬しているんですから!!』


『……』


『この洞窟で眠り、力を溜め、強くなったら……必ず貴方の力になります!! 共に世界を支配する……その助けになってみせます!!』


『……どうですかね』


『え??』


『時代は巡ります。環境は変わっていきます。生きとし生けるもの……変化していくのです』


『え……?』


『もちろん自分は魔王として世界を支配するつもりです……しかし、ラムゼイが起きる頃には、もう自分は生きていないかもしれない』


『っ!!! そんなわけありません!! ギルバルト様は最強です!!』


『そういうこともあるという話ですよ。もし起きた時、自分がいなかったら……』


『それでも俺は!! 貴方の思いを遂げます!!!』



 神妙な顔つきをする魔王に対しても、ラムゼイは最後まで尊敬を崩さなかった。

 そしてラムゼイは、魔王の次の言葉を……






『そういう時は――好きに生きてほしいなぁ』






 聞かないフリをした。

 そんな未来はあり得ない、あってはならないと……目を逸らした。現実逃避した。



 ――その結果が、今だ。


 こうして仲間割ればかりして、真の『仲間』は得られず。


 死闘の果て、『救世主』に粛清される。




『愛ってのは相手と一緒に育んでいくものだ』




 異世界の救世主、マコト・エイロネイアーの言葉を思い出す。

 今からラムゼイは、彼の一撃を受けて死ぬ……彼の鉄槌を一身に浴びて消滅する。






(俺は……間違えた、のか)






 50メガトンの爆発が、暗闇の世界を一転させて、明るく照らす。




 望まぬ末路に、涙を流すラムゼイ――


 望んだ末路に、清々しい表情をするネムネム――


 目玉と牙だけになってしまったハイド――


 そしてこの〈混沌世界(カオス・ワールド)〉全体が――






 無に、還る。




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