#12 飛ぶガーゴイルを落とす勢い
「あああああ落ちるぅぅぅ!!!」
俺の周りからガーゴイルが一斉に離れ、フックガンも役立たずと化し、校庭へ落ちていくしかない。
心なしか、上空から俺を見下すマザーガーゴイルの顔が嘲笑ってるみてぇだ。
そんな時。
「マコト、手伝うよっ!!」
下から聞こえてきたのは、プラムの声だ。
落ちながらもどうにかそっちの方へ顔を向けると、魔法の杖を持ったプラムと、弓矢を構えたリリーの姿がある。
――そうだ。良いことを思いついたぞ。
「おいリリー! 俺の近くに矢を飛ばしてくれ! このフックガンを引っ掛けて、マザーガーゴイルのとこまで飛んでくから!」
「えぇ!?」
リリーは青ざめるくらい不安そうだ。
ま、当然の反応だわな。高速で飛んでくる矢にフックガンを引っ掛けるなんて意味不明だ。
でも、いいんじゃね?
ここ異世界だし。
ファンタジーなんだし。
騎士だの魔法だのが当たり前の世界で、俺は日本人としての常識に囚われる気はねぇな。
「じゃ、じゃあいきますよ!? マコトおじさん!」
「頼む!」
かなり上を狙って弓矢を引き絞るリリーは、「当てないように当てないように……」とブツブツ呟きながら矢を放った。
おいおい大丈夫かよ?
って、心配してる場合じゃねぇ、飛んでくる矢にフックガンのフック当てねぇと!
「そら、当たれ! ……クソッ」
まだ俺の下から迫ってきてる矢を狙って撃ってみるが、外れちまった。
やべぇな。難易度高ぇ。
矢が俺の横を通り過ぎ、上空へ。飛距離としちゃマザーガーゴイルに届くほどでもねぇな。
俺はもう一度、よく狙い撃つ。と、
「しゃっ!」
奇跡的にフックが矢に巻き付いた。
引き金を引くと、俺が矢へと吸い込まれるように飛んでく。
フックガンのワイヤーを全部収納したところで矢の勢いは死んじまって、
「も、もう少し……もう少し高いとこに行きてぇ!」
結果としちゃマザーガーゴイルの足元までは行けたが、パンチもキックも届かねぇ。
空中で武器ガチャして何か投げるとか、俺にゃそんな器用なこともできねぇしな。
すると、
「おーいマコトーっ! アバルドが行ったぞー! 台にして飛べーっ!」
聞こえてきたのはジャイロの声だ。
今や下の方にある、学園の五階から顔を出して話しかけてきてる。
どういう意味かと思ったら、
「ぎゃああああ高い怖い! いきなり団長に投げ飛ばされたでありますぅぅぅ! マコトさん踏まないでほしいでありますぅぅぅぅ!!」
黒髪の真面目騎士、アバルドがジャイロに投げ飛ばされて俺の近くまで飛んできやがった。
いやこいつこれでも小隊長なんだろ!? ジャイロの奴、部下の扱いひでぇな。
ま、
「すまんアバルド! 世のため人のためだ!」
「ぎぃやぁぁぁぁぁ!?」
しょうがねぇから踏み台にさせてもらうけどな。
アバルドの見た目以上にゴツい体を利用してジャンプし、だいぶマザーガーゴイルに近づけた。
さて、これでもまだもうちょっと遠いが。
「よっしゃー! オレも今行くぜマコト、相棒ぱわーでマザーガーゴイルを討伐――」
「…………」
泣きながら落ちてくアバルドと入れ替わるように、今度はジャイロが炎の魔法をロケットみたいに利用して高速で飛んできた。
剣を構えて、マザーガーゴイルを殺す気マンマンのようだが、
「すまんジャイロ! 世のため人のため俺のためだ!」
「ぐあーーーーッ!? 最後に本音出しやがったな、マァァーコォォートォォーーー!!」
ジャイロの顔面を踏んづけてジャンプ。落ちていくジャイロの代わりに、とうとうマザーガーゴイルの頭上まで飛んできたぜ。
――おっと!? マズい、上位種のエリートガーゴイルどもに囲まれてる! 想定してなかったな……
「ギウェェェ!」
「ゴアエェェェェ!」
クソ、こいつらとやり合ってたら滞空時間が過ぎてってまたマザーガーゴイルから離れちまう!
どうする!?
「〈ファイア・バレット〉!!」
「ヴギェェッ!?」
その時、下から高速で飛んできた火の玉が一体のエリートガーゴイルを焼いた。
さらに、
「ぼよ〜〜〜ん♪」
「ガギャァァ!?」
「ギョォォォォ!?」
回転しながら飛んできたバカでかいハンマーが、二体のエリートガーゴイルにぶつかって打ち落とす。
数体のガーゴイルたちを巻き込みながら落ちていくハンマーを見てると、
「ネムネム! プラム!」
五階から笑顔を向けてくる小さな女性騎士ネムネムと、昇降口の当たりでサムズアップをしてくるプラムの姿が。
――ナイス、サポート。
「邪魔はなくなった! これで終わりだぜマザーガーゴイル!!」
もうマザーガーゴイルと、その頭上を飛ぶ俺の間には、何の障害物も無い。
……決めてやる。
「ギェェェェエエエ!!!」
咆哮を上げ、マザーガーゴイルは必死で兵士たちを生み出そうと体に力を溜めている。
――俺は両方の拳に白いオーラを纏わせる。そのパワーと硬さは、鋼鉄をも凌駕する(適当)!!
下にいるマザーガーゴイルと堂々向かい合い、
「〈雨・拳・乱打〉!!!」
技名通り。
雨のように止まらねぇ、拳の乱打。だがこれが雨ならゲリラ豪雨ってとこだな!!
「おらおらおらおらららららららぁぁ!!!」
「ゴギャ! グギャ! グゲゲゴギ! ボグァ! ガ、ギゴ、グッ! バギャアアアアアア!!!」
降り注ぐ拳の暴威。
くだらねぇ防御などボコボコにし、マザーガーゴイルの全身を俺の拳が抉るように痛めつけていく。
「うおらぁぁぁぁぁぁぁぉあ!!!」
かろうじて生み出されてくるガーゴイルたちも、まとめて俺の拳の餌食!
どうしようもなくなったマザーガーゴイルの体から抵抗力は失われ、俺のパンチを余すことなく全部受けながら校庭へと真っ逆さま。
「おおおおおおおおおおお!!!」
……ドゴォォォォォォ――――!!
本当に隕石みてぇにデカいマザーガーゴイルの体が、隕石みてぇな速度で校庭のド真ん中に墜落。
もくもくと上がった砂埃から現れるのは、ピクピクと痙攣するだけのマザーガーゴイルの上に立つ……
「はい俺の勝ちぃ! 残念でしたぁ!」
この俺、マコト・エイロネイアーだ!!!




