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#EX1 愛溢るる星


「そ、そんな……マコト……プラム……?」


 恐らく命を失い、巨大な穴に落ちていった、『異世界の救世主』と『少女』。

 茫然自失となって余所見をしていたウェンディは、


「……ッ!? ドラコ、気をつけろ!!」


「あ? だから命令しないでって――」


 鼻をほじりながらボーッとしていたドラコに忠告するが、



【オオ……!!】


「ゔぇっ!?」



 あれだけ斬られたにも関わらず阿修羅(アスラ)が立ち上がり、剛腕でドラコの首を絞める。

 彼女は珍しく焦っており激しく抵抗するが、


「あア〜〜〜死ぬ。オエッ……くるじい、死ぬ〜。あぁもう普通に死ねるわコレ〜……」


 瞬く間に顔が青くなっていき、口から泡を吹き始め……抵抗する力は失われた。お喋りだけは止まらないが。

 さらに他の腕の剣が彼女を狙い、


「よせ!!」


 ウェンディが割って入り、刀で防御。

 だが次々と追撃が来る。


【ウォオオオオオ!!!】


「あ、ぐっ……ま、まずい……無理だ……一人でこの、量は……ッ!!」


 ギリギリ捌ききれなくもないが、まだ斬り落とされていない腕が十本以上はある。

 少なくとも攻撃はできない。しかもドラコを守らねばならない。ドラコとウェンディの体力が尽きるのも時間の問題だった。


 一方、



「畜生、畜生……しくじっちまった! すまねぇ親分……すまね――」


【ゴボロロ……!!】


「っ!」



 頭を抱え、目を潤ませていたブラッドにハニースワンプモンスターの泥の拳が迫る。

 すかさず『魔石(マジ)ランチャー』を構えるが……酷使したために、オーバーヒート状態であった。


「ぐはっ!」


 地面に叩きつけられ、ブラッドは身動きが取れなくされてしまう。

 さらに、


 ――ドプッ! ドプッ!


【……ゴボゴボ】


 ブラッドを助けようとエルフ姉妹が援護射撃をするが、『光属性』も泥の体に吸い込まれるだけ。

 ハニースワンプモンスターは別次元の怪物であって、魔物ではないのだ。


「っ!? きゃああああっ!!」


「お姉ちゃん!?」


 不幸を引き寄せる体質を持つ姉のリールは、うっかり泥の手に掴まれて〈混沌世界(カオス・ワールド)〉に引きずり込まれてしまった。

 妹のルールは普通に避けたのに。


「う……何これ……? 気持ち悪くなってきた……魔法も使えないんだけど……?」


 エルフだろうとお構いなしに『適性』が奪われる。ルールも後を追おうとするが、


「ウプッ……おねえちゃ……」


 一歩踏み込んだ瞬間から、魔法使いにとっては地獄の環境である。


「ガルルッ!!」


「っ……バスター……」


 姉妹のペットであり、背中に乗せて運んでくれた大きな狼『バスター』にルールは救助される。

 バスターもリールを追いかけたいが、自分では敵に勝てないとわかっており、歯噛みするしかない。


「いやぁっ……何これ、ヌメヌメする……やだ、服に入ってきて――ごぼ……ブク、ブクブクッ……!」


 リールの美しい薄緑色の長髪が、泥の腕に沈んでいく。


「いけない……」


「み、皆さん……!」


 マゼンタも、ルークも、離れた場所で見ていることしかできない。


「……ダメだっ……!」


 ルークは水属性の魔法を撃つが、体力切れのせいで威力が足りない。闇の世界に入った途端に消滅してしまう。


「わっ……! うわ……! マコトおじさぁん……プラム……!!」


 一人残されたリリーも戦意喪失し、弓を落として座り込む。

 ハニースワンプモンスターが彼女を見つける。泥の腕が近づいてくる……



「たすけて……!!」



 少女の思いは――



▽  ▽



 空中に『闇の床』を作り出し、まるで浮遊しているようなラムゼイ。

 ついさっきガッツポーズを決めていた彼なのだが、


「……」


 今は、浮かない顔をしていた。


「……おかしいだろ」


 全身が震える。その震えは、怒りによるものか。それとも恐怖によるものか――






「なぜ『闇の心臓』が発現しない!!?」






▽  ▽


▽▼▼▽



 ――巨大な穴から、眩しい光が差した――


 そんな風に、残ったヤツらには見えたんじゃねぇかな。

 だって俺自身が眩しくてしょうがねぇ。



「……ん……んん……マコト……・エイロネイアーぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 震えながらも雄叫びを上げるラムゼイ。

 びっくりするよな。気持ちはわかる。



「……」

「……」



 光に包まれる俺とプラムは笑顔で手を繋いで()()し、穴から脱出。

 空中にいるラムゼイの正面で止まる。


 変な、光だな。


 白と?

 黒と……?

 ピンクと……

 黄金……か?


 四色の光が、まるで床屋の入口とかに置いてあるアレだ……サインポールだっけ? みたいなノリで、俺たち二人の周りを交錯してる。


「ってかプラム。俺たち空飛んでんのか」

「うん! ジユージザイだね!」

「……俺、危ないとこだったよな。助けられちまった。ありがとう」

「私だってゾンビになったところ助けてもらったんだから、おあいこだよ〜!」


 ニコニコしながら行われる俺たちのやり取りを、ラムゼイは開いた口が塞がらないって感じのマヌケな顔で見てたが、


「はっ……!」


 すぐ正気を取り戻し、




「〈堕落退廃(ディジェネレーション)(デス)・ブレス〉ゥゥゥ!!!!」




 開いた口からそのまま、激太ビームを放出する。何度も同じ魔法繰り返しやがって。

 また俺たちは闇に飲み込まれるが、




「……」

「……」


「は……っ、あぁ!!?」




 微動だにしない。掠り傷一つ無ぇ。

 冷や汗ダバダバのラムゼイ。


 俺とプラムは顔を見合わせる。

 二人同時に、悪役っぽく歯を見せてニヤけた。


「「ッ」」


「え」


 瞬間移動みてぇなスピードで飛び出し、



「ヴァ」



 音を置き去りにしたから、次の瞬間にはラムゼイに攻撃がヒットしてる。

 手を繋いだ俺とプラム。それぞれの蹴りが、顔面と鳩尾にブチ込まれた。


 ギャグみてぇな速さで吹き飛んだラムゼイは、〈混沌世界(カオス・ワールド)〉の端に激突する。

 その際、ぶつかった部分は()()()()()


 ズルズルッ……と力なく、崖の上のような地面に落下して尻餅をついたラムゼイは……



「ハァ、ハァ……何だこりゃ……」



 顔面も鳩尾も凹み、血が流れ出て。



「再生……しない?」



 凹みは元に戻らない。血も、止まらない。



「再生……しねえぇぇぇぇぇ!!!?」



 唯一の強みを失って発狂寸前ってところか。


 ――理論ならわかってる。

 やっぱり俺の予想は正しかったんだ。




「なぁラムゼイ。この世界は『闇属性』と『光属性』で創ったんだろ? その二つの属性は、世界を変える力を持ってるんだろ?」


「……ッ!?」


「じゃあそんな"最強モード"になれる二つの属性に……さらに『超人的な肉体』と『愛の魔法』まで付け足したら……どうなっちゃうんだろうな!」




 こうなっちゃうんです。

 色々と偶然が重なった結果、今の俺とプラムには『世界をひっくり返す力』があるんだ。


 要するに"最強無敵モード"!!


 『光属性』を全力でぶつけてくれた仲間たちにも、感謝しねぇとだな。



「ゲホッ、うぅ……行け、死神どもっ!! たかだか人間二匹、物量で始末しろォォォ!!」


「ヴアー」

「ヴオー」



 せっかく減ってた死神どもを全員招集しやがって、さらに新しいのまで増やしてやがる。

 要塞鯨(モビー・ディック)も後方から砲撃しまくってるな。


 でもまぁいいか。



「行くぜプラム!」

「やるよマコト!」



 今はマジで負ける気がしねぇ。

 ――俺たちは再び空中を蹴り、死神と砲弾の密集地帯へ突っ込んでいく。



「魔法はこうやって撃つんだよ!」

「感覚わからん! サブマシンガンで勘弁!」



 プラムは掌から。

 俺は生み出したサブマシンガンの銃口から。


 四色の光を纏う弾丸が、シャワーのように広範囲に広がりながら連発される。




「「「ヴウゥァ――――ッ!!?」」」




 被弾した死神どもが、片っ端から消滅していく。砲弾も灰になっていく。

 俺とプラムは手を繋いだままグルグル回転し、上下左右に魔法の弾丸をバラ撒いていった。


 『世界をひっくり返す力』とだけあって、飛んでいった弾丸は〈混沌世界(カオス・ワールド)〉をメッタメタに破壊していく。

 端の方が穴だらけだぞ。たぶんあの穴の先にあるのは『虚無』だと思う。


 よし――死神は全滅した。



「プラム! 左右に別れるぞ、そっち頼む!」

「ほいキタ〜!」



 名残惜しいが、繋いでた手を離した俺たちは二手に別れる。

 俺が向かうのは、



「うおおおお!!」


「あぁっ! マコトおじさぁん!!」



 泣いて助けを求めてる、リリーの方だった。つまりそこにいるのは、



「ネムネムぅ!!!」


【ゴボボ……!?】



 接近に気づいて振り向いた時には、もう遅い。俺の拳は目の前だ。



【ボバァァァアッ!!?】



 パンチ一発で泥の体が弾け飛ぶ。

 リールもブラッドも解放され、吐血するネムネムが姿を現した。


「さらにもう一発!!」


「あぐぁっ!」


 容赦なく追撃を入れ、腹に風穴を開けておく。これでもう大したことはできまい。


「マコト、王子様みたい……!」

「一生ついていきやす親分〜〜〜!!」


 こいつら無事で良かったぜ。

 お。プラムの方もイイ感じ。



「いっけ〜! プラムひっぷどろっぷ!」


【オ!?】



 プラムの小さな尻が急降下していって、振り向いたフィーナンの顔面にクリーンヒット。

 ものすごい勢いで多腕モンスターが地中に沈んでいくぞ。


「あ〜ぁ神様ドラゴン様プラムっち様〜!」

「素晴らしい、美しい魔法だな……!」


 イジメられてたドラコとウェンディも、間一髪で助かったようだ。


「……ぁ……ぁぁ……」


 ――どういうワケか、沈んでいったはずのフィーナンは天井……というか上空から、世界を大きく巻き込んで破壊させながら人間の姿で吹っ飛んできた。縦に世界一周旅行?

 気絶してるらしく白目を剥いて、重力に逆らわず垂直落下。地面に叩きつけられてクレーターを生み出してる。


 さて残るは、



「クジラ野郎め、覚悟しろ!」

「合流〜!!」



 空中で要塞鯨(モビー・ディック)と対峙する俺に、プラムが合流して強引に手を繋いでくる。

 手を繋ぐ必要あるのか知らんが……


 繋いでない方の手を、それぞれクジラに向ける。狙いをつけるようにな。

 二人の掌からオーラが湧き出て、集約されていく。それは発射された。




「――ッ!!」


「「〈愛溢るる(シューティング・)(スター)〉!!!!」」




 真っ直ぐに、真っ直ぐに。

 特大の【愛】が詰まった、星型の超巨大ビームが飛んでいく。


 要塞鯨(モビー・ディック)の巨体を、頭から尻尾の先まで貫き殺す。


 その先にいる、




「あ、あ、あっ!? アアアァァァア――」




 座り込んでいたラムゼイまで飲み込み、さらにその奥に広がる〈混沌世界(カオス・ワールド)〉で大爆発。

 さっきのヒビ割れが滅茶苦茶に広がりまくって、世界が大きく破壊された。


 破壊後に広がっている『虚無』の中で……ラムゼイは右腕と左足を失い、大量出血しながら漂っていた――



▽▼▼▽



 やべぇ、憎たらしい闇の世界とはいえ、あまりにも壊しすぎた……



「もう『裂け目』が一つしか残ってねぇ!? しかもすげぇ高い所にある! こりゃ不便だぞ、あいつら殺したら戻らなきゃいけねぇのに!」



 ルークかマゼンタのいる『裂け目』だったら助かったんだが、そう都合良くはいかねぇか。

 プラムがポカポカ叩いてくる。


「何やってんのさバカマコト〜!」

「お前もだろクソガキ!!」

「てへぺろ☆」

「可愛い! 許す!」

「えっ、あ……か、かわいいとか、急にちょっと……照れちゃうなぁもう」

「嘘だけどな」

「フゥンッ!!」

「いてっ。蹴るのは禁止だお前……」


 何ちょっとマジで赤面してんだこいつ。


 いや、まぁ可愛いとは思うぞ? 顔面と雰囲気だけはな。

 これ言ったら普通に殺されるな。



「そうだプラム。今の最強無敵状態なら、たぶん魔物に変えられた国民を元に戻せるだろ」


「あ〜……かもね。でもどうせラムゼイは……」


「もちろんトドメは刺すが、念には念を入れとこう。できるだけ早く戻してやりたいしな」


「じゃあ私、先行くよ?」


「おう、サンライト王国を頼んだぜ!」



 プラムは高速で飛行して『裂け目』へ飛び込んでいった。

 『愛の魔法』だけでも魔物化を解除できたんだ、絶対に大丈夫。さっきみたいに魔法弾をバラ撒くだけの簡単なお仕事、プラムなら完遂してくれるさ。


「あっ、プラム……私も連れてってよぉ……」


 またリリー置いてけぼりだ。

 それ言ったら、他の仲間みんなさっさと避難しなきゃいけねぇんだよな。そりゃ何とかするとして、



「俺の仕事は――最後のお片付け、か」



 とにかく空中に漂うラムゼイを睨みつけて、俺は四色の光を纏ったまま――


 この戦いのラストを飾る、渾身の『武器ガチャ』を発動。


 全ての敵を。

 忌々しい闇の世界を。


 何もかも消滅させる破壊神のごとき兵器――




「重てぇっ……けど、コイツで終わらせる!!」




 それは巨大な『爆弾の皇帝』。


 人類史上、最大の威力と爆発規模を誇る。






 多段階式水素爆弾。


 RDS-220。

 ――――『ツァーリ・ボンバ』。





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