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#134 不死鳥




「スゥゥゥ〜〜〜ッ……!!」


「死ねぃオオカミ野郎!!」



 ハイドは大きく息を吸って胸を膨張させ、ブラッドは『魔石(マジ)ランチャー』の光属性をチャージ。こりゃすげぇのが始まるぞ。

 そして――互いに発射した。


「ゴオオオ〜〜〜〜!!」


 光属性の弾丸は、闇属性ビームに効果抜群。極太ビームを切り裂いて進んでくが、


「ッ……ゴオオオオオオオオオ!!!!」


 ハイドは負けじと『闇』を増幅させ、ビームの勢いが跳ね上がる。

 まさかの光属性が押され始める事態……おいおい、タイプ相性を覆すなよ。


「っ……!」


 ブラッドは手元のランチャーを見てるが、どうも連発できるモンではないらしく、すぐには次のが撃てねぇ。

 取り出したのは大鉈だ。


「おらっ……!!」


 ブン回した刃の峰を、押し返されてきた光属性の弾丸に当てる。


「うぐ……!!」


 ギリギリギリ……と闇のビームと鍔迫り合いになってるぞ。


「ゴオオオオオッ!!!!」


「ぅ……」


 さらにビームの勢いを強めて、本格的にブラッドを殺しにかかるハイド。

 耐えかねるブラッドはどんどん押されていき――




「うおおおらぁぁぁぁぁああっ!!!」




 フルスイング。雄叫びとともに、強引に光属性の弾丸を打ち返した。根性だな。

 一気に逆転されて闇のビームは塵となり、


 ――ボカァァン!!


「キャウンッ」


 顔面で光属性が爆発したハイドは、大きく吹っ飛ばされる。

 その方向には、



「バッチリよ。流石はマコトさんの子分」


「……ワウッ!?」



 『裂け目』から飛び出したハイドは、サンライト王国の大通りへ出る。

 未だ空中のハイドに、狙いをつけるのは魔術師団長マゼンタだった。


 やられたい放題だったマゼンタは、明らかに熱い闘志を燃やしてる。



「五つの力よ――貫け」


「ッ、スゥゥゥ〜〜〜……ゴオオォォッ!!」



 杖を振るマゼンタの背後、『火』『水』『風』『土』『光』それぞれの魔法の塊のようなものが浮かび上がる。

 それぞれが輝きを増していく中、ハイドは性懲りもなくまた極太ビームを放ってる。


 マゼンタは少しも臆さず、




「――〈五重奏(クインテット)・レイ〉」




 独立していた五つの属性が、彼女の正面で混ざり合う。

 五色が滅茶苦茶に交錯する極太ビームが、闇のビームを一瞬にして打ち消して、



「ヲォォォォォォォ…………」



 あまりにも巨大な力だ。ハイドは全身を飲み込まれ、包み込まれる。


 赤色に焼かれる。青色に流される。緑色に切り刻まれる。茶色にすり潰される。金色に浄化させられる。


 輝きの濁流の中、ハイドの体は抉れ、削れていく。少しずつ失われていく。

 そして〈混沌世界(カオス・ワールド)〉に押し戻されたヤツの体は――


「う〜わ……」

「何という威力……」


 俺もドラゴンもドン引き。

 ハイドの体のほとんどは消滅してて――残った目玉と数本の牙だけが、暗黒の世界をユラユラ漂ってんな。


「……これでもまだ消え去らないとは……先代魔王さんは、ひどく哀れなものを生み出したのね」


「すげぇや姐御さん、スカッとしたぜ!」


「あなたのおかげよ。ありがとうブラッドさん。彼、いくら闇の世界でも数日は再生できないはず……あとはマコトさんに任せるわ」


 な〜んて謙虚に言うが、



「……と、その前に♡」



 マゼンタの放った五属性激太ビームは、闇の世界に入って勢いが落ちてもまだ進み続けてた。狙う先は、


【ン?】


 俺とドラゴンを撃墜するのに必死になってる、ラムゼイことゾンビドラゴンで……




【オ゛オ゛オオォォォ゛オッ!!?】




 油断してた脇腹に突然、超・高威力のビームが炸裂。しかも消えずに焼き続ける。

 ゾンビドラゴンは白目を剥いて、体を『く』の字に曲げて悲鳴を上げるのだった……


 いい気味だぜ。


 でもマゼンタ、怖ぇ女……



▽▼▼▽



 ドシュッ――――!!



 他の場所でもまた一つの戦いが終わったところみてぇだ。


 斬られて膝をつく、偽エバーグリーン。


 背を向けて、剣を納めるジャイロ。


 ……って急だな。あんなに死闘が始まりそうな雰囲気だったのに。

 小説とかで1ページ飛ばしちまったような気分になったぞ。


「あんたの――その剣は何だよ? 親父がオレにくれたんだろ、その『不死鳥』をよ……」


 そうだよな。今ジャイロが背中に納めたその剣こそが、生前のエバーグリーンから授かった剣なんだ。

 あの偽物が持ってる剣だって、偽物でしかねぇんだよな。


「そもそもよー、ラムゼイなんかが親父の強さを再現できるわけねーんだわ」


 いや、アレはアレで強かったと思うぜ? 完全に再現はできてねぇかもしれんが……間違いなくジャイロの実力が上がってるんだろ。

 再現度を鼻で笑ったジャイロは、倒した偽エバーグリーンに掌を向けて、



「よくわかんねーけど、オレの力になってもらおうか……ニセ親父」



 ダンジョンでやったように、今一度『強制支配魔法』を発動しようとしてんだな。

 そこへ、


【小癪ナァッ!! 〈堕落退廃(ディジェネレーション)(デス)・ブレス〉ゥゥゥ!!】


「うお!? しまった!」


 俺やドラゴンが撹乱してるし、マゼンタの攻撃も食らい続けてるってのに……ラムゼイが尻尾の先からのビームでジャイロを狙いやがった。

 クソ、これじゃ直撃だぞ!?


「ジャイロっ!!」


 叫ぶ俺の目には、もう既にジャイロがビームに飲み込まれたようにしか見えなくて――




『強くなったな、息子よ』




 幻聴……か?

 妙な声が聞こえたぞ。何つうか、半年ぶりぐらいに聞いた気がする。


 そしてそれは聞きたかった声。

 でも、聞けるワケがねぇ声。聞けるワケがねぇ……はずだった。


 まさか……?




「『――〈不死鳥(フェニクス)(エンブレム)〉!!』」


【ッ!?】




 突如としてビームが霧散し、空中には明らかに『火属性』の――巨大な赤い不死鳥の紋様が、盾のように立ちはだかる。


 それを発生させてるのが、




「……はー!? 親父ぃー!? 何で……『強制支配魔法』ってこんなんだったか!?」


『私の聞いたこともない話をするのは、やめてくれないか? 息子よ』


「あ、アレだろ……? どーせ、オレの頭ん中の妄想が形になってるだけっつーか……」


『いいや、違う。お前の想いに応え、私は少しの間だけ蘇っているようだ』


「え〜〜〜〜〜〜っ!!?」




 背中合わせに立ち、それぞれの『不死鳥』を掲げたホフマン親子。

 ジャイロは驚いて目玉が飛び出てるが。


 どうやら『強制支配魔法』は成功してる。この闇の世界で、エバーグリーンの体を触媒にして『火属性』を使えてるからな。


 にしても……どうなってんだ。


 エバーグリーンの方は、炎のシルエットのような見た目だ。

 おかしいな。さっきまでは普通に人間のような見た目の偽物だったワケだが……ジャイロの魔法力に反応して、マジの『降霊術』みてぇなのが起きてるってのか!?


 ここは俺も。


「久しぶりだなエバーグリーン! バーであんたが泣きながら、俺に何言ってたか覚えてるか!?」


 これは俺とエバーグリーンしか知らねぇ話だ。ジャイロの妄想ではない証明になるはずだが……

 彼は微笑んで、


『やぁマコト君。覚えているとも。ジャイロには私を超えてほしいが……それと同時に、超えられてしまうのが怖いと話したな』


「マジか……!」


【ア、アリエナイ……アリエナイ、アリエナイアリエナイ……!!!】


 やべぇ。本物だ。マジであの世から降りてきてやがる。

 よっぽど想定外だったのか、ラムゼイも正気を失いかけてるぞ。


「そんなこと思ってたのかよ親父……?」


『今思えば、大人気なかったな――今は、お前が順調に成長しているようで心から嬉しいよ。安心してサンライト王国を任せられる』


「へへっ……そ、そーだろー!? すっげーだろオレは!」


『ああ。『すっげー』な』


 エバーグリーンに頭を撫でられて、ジャイロは指で鼻の下をこする。

 照れてるようだが、嬉しそうだな。


 もっと甘えたかったよな……



『さて、息子よ。ゆっくり語らいたいところだが……この状態は長くは続かないようだ』


「……うん……そーだよな……」



 揺らいで、少しずつ消えかかるエバーグリーンの炎の体。

 こんな闇に支配された世界じゃ、ジャイロのちっぽけな『火の適性』が実権を握るのは難しいんだろう。


 だが……いい流れが来たぞ。

 さぁ一斉攻撃、開始だ!


「ブラッド! それからリール、ルール! ジャイロとエバーグリーンに合わせて光属性の攻撃を頼む!」


「おっしゃ!」

「「了解!」」


「ドラゴンと……あとルーク、プラム! 準備いいか!?」


「構わぬ!」

「やっと調子が戻ってきました……」

「ぶちかますぞぉ〜〜っ!!」


【マ……マズイッ……!】


 闇の世界のこっち側とあっち側、手が空いてて使える戦力を全て結集する。

 ラムゼイが焦り、そのゾンビドラゴンの巨体で逃げようとするが、



「今、いいところじゃない。()()がいなくなっては台無しよ♡」


【貴様……ヴオ゛オ゛オオォォ〜〜〜!!?】



 威力が落ちるって散々言ってるクセに、マゼンタがビームの火力を更に増幅させる。

 当たってる横腹から反対の横腹まで貫いちまいそうなぐらい、ゾンビドラゴンは苦しんでて動けねぇ。


「ナイスだマゼンタ!!」


 俺はドラゴンから飛び降りる。

 下を見れば、



「力が……湧き上がってきやがるぜー!」

『久々だ、悪を斬るのは!』

「『〈不死鳥(フェニクス)・ブラスター〉ッ!!!』」



 ジャイロとエバーグリーン親子が剣を構えて正面から飛び込み、今にもゾンビドラゴンに突き立てようとしてた。

 追従するように、



「食らいな! 特大の……『光属性』ッ!!」


「私たちも役に立とう、ルール!」

「うん! いくよお姉ちゃん!」

「「〈ホーリー・ストライク〉!!!」」



 ブラッドの『魔石(マジ)ランチャー』、そしてエルフ姉妹の弓とパチンコから、眩い光が放たれる。



「〈過剰なる(ハート♥ビート)愛の魔法(♥オーバーヒート)〉!!」


「〈アイシクル・アロー〉!!」


「グロロロォォ!!」



 プラムの杖からは以前見たのよりだいぶ規模がデカいハートビーム、ルークは氷の弓から氷の矢を放つ。

 ドラゴンも火球を吐いてる。そういやさっき聞いたんだがアレは『火属性魔法』ではなく、『神の炎』とかいう神界由来のヤツらしい。


 みんなの攻撃が四方八方からゾンビドラゴンを狙う中、俺は右手にガントレットを装着。

 落下しながら、



「〈闇の筋肉(ダーク・マッスル)・……」



 俺の右腕の筋肉だけが、『闇属性魔法』で強化されてバカみたいに太くなる。

 そりゃもう、腕だけで俺の体よりデカい。


 焦りまくるゾンビドラゴンの顔面めがけ、



「……パァ〜〜〜〜ンチ〉ッ!!!」


【ヤッ、ヤメ……ッヌゴォ!?】



 クリーンヒット。そのブサイクな顔面がグニャリと凹んで、




 ――ドゴゴゴォォン!! ボゴゴォォォン!!


【グワアアアアアァァァッ…………】




 ゾンビドラゴンの全身を、怒りの込められた攻撃たちが襲う。


 親子の炎が駆け巡り、内部からの連続した爆破でウロコを壊す。

 ルークの氷が、ドラゴンの炎が、プラムの愛が皮膚を貫いて。

 光属性たちが、魂までも浄化する。消滅させる。


 俺たちの視界も奪われるほどの大爆発。

 それに包まれたゾンビドラゴンの絶叫は、すぐに掻き消える。


 とうとう化けの皮を剥がされて、吐血するラムゼイを……ポツンと残して。



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