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#122 SIDEドラコ:イカレ女

前作から登場してるドラコ18歳(だったような気がする)ですが、ヤバさキモさに磨きがかかっているかもしれません。

割と本気でブクマ外されるレベルです。










 マコトとはぐれた騎士のアバルドは国民たちを守るため、疲れた体に鞭を打って走っていた。

 一体の死神が迫ってくる。


「また死神でありますか……同じように返り討ちであります……!」


 さっきから何体も狩っている相手だ。アバルドは自己流の剣技を構えて、



「ヴオーー……」


「え」



 ローブの下からスケルトンのような顔が覗き、その虚ろな目に『闇』が灯る。

 直視してしまったアバルドは、


「え……え……?」


 その場に膝をつき、動けなくなる。

 本物の強者からすれば死神はそこまで強くない相手ではある。

 だが半端者が油断をすれば……一瞬にしてこの奇術の餌食だ。


 気づけば数体の死神に囲まれていて、大鎌の鋭い刃がアバルドの首に迫る――



▽  ▽


▽  ▽



 ウェンディが率いた一番小隊の騎士たちは、蛇使いが使役していた大蛇の死体を壁外へ運ぼうとしていた。


「い、いやこんなことしてる場合かよ!?」

「でもよぉ、もう少しだったのにこんな状況になっちまうなんて!」

「今さらこんなデケェの持って壁内戻ったってしょうがねぇだろ! やっぱ壁外持ってこう!」


 みんなで大蛇の死体を掲げながらギャーギャー騒いで右往左往。

 まだパニックは始まったばかりとはいえ、完全に乗り遅れていたのだ。


 そこへ、


「ギャオオオオ〜〜〜〜ッ!!!」


「うわぁぁ何だこのデカい鳥!」

「魔物かァ!?」


 飛んでくる怪鳥(ガルーダ)

 強靭な足と爪で大蛇の巨体を掴み、軽く持ち上げて飛び去っていく。


 餌にして処理してくれるなら良いが、


「に、逃がさねぇぞ魔物め!」

「待て! 射るな!」


「オオオオ〜〜〜!!」


 騎士たちはその背中を弓矢で追撃。

 数本がヒットし、飛びながら身じろぎをする鳥であったが、


「バカ、前にもジャイロ団長が言ってただろ! 当たりゃいいが、もし外れた矢が国民に当たったらどうすんだ!!」

「そうか、やっちまった……!」


 一本、外れた。

 その矢じりの行く先は――――



▽  ▽


▽  ▽



「ふぃ〜〜〜っ……」


 魔王マコトと暴走ルークと巨大怪鳥の戦いを見物し実況するという命知らずなことをしたドラコだが、無事に生き残って安堵のため息。


 そのため、自分に向かって猛ダッシュしてくる気配に気づくのが遅れた。



「〈スラスラの★スラ★ストライク〉〜〜〜!!」


「ギャ〜〜〜〜!!?」



 スライムの塊のようなものが上から落ちてきて、間一髪避けたドラコだが実況席が粉々になってしまった。

 その正体は、


「あなたは『連行中』ですよドラコさん……マコト様のご命令とあらば、私だって容赦はしませんよォォォ!!?」


「ひぃぃ! マコトっちってこんなヤバ女を侍らせるヤバ男だったの!? ってグハッ!」


 転んでしまうドラコ。


 追ってくるのは騎士団の一番小隊、目隠れ新人女騎士のポンプだ。

 アレは一応、マコトの依頼達成のために『連行する演技』をするという話だったはずだが、彼女はドラコに個人的な恨みでもあるのだろうか?


「あ〜もう、手錠が走りづらくてコケちゃったじゃんか……私的な恨みなんてアタシには縁が……あ、あれか? いや、あれかな? いや、あっちかも? あっ、アタシ多方面に恨み作りまくってましたわ〜!!」


「コロス、コロス! ニンゲンコロス!!」


「とにもかくにもこの騎士怖すぎ〜〜〜!!」


 その時だ。

 ――天から、一本の救済の矢が降ってくる。


 バキン!!


 偶然にも転倒していたドラコの両手の間に落ちたその矢は、手錠を破壊した。


「お、やった!! アタシにも運が巡ってくるようになったかな!?」


「ニンゲン! コロス!」


「うほほぉ!? ちょっ、普通に剣振ってくんのやめておくんなまし! やっぱバチ当たりそうだから『運が来た』とか言うのやめよ!!」


 本当に容赦ナシに剣を振ってきて、殺そうとしてくるポンプ。

 いや――おかしい。個人的な恨みがあるかはともかく、彼女は善良な騎士だったはず。


「空が真っ暗だし……半年前と似たような雰囲気。もしかして騎士さん、アンタも変な気分なのかな〜?」


「コロス、コロス……ニンゲン!!」


「ん!?」


 ポンプは背中から無数のスライム触手を伸ばし、近くにいた騎士や国民を襲う。

 スライムを彼らの口に無理やり侵入させ、


「アーー……」

「コロス……」


「ありゃりゃりゃ、マジヤバな感じ?」


 まるでゾンビのように、今のポンプと同じように殺意に溢れた人間たちが出来上がる。

 ドラコにも触手が伸びてきて、


「あぼっ! んぶ……ごく、ごく、ごっくん」


 すっごい量のスライムが、口から体内に流し込まれる。そりゃもう尋常ではない量だが、


「ヒィィィ」


「おえっ……スライムの鳴き声初めて聞いた」


 体内に入ったはずのスライムが、ドラコの食道を逆流して自ら吐き出され、怯えながらまさかの逃走。

 ドラコはセクシーポーズを決めながら、


「乙女のカ・ラ・ダを嫌がるなんて失礼しちゃう……♡ アァン♡ イヤァン♡ とか言ってみたものの、やっぱ街中のゴミ箱漁ってメシ食ってる生活なわけだし、胃が腐ってたのかな? くっさぁ♡ ってコト?」


「ニ、ニンゲン……」


 何かに操られているはずのポンプがドン引きしたような顔になったのは気のせいだろうか。

 ドラコを洗脳するのを諦めたらしく、ポンプは触手で近くの騎士から剣を奪い、無数の剣が襲いかかってくる。


 ドラコはローブの下から2本のナイフを取り出し、


「よっ」


 クルクルと回転させながら、無数の剣による連続斬りを捌いていく。

 捌きながら少しずつ後退していると、大量の剣が同時に斬りかかってきたタイミングで、


「ほい〜よっ!」


 ――ガキキキィンッ!!


 ジャンプからの高速回転斬りで全ての剣を跳ね除けて、ドラコは飛び退き、全力疾走。


「逃げるが勝ちィ! だけど、このまま放っとくのも忍びないなぁ、あの騎士ちゃんもマコトっちの連れだし? ……お、アレ誰だ?」


 独り言を言いまくりながらも逃げるように走っていると、膝をついて今にも死神に首を狩られそうな騎士を発見。


「ちょうどいい! あのスライム騎士ちゃんをこれからウッカリ殺しちゃったとき用に、騎士団に恩売っとこ売っとこ〜〜!!」


 クソ最低な理由で突撃したドラコは、ギリギリで大鎌の刃をナイフで防ぐ。

 弾いたところで、他の死神たちも一斉に斬りかかってくるのだが、


「うぉほっ、おほっ、ちょ、こいつら、こいつら束になるとアタシより強くねー?」


 動けない騎士を庇いながら、全方向からの鎌にナイフで対応するドラコ。動かす腕がキツくなってきたところで、


「あっ!?」


 ナイフが2本とも砕けた。度重なる鎌の重圧に耐えられなくなったらしい。

 しかも、


「ヴアーー……」


「……あ……」


 死神の虚ろな目を、見つめてしまったのだ。棒立ちになるドラコ。

 その代わりに、


「う……うぅ……助かったでありま……す……!?」


 時間経過によるものか、頭を抱えたアバルドが呪縛から解放された。

 彼は恩人となってくれたドラコが逆に殺されそうになっていることに気づき、


「あ、あぁ! ダメであります! どなたか存じませんが、こんな自分のために国民の方が命を張ってしまうなど……あれ?」


 ドラコの肩を掴んで揺すろうとしたのだが、彼女は忽然と姿を消してしまった。

 周囲を見回すアバルドは、


「え?」


 唖然としてしまった。

 だって――普通に立ち上がって暴れ回ったドラコが、その場の死神をナイフで斬って全滅させていたのだから。


「ふっふ〜ん♪ アタシのナイフが2本だけだと思ったぁ? ローブの向こうの魅惑のカ・ラ・ダ♡ にいっぱい仕込んであんだよね〜!」


「えぇ……強いであります……」


「え? 見たい? 男騎士さんも男の子だねぇ、見たいの? 見せてあげよっか、チラ♡ チラ♡」


「おお、これは……本当にナイフがいっぱいであります!」


「純粋〜〜〜〜」


「あの妙な精神攻撃にも負けないとは、何という強さ! 尊敬であります! 助けてくれてありがとうございますであります!」


「次は〜〜罪悪感〜〜〜、誘惑しようとしたアタシの罪悪感〜〜でござい〜ます」


 とんだ茶番を繰り広げたが、ドラコからしてみれば、


「今のって『精神攻撃』だったの?」


「えっ、いや、自分も何もされてないのに動けなくなったので、そうかと……」


「あ〜そういうのってね、マジメな人はダメなんですわ」


「え……でも国民の皆様も、こんな風に動きを止められて襲われそうになった方もいらっしゃって……」


「だからみんなマジメすぎるんだって! もっとドラゴン様だけに愛を注いで、豪華ゴミ箱レストランで生活しているアタシを見習うんだ!」


「それは無理であります……」


 生真面目な騎士アバルドまでドン引きさせる爆弾発言をしたドラコは、一つ、彼に頼みたいことができた。


「あっ、ねぇ〜ぇ? ぼく……聞いてくれる? お姉さんのオ・ネ・ガ・イ♡」


「はい、何でも聞くであります!」


「ん? 今何でもって言った?」


「えっ、あ、いや、自分にできることなら……」


 おふざけが多すぎて話にならないので要約してしまうと――ドラコが頼んだのは『水属性を使える魔術師を集めてほしい』ということだった。



▽  ▽



「しつこいな〜あの騎士ちゃん! やっぱりアタシに恨みあんのかね!?」


「コロス……!」


 アバルドと別れた後も、ドラコを執拗に追ってきては触手や剣で攻撃してくるポンプ。

 スライムか何かに頭がやられているのはわかっているが、ドラコとしてはそれだけじゃなく、


「ギャア! ギャア!」

「ゴオオォ!」


「国民が……あっちこっちで魔物化していくよォ〜〜!? めんどくさっ、どうすんのこれ」


 魔物を殺すだけなら得意なドラコだが、実は人間を殺すことも得意。

 とはいえ、さすがにサンライト王国の国民をいきなり殺すような野蛮人ではない。


 殺してはいけない魔物という相手は、やる気が出なくて仕方が無いのだ。


「ガルルルルッ!」


「あんぎゃァァァ〜〜〜ッ!!!?」


 路地から飛び出してきた、背中に炎を燃やす狼の魔物『炎狼(バーンウルフ)』が右腕に噛みついてくる。


「いだだだだ、熱ッ! あづづづづ!! 血ぃ出てるし火傷してます! 衛生兵〜衛生兵〜! こいつも元国民ですかぁ!? ここまでやられても殺しちゃダメなのぉ!?」


「ガルルッ」


「や、やっぱバレる前に殺しちゃお……」


 葛藤してるように見せかけて、ドラコは取り出したナイフの刃を舐め回す殺人鬼ムーブ。

 結局ノリノリで殺そうとしていると、


 バシャーン!!


 どこからともなく水が噴射され、炎狼(バーンウルフ)の背中が消火される。

 力を失い、気絶してしまった。


「たくさん連れてきたであります!」


「お〜騎士くん仕事が早いねぇ〜!」


 まだ10分も経っていないが、アバルドは走り回って水属性の魔術師を探してきてくれたのだ。

 魔術師たちはなぜ呼ばれたのかわかっていないのだが、説明している時間も無い。


「ニンゲン……」

「コロス……」


「あのスライム吸いすぎて昇天しちゃってるザコザコくんたちに、でっけー水魔法おみまいしてやって!!」


 ポンプ筆頭に、スライムに脳をやられた国民や騎士、魔術師たちが大挙して向かってくる。

 こちらの魔術師たちも息を合わせ、


「「「〈タイダル・ウェーブ〉!!」」」


 全員の力を結集し、街や道路を覆い尽くすほどの水流が生み出される。


「オアァ!」

「ギャ〜!」


 飲み込まれた者たちは……体のスライム分が急流に流されたのか、皆が正気を取り戻す。

 ただし、



「コロス〜!!」


「しぶといなぁ」



 ポンプだけは跳び上がり、多数の触手と剣を構えてドラコの元へ降ってくる。

 初めて暴走中の彼女を見たアバルドは、


「ポンプさん!?」


「ねぇねぇ、あの女騎士殺しちゃってもい〜い?」


「ダメに決まってるであります!!」


「デスヨネー」


 やはり許可は得られず、ドラコはナイフを取り出して疾走。

 降ってくるポンプと対峙し、


「それそれそれぇ〜い!!」


「ッ」


 迫る触手を全て切り落として急接近。

 空中にて、



「ちゅっ」


「ッ!?」


「「「!!!!??」」」



 誰もが口を失ってしまったかのように、次の言葉を吐き出せない。

 びっくりしてしまって。


 それはそうだ。これを思いついた本人であるドラコも、こればっかりは自分が信じられないのだから。


 まさか、自分が女騎士とディープキスする日が来るなんて……



「ちゅっ……んちゅ……」


「っ……」


「んむ、れろ……」


「ん!? んんん!?」


「はむ、ちゅっ、ちゅ……」


「んんんんんん」


「あ、あの、ドラコさん……ポンプさんもう正気に戻っているのでは……」


「じゅ……ずぞぞぞぞぞッ!!!」


「んんんんんんん!!!!?」


「ずぼぼぼぼぼぼ」


「んんんんんんんんんん」



 なんだかポンプが戻ってきたような反応があった気がしたが、それを境にドラコは、中のスライムを吸い尽くしてしまいそうなほどのバキュームを開始。

 アバルドをはじめとした、それを見ていた全員の目玉が飛び出している。



「じゅるっじゅるっ、ぞぼぼぼぼぼ」


「……」



 結局スライムを吸い出していたわけではないようだが……

 とりあえずポンプの生気は全て持っていかれたようで、『ちーん』という効果音が鳴りそうなほどに脱力している悲惨な状態に。


 ようやっとドラコが唇を離すと、



「はぁ〜いいねぇ若い女のエキス!!!」


「……は、、……ハァ……ハァ……」



 完全に顔が青ざめているポンプは、



「マコト様に………捧げると決めていた……私の……初めてを……う、うばっ……奪われた……奪われてしまいま……した……」


「お礼は?」


「助けてくれて……ありが、とう……ガクッ」



 取り乱していて、正気が戻ったんだか失ったんだかわからない状態になっているポンプだが、ちゃんと思い出せばお礼は言う、やはり善良な人間である。


 それを確認したドラコは、



「いい子だね。ではご褒美にチュウをもう一発」


「「「やめろ!!!」」」



 総ツッコミを食らうのだった。


「魔王軍幹部……ラムゼイは、魔物を操るであります。ポンプさんの中のスライムもその対象になってしまったのでありましょうな……ドラコさん、重ね重ねお礼申し上げるであります」


 気絶したポンプは、アバルドが安全な場所まで連れて行くことになった。



「さて魔術師たちにも解散いただいたけれども……どうしよこの状況。マコトっちを探す……よりも先にドラゴン様かな!!?」



 ようやく自由になったドラコは、行動開始する。愛しのドラゴンを探して……


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