#?3? 魔王軍幹部 vs 武器ガチャ
無事にラムゼイのハリボテ鎧……ゾンビドラゴンを消滅させられた。
まさかもうしばらく復活もできねぇだろう。ラムゼイ自身にもダメージ入ってそうだしな、回復するとしても。
だが一方的な快進撃ともいかず、
「……うっ」
「ああっ、団長!?」
「団長しっかり!」
『裂け目』の向こう、なかなかド派手な援護をしてくれたマゼンタが膝をつく。
「……傷が開いてしまったかしら……少し無理をしたわね……」
あいつ、闇の世界で適性奪われてボコボコにされてたもんな。
自分でやる回復魔法にも限界はあるだろう。病み上がりみてぇなモンなのによくやってくれたぜ。
「……おっと……」
「ルーク様!?」
「たった一発、魔法を使っただけでコレですか……しばらく僕は使い物になりませんね」
「いえ! ルーク様は頑張りました!」
「ミーナさん……ありがとうございます。この戦いを見届けましょう」
今度は別の『裂け目』の向こうでルークが倒れた。お前も……そうか、同じような目に遭ってたか。
空中では、
「〈閃光の剣 五芒星〉……!!」
「――――ッ!!」
ずっと戦いが続いてたんだが……レオンが高速で移動して、斬撃で星みてぇなマークを描く。
巨体に五芒星を刻まれた、血まみれの要塞鯨が叫んだ。
あれ、レオン落ちるぞ。今のが最後の力を振り絞った攻撃だったらしく、
「……レオン! 平気か!?」
「ハァ、ハァ……すまん、ドラゴン……」
空中で受け止めたドラゴンが、地上の俺とプラムの近くまで連れてきてくれた。
「言い訳がましくて見苦しいとは思うけどな……俺はダンジョンで特訓してからずっと……動き続けてるんだよ……!」
「あ、そういや休む暇も無かったっけか」
「もう疲れた……限界だ……あの要塞鯨とやら、かなり削ったつもりだが……凄まじい体力だ」
せっかく強さを取り戻したレオンも、クジラごときは倒し切りたかったろうな。
でもまぁ、あんな体力オバケじゃしょうがねぇよ。よくぞここまで粘ってくれたぜ。
見回したレオンは、あるモノに驚愕してる。
「……おい、マコト……あれは団長……エバーグリーン氏か? おかしな姿だが、見間違いじゃないよな……」
「あぁ。ジャイロの魔法に呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンって感じかな」
「は?」
炎のシルエットで蘇ったエバーグリーンだ。レオンはヤツの右腕だったんだ、互いに特別な存在だろうよ。
『レオン……久しいな。怪我は良くなったか』
「あ……あぁ。すっかり良くなったよ! ジャイ坊……ジャイロ団長も立派でなぁ!」
『フフ……それは良かった』
微笑むエバーグリーンだが、その体の揺らめきは強くなってる。
今にも消えそうだ。
「だ、団長……エバーグリーン・ホフマン氏!」
『ウェンディ……顔つきを見ただけでわかる。苦労もあろうが、君もしっかり成長しているな』
「あ、あのっ……これからも、精進致します……!!」
『んん、結構。それから……ドラゴン。誤解して戦った記憶しかないが……済まなかったな』
「儂にも非はある。申し訳ないことをした。だがこうして一言だけでも、言葉を交わせて良かった」
ああ、着々とお別れを済ませていってる。嬉しい再会のはずなのに、こうも短ぇとな……虚しさが勝つな。
『すまないジャイロ。私にできることは、ここまでのようだ』
「親父……じゃーな……」
『マコト君、プラム君。心配いらないとはわかっているが……引き続き、息子を頼む。ルーク君にもよろしく伝えてくれ』
「了解だ」
「これからも見守っててね〜!」
『さらばだ――』
アッサリと英雄は消えちまった。でも、笑顔だった。やっぱ、良かったな。
「……ぅ」
直後にジャイロが棒のように倒れちまった。
「ジャイ坊……どうした!」
「ジャイロ!?」
「わっかんね……まだやれると思ったんだが……」
「……さすがに〈混沌世界〉の負荷が来てんだろ。弱いとしても『火属性』を奪われてんだからな」
「ちくしょー……」
タイミングが重なってんのは偶然なんだが、仲間たちが次々と戦闘不能になっていくぞ。
見かねたドラゴンが、
「この先の戦い、考えてみると儂も大したサポートはできん。ジャイロとレオンを連れて行こう」
「ま、まぁ後の敵はラムゼイと、変身したネムネムとフィーナン……手負いのクジラか。何とかなるか……とにかく頼んだ!」
「こちらこそ、異世界を頼むぞ。マコト」
背中に乗せたレオンはそのまま、ジャイロも咥えて飛び去っていく。手頃な『裂け目』を見つけて連れてってくれるだろう。
「あっ、ああ! 行っちゃった! わ、私も行かなきゃいけなかったのに……」
「ん? まぁまぁリリー、こんな暗黒の世界だけども、入ったからにはもう少しゆっくりしてけよ。茶でも飲んで」
「宿屋じゃないんですからっ!」
あまりにも場違いなリリーだが、脱出の機会を失っちまったらしい。
ごめん、俺も気が利かなかった。ふざけて誤魔化したが。
――これで残ったのは……
俺とプラムとリリー。ブラッドと……ウェンディ、ドラコか。
『裂け目』の向こうで戦えそうなのは、もうリールとルールの姉妹ぐらいだな。光属性も弱まっちまうだろうけど。
「――ダハハハ! どうだ、もう一回『水』浴びてぇか!? コイツが怖ぇんだろ泥人形!」
【ゴボロロ……】
また水で流されるのを警戒するハニースワンプモンスターを、ブラッドは思う存分に煽り倒して威嚇する。
あっちは任せて、
「……クソ……! マコト・エイロネイアー……魔王に興味もない奴がっ!! さっさと死んで『闇の心臓』を寄越せぇ!!」
「……ラムゼイ、一つ聞いていいか?」
「……はぁ?」
俺たちはラムゼイの相手――ってのは勿論なんだが、ある聞きたいことができてな。
「何で魔王になって、世界を支配してぇんだ? 『魔王』になったらその思想に囚われちまうって噂はあるが……お前はまだ違ぇだろ?」
「っ!」
一瞬だがヤツは苦しげな顔をした。どうやら核心を突いた質問だったらしい。
「そ、それは……だから言っただろ!? 我が創造主ギルバルト・アルデバラン様の悲願を成し遂げ――」
「あぁ聞いたよ。でもお前ずっと、それしか言わねぇじゃねぇか」
「っ!?」
「そりゃギルバルトに頼まれたのか? 引き継いでくれって」
「……!」
「『作り物』と呼ばれた時、お前は異常に怒ってたが……」
それ以上は話すな、とでも言わんばかりにラムゼイは睨みつけてくる。
「お前自身の意思が見えてこねぇから、作り物にしか見えねぇって言ってんだよ」
「貴様ァァッ!!」
また同じ言葉に同じようにブチギレたラムゼイが突っ込んでくる。
振り下ろされる剣を俺は避けて、
「わかったぞ、お前が何なのか――無理やりウェンディと結婚しようとしたらしいな」
「それがどうしたァ!!」
「背中刺して誘拐して十字架に磔にして、ハッピーウェディング? どう思うウェンディ!?」
ウェディングとウェンディで紛らわしいが、離れた位置にいる彼女に問いかける。
あいつはドラコと一緒にフィーナンと戦ってるが、
「〈ジャックナイフ〉〜〜〜!!」
両手にナイフを持ったドラコが、プロペラのように高速回転しながら飛び出す。
【ウォッ……オオオオォ!?】
阿修羅の構える剣たちを跳ね除け、腹に突撃。
刺されて『くの字』に曲がった体。そのまま腹をドリルみてぇに抉りまくってる!?
すると背後からまた別の剣が狙ってるが、
「ジキル……借りるぞ、貴様のカタナ!」
武器を失ってたウェンディは刀を使ってドラコに迫る剣を弾く。
ほぼ知らない者同士だろうに、火事場の馬鹿力的なコンビネーションなのか、声も掛けず完璧にバトンタッチして、
「――〈激流〉ッ!!」
【ァ……ァアァ……】
怒涛の連続斬り。相手の巨体に負けないぐらい、ダイナミックな太刀筋のオンパレードだ。
もちろん、純白のウェディングドレスは返り血で真っ赤に染まる。
「はあぁぁあ――ッ!!」
最後の斬り上げで、フィーナンこと阿修羅はすっかりノックアウト。
倒れた相手の首に刀を突きつけたウェンディは、俺の質問に頷く。
「うむ。率直に言うが……ラムゼイ、貴様が真に私を愛してくれる善良な男ならば……違う未来もあったかもしれないと思う。実に残念だ」
「な……! バカめ、俺は愛して……」
「真に愛していたら、あのような仕打ちができるわけがないのだ」
「……」
俺からすれば当然のことを言われて黙るラムゼイだが、本当に困惑してる様子だ。
だから、
「お前……人の気持ちがわかんねぇだろ? 『愛』が何なのか……わからねぇんだろ?」
「……っ、知った口をききやがって!! じゃあお前に俺の何がわかったんだ!?」
「ギルバルトは、お前の『心』を作り込むのを忘れてたんだよ」
「嘘だ! 黙れ!! ギルバルト様は、俺を完璧に――」
まぁ結論としては、
「お前――創造主に褒められたいんじゃねぇか? 認めてもらって、愛されたいんじゃ……ねぇのか?」
「 」
それを自覚してないだけだ。
ギルバルト・アルデバランとかいう先代魔王はもう死んでるから、褒めてもらうなんてできるワケがねぇんだがな。
惰性というか慣性というか……無自覚な褒められたいって気持ちだけが、無自覚に残っちまってこうなってるんだろう。
親からの愛を欲しがる子供のようにな。
『心』を作り込まれなかったワケだから、本当に子供みてぇなモンだ。
「――俺が半年前に殺した魔王も、ませたクソガキだったんだが……同じようなことを言ってたぞ。だがちょっとタイプも境遇も違うな」
「……」
黙り込んじまったラムゼイ。
もういい。殺すべき相手の分析ならもう完了した。さっさと終わらせよう。
「『力づくで奪う愛』なんて、そうそうあるモンじゃねぇ――愛ってのは相手と一緒に育んでいくものだ」
「……っ黙れぇぇ!!」
激怒し、剣を構えて突っ込んでくるラムゼイ。俺はバックステップしつつ、両手にそれぞれ『チャクラム』を生み出す。
ドーナツみてぇな輪っかだが、外側は刃。立派な刃物だ。内側を指でクルクル回し、
「よっ!」
「……うおっ!?」
投げると、ラムゼイの両腕が肩口から吹っ飛んだ。すげぇ切れ味だな。
腕と剣を失ったヤツに対して、
「いくぜ『フランベルジェ』!」
「え!?」
俺は両手で、燃える巨剣を振りかぶる。ラムゼイも目を丸くしてるが、
「親分!? 魔法が使えたんですかい!?」
「使えねぇよ? こいつは炎を冠する大剣……魔法が無い俺の世界で、ちゃんと実在する武器だ!!」
「た、たぶんそれは……実際は燃えてないと思うんすがね……」
「はにゃ?」
おかしいな。刀身が揺らめいてて炎のように見えるって比喩だったか?
これは激しく燃えまくってるぞ。全然違うじゃねぇか。
まぁいいや、『武器ガチャ』は俺のイメージ次第なんだなぁ!
「ぐああぁぁはァァァッ!!」
炎の刃で斬りつけてやると、ラムゼイは痛そうに熱そうに悲鳴を上げる。
ウ〜ッ!
ゾクゾクするぜ! 楽しくなってきた。
今にも斬った両腕が再生しそうってところで俺が生み出したのは、
「お次は『アイアン・メイデン』!!」
「……く……!?」
中世ヨーロッパの拷問具。
内部にトゲが並んだ鉄の棺桶みてぇな箱に、ラムゼイをブチ込む。ちょうど頭部が入るところに女の顔が彫刻されてるな。
扉を閉じてやると、
「ぎやぁあああああ」
中からくぐもった叫び声が聞こえてくる。
ついでにフランベルジェで胸の辺りを狙って貫いてやる。
「おぉ!? ああああああ」
叫びは止まらない。うるせぇけどスカッとするな。爽快だ。
おっと。こじ開けようとしてる。俺は涼しげな顔でそれを押さえつけながら、
「思い出したんだ! ラムゼイ自身が言ってた……この〈混沌世界〉は『闇属性』と『光属性』を混ぜ合わせて創ったらしい」
「え!?」
「その二つの属性が重なった時、時空を捻じ曲げるほどの力を得られる……んで今の俺には『闇』がある! ブラッド、リール、ルール! 後はわかるな!?」
「あと必要なのは『光』……それでこいつらを倒せるってことね!?」
リールの言う通り。
いくらでも再生してきやがるこいつらでも、新たな世界を創っちまうほどのパワーには耐えられまい。
存在ごと抹消してや――
「〈堕落退廃・死・ブレス〉」
「は?」
アイアンメイデンを半壊させて、闇の激太ビームが迫る。
その攻撃、ゾンビドラゴンじゃなくてもできたのかよ……
ノーガードで受けた俺は、水に流されるように吹っ飛んでく。
「親分!?」
「マコトっ!!」
ブラッドとリールの心配する声が聞こえて、
「マコト……?」
さっきから俺のことを神妙な目で見てたプラムは、別のことを心配してるような声だった。
だいぶブッ飛ばされて地面に転がる俺を、
「終わりだァァァ」
ラムゼイが飛び込んで、剣先で俺の右胸を、『闇の心臓』を狙う。
その一撃は。
【……雑魚が】
右胸から飛び出した多数の『闇の手』に阻まれた。俺自身は完全な無防備なんだけどな。
「え」
バキバキッ、と剣の刃が簡単に折れる。
起き上がる俺の背中に、くっきりと『闇の翼』が生える。
【思い上がるなよ……たかだか『魔王軍幹部』が……】
「うげっ」
不思議だ。俺の体、糸で引っ張られるような体勢で『何か』に強制的に立たされる。
同時に多数の『闇の手』たちは、ラムゼイの首を絞め、
【本物の魔王の、『闇の心臓』を……】
「ごふ」
地面に叩きつけ、大の字になったラムゼイの四肢を掴み、動けねぇように拘束する。
【奪えると思うなァァァァァァァ!!!】
真っ黒なオーラが勢いよく噴き出し、俺を包む。
ウネウネと『闇の手』たちは大暴れ。
ラムゼイの全身を殴り、捻り、千切り、折り、腹に穴を開けて侵入し内部からグチャグチャにしていく。
「うわあああああああああああ」
【再生するにしても、痛みは感じるんだろう。永遠の苦しみを与えてやろう】
「ああああああ」
ああ、変だな。
体が制御できねぇ。欲望が抑えられねぇ。思ってもない言葉が、口から溢れ出すんだ。
『闇』を一身に浴びて、とうとうおかしくなっちまったのかな。
「えぇ……? お、親分……」
「ちょっと、どうなってるの……?」
「おじさん……?」
せっかく光属性をチャージして最後の攻撃に備えてくれてた、ブラッドもエルフ姉妹も困惑するばかり。
プラムの反応は見たくない。
「何てことだ……マコトさん、本当に僕の言う通りになってしまうなんて……」
ルークが頭を抱えてる。
「……あの『闇』の魔力量は尋常ではない……それに、どんどん増幅していく……! まさかとは思うけれど、マコトさんは……」
マゼンタも冷や汗が止まらないようで、
「もしかすると、歴代最強の『魔王』かもしれない――――」
もう誰にも止められないと、悟ってた。




