#118 SIDEプラム:暴れん坊クソガキ
大パニックになっている壁の中だが――壁の外もまた、良くない状況である。
「あっ! 魔物と戦ってるの、魔術師団の団員たちかな!?」
「……恐らく。応援を呼んだので」
今のはプラムとモブ魔術師の会話。ペルセホースと別れ、サンライト王国を目指す。
外壁は魔物の群れに囲まれていた。
マゼンタの張った『結界』のおかげで侵入はされないものの、外から壁内へ戻るのが困難になってしまっているのだ。
「シュコー……流石にあの量では……」
「ああ、俺たちも手を貸すようだな」
重傷のマゼンタを抱えている冬の騎士が、レオンに話す。
レオンは返事して――すぐ首を傾げ『やっぱり戦う必要無いか?』と考えを改めているようだった。なぜなら、
「邪魔な魔物たち〜〜……!!」
後方で、プラムが杖に力を込めている。
『愛の魔法』を手に入れたプラムが、別人のごとく異常に強くなっているのは周知の事実。
だが、あの山のような量の魔物を全て倒すのはさすがにキツいだろう……と考えてくれたようで、
「まぁいい。少し減らそう――冬の騎士、右端を削れ。俺は左だ」
「……コー……さむいが了解……中央は?」
「嬢ちゃんがブチかますさ」
「シュコー……なるほど」
立ち止まって魔力を溜めるプラムを背にレオンと冬の騎士は左右へ別れる。
冬の騎士はマゼンタを抱えながらも、頭上の『雪雲』を掴んで振り回し、
「……〈湯けむり殺人事件〉」
ルークの魔法には及ばない薄い雪がバラ撒かれて、霧のように白く周囲に立ち込める。
壁へ向かっていた魔物たちが霧に包まれていると気づく頃には、
「ギャア!?」
「オオオッ!!」
「ガアァッ!」
よくわからない内に、次々と冬の騎士に斬られて命を奪われていった。
右端の削りが完了。そして左端ではレオンが、
「ゲッ――」
「ギャッ――」
「――〈刹那の剣 死線斬〉!!」
一瞬にして壁付近まで駆け抜ける。地面にくっきりとラインが引かれる。
レオンが通過した直線上の魔物たちは、叫ぶ間も無く地面ごと斬り殺されていた。
「うわぁ二人ともスゴい技〜!! どうしよ! 『愛』が溢れてきちゃう!」
ギャグ漫画みたいにハート目になったプラムだが、だいぶ魔力が溜まってきていた。
「みんな伏せてっ、デカいのいくよ〜!!」
「「「!!?」」」
プラムが大きな声を響かせたため、レオンも冬の騎士も、モブ魔術師たちも恐れをなして身を屈めた。
「〈過剰なる愛の鼓動〉ぉぉぉ!!!」
「「「――――ッ!!」」」
いつもは一本の線であるハートビームが、プラムを起点として扇状に範囲を広げた。
その結果、中央に残っていた魔物たちが一体残らず消し飛んだのは言うまでもない――
▽ ▽
同行していたモブ魔術師が、応援に来ていたモブ魔術師たちに合流。
『ダンジョンの怪物がやって来る』『ペルセホースに酒を持って行かなければならない』と伝えた。
そして応援に来たモブ魔術師たちも『壁内には国民が姿を変えた魔物もいる』と報告してきた。
伝えることを伝えて、モブ魔術師たちは一致団結して忙しなく走っていった。
レオンは周囲を見渡して舌打ち。
「思った通りの惨劇か……!」
「どうするの? レオン」
「ラムゼイを討つことが先決だが――どうやって会えるかもよくわからないし、会えたところですぐに倒せるかどうか……」
「う〜ん」
「ひとまず俺は、奴に辿り着く手がかりを探しつつ魔物を倒していく」
「レオン速くて強くなったから、何でもかんでも殺しちゃわないように気をつけてね」
「嬢ちゃんにだけは言われたくないが……ん?」
呆れながらプラムの方を振り向いたレオンだったが、驚愕。
「あれ? 嬢ちゃん!? 嬢ちゃんどこだ!? 何てこった。迷子だ!」
「……コー……不思議な現象……さむっ……」
たった今話していたプラムが一瞬の内に消えてしまったのだ。
焦ってドタバタと見回すが、見つかることはなかった。
唯一……察しがついたかもしれないマゼンタは、残念ながら眠っていたから。
▽ ▽
「あ、あれ〜……ここどこ……?」
今の今までレオンと話していたはずのプラムは、気づいたら暗闇の中にいた。
かなり下の方から話し声が聞こえ、見下ろしてみる。
暗闇のようなのに暗いわけではないのか、下にいる人の姿ははっきりと見えた。
「あ〜アーノルド先輩! 騎士団ではお世話になりましたぁw また会えて嬉し〜w」
「急に変な世界迷い込んだと思ったら……先輩だって? よくそんな風に呼べるよ。頭おかしいんだな」
楽しそうに煽っているのは……ラムゼイだ。この事件の黒幕。
対して、話していて煽りだと気づいていない騎士はアーノルド。
「へいへい『魔王軍幹部』たち……このエクスカリバーに勝てると思ってんのかな〜ぁ??」
逆に煽ってるアーノルドは、肩に担いでいた大剣を振りかぶる。
聖剣エクスカリバーが振り回されて、
「……ん? 不発?」
いつもやっている、ソニックブームのような『光属性の飛ぶ斬撃』が出ない。
そもそも普段のように、刀身が青白く輝いていない。
「この世界入るまでは死神を撃ち落としまくってたのに……今は光ってない……つまり、今は普通の剣と同じゴミってわけか……」
伝説の聖剣を『ゴミ』呼ばわりする無礼極まりないアーノルドは、
「となると俺は一般人同然……」
一応、自分がエクスカリバーありきの騎士であることは理解していたらしく、
「じゃあ俺が取るべき行動は一つだ!! 見てろラムゼイっ!!」
「あ?」
「――逃っげろぉ〜〜〜〜!!!」
騎士とは思えない軽快なフォームで、手頃な『裂け目』から走り去っていった。
全部見てしまったプラムは、蔑むような顔。
「うわアーノルド……だっさ……」
「それは否定できぬな……」
「って、え〜〜〜!? ウェンディ!?」
「ちょっ、バカ、あんた……バレるでしょそんな大声っ……!!」
「ジキルも!!? ここにいたの!?」
少し下の方から同意の声がしたと思ったら、十字架に拘束されたウェンディとジキルを見つけた。
驚いた声はラムゼイにも届いてしまい、
「次から次へ侵入者――あぁ、マコトの相棒のガキじゃないか」
「……」
「楽勝だ。魔術師だろ、どうせ」
「……魔術師だと何なの?」
ナメたような物言いに内心ブチギレているプラムだが、まだ冷静を装う。
大人だから。ガキじゃないから。冷静。
「はっ、どうせ吹けば飛ぶようなクソガキだ、教えといてやるよw」
「……」
かなり我慢の限界が近いが、
「この〈混沌世界〉はな、入った奴の『魔法適性』を奪う世界なんだよぉ! 『魔法を使えない者』と『闇属性を持つ者』だけが、ここで生き残れる!」
「……!」
「だから魔術師は軒並み生き残れないんだよ〜w お前んとこの団長のマゼンタも、兄貴分だっけ? のルークも、俺たちがボコボコにしちゃいました〜w」
「……っ!!」
マゼンタが敗北したトリックがわかった。
ルークが敗北したことも知れた。
だが、何よりも。
「もぉ〜〜〜〜許さないッ!!!」
「お?w 怒った?w 怒った?w 本当にやる気かよ、ガキ相手だろうと手加減しないからな?w」
怒りが収まらない。
自分が煽られるよりも、大切な人たちが愚弄されることが一番に嫌だった。
プラムは崖のようになっていた黒い地面から飛び降りて、
「あっ……プラムちゃん……」
「ハァ……ハァ……ちょっと……ラムゼイ!? 私、今……ギリギリ戻ってこれたのに……侵入されすぎ……ハァハァ……『裂け目』を出しすぎなんじゃないの……!?」
ラムゼイと、なぜか四足歩行のハイドは見えていたが、
(え……フィー先生!? ネムネム!?)
意味がわからない。
知っている人たちが、当たり前のように黒幕と肩を並べて喋っている。
振り上げた拳が行き場を失いかけるが、
「プラム! あれは全部『敵』だ!!」
「……うんっ!」
ウェンディの真っ直ぐな言葉が胸に刺さり、再び闘志が燃えてくる。
きっと事情がある。プラムは、仲間の言葉を疑わない。
「〈愛の……ぃぃぃぃ!!!」
「「「「ッ!?」」」」
空中、振り上げた拳にピンク色の魔力が集まっていく。拳の先で無数のハートが渦を巻き、
「え!? ラムゼイ!? あれ何!? 魔法は使えないんじゃないの!?」
「し、し、知るかよ……!」
「あれって『愛の魔法』って属性じゃないの!? プラムはダンジョンでも使ってたけど……」
「知らないってんだよ!! いや『愛の魔法』自体は知ってるが、適性を奪えないなんて想定外だ!!」
「でもあなたが操作したダンジョンで得たんじゃないの!?」
「だから想定外だっつってんだろ!」
「プ、プラムちゃん……それは待って……私です、フィー先生ですよ!」
「ワン! ワン!」
着地点を見据える。
何やら『敵』どもが焦りまくってギャーギャー騒いでいるが、今のプラムの耳には入らない。
そのまま流星のごとく急降下。
「それは……ヤバいよ!」
「待て待て待て待て待て」
「ワンワン!」
拳に集約されるピンクの魔力を、渦を巻くハートを、全てを……
着地点に。
あいつらの、ド真ん中に!!
「…………衝撃〉ォォォ!!!!」
ドゴォォォォォォォ――――ンッ!!!
着弾。
眩いほどピンク色に輝く魔力が弾け、信じられない威力の大爆発を起こし、衝撃波が〈混沌世界〉全体を揺らす。
「「「「ぎぃぃやああああああ――――」」」」
その一撃は、クソガキと舐め腐ってふんぞり返っていた『魔王軍幹部』たちを一人残らず吹き飛ばし、奴らの常識をひっくり返した。




