#11 ガーゴイル軍団 vs 武器ガチャ
親玉のマザーガーゴイルは空から俺を睨みつけ、自分のデカくて丸っこい体から、何体かガーゴイルを生み出した。
そして、
「ギェェ……」
「ギェ!」
「グェェ!」
まずは二体、俺の方へ寄越してくる。
難なく俺は木製バットを振るい、二体ともぶっ飛ばし、窓を蹴破って校庭に出た。
「っ、うお!?」
すると、どっからか伸びてきた腕がバットに巻き付いてきて、バキッと折りやがる。
ドロッパーガーゴイルか。
「邪魔なんだよ!」
バットを捨てるしかない俺はすかさずスタンガンを生み出して、巻き付いてきた腕に押し付ける。
「ヴギィエエエエ!?」
「ざまみろ」
感電したドロッパーガーゴイルが墜落したのを見て、スタンガンを捨てる。
スタンガンが消失した代わりにライフル銃を生み出し、
「これでもくらえデカブツ!!」
ありったけの弾丸をマザーガーゴイルに向けてぶっ放しまくる。
無くなるまで連発で撃ちまくったが、
「……効いてねぇのか?」
マザーガーゴイルは涼しい顔。
当たってるのは間違いないが、本当にダメージが入ってるように見えねぇ。硬い皮膚を持ってるとは思えねぇんだが……
悩んでいると、
「マコト……さん」
「おっ、フィーナン。大丈夫か?」
さっきリリーを庇ってエリートガーゴイルの攻撃を受けまくってた教師、フィーナンが廊下の中から話しかけてきた。
元気は無さそうだが、かと言って命に別状があるわけでもなさそうだ。
「だ、大丈夫……です。それより、マザーガーゴイルのことですが」
「おう」
「学校の校舎にも匹敵するほどの、あの大きさなので……そこらの低威力の攻撃では、効かないでしょう……」
「マジで?」
「はい。人間が……ほら、蟻さんとかに噛まれたってビクともしませんよね? そういう感じです」
なるほど。
確かにアリに噛まれると痛いっちゃ痛いが、大抵は大騒ぎするほどでもねぇし、毒でも無ければ話題にもしねぇよな。
それと同じで、小さな俺が剣だの銃だのでチクチク攻撃しても、マザーガーゴイルには届いてんだか怪しいってことだろ。
「質量には……質量です、マコトさん。この学園の英雄になってください……!」
「了解だ、先生」
教師としてしっかり必要な知識を教えてくれたな、フィーナン。
尊敬するよ……やっぱ俺にゃ、指導者は無理だから。
さて『敵を倒す』っていう俺の唯一の役割、果たすとしますかね。
「プラム、リリー! フィー先生を騎士に預けて、お前らはガーゴイルと戦いながらスタンバイしててくれ! 俺を手伝ってもらうかもしれん!」
「う、うん!」
「はい!」
いつ他の奴の手が必要になるかわからんからな、こうやって保険をかけておく。
質量には質量ねぇ。さっさと終わらせてぇところだが、やっぱ確実なのは、
「ぶん殴ることかな……」
恐らくどんな銃よりも、爆弾や刃物よりも、一番火力が高いのは俺の本気のパンチだと思うんだ。
ただ、問題はマザーガーゴイルがずっと空を飛び続けてるってこと。
どうにかして俺も高く飛んでかねぇと、パンチが届かねぇ……
「そうだ」
閃いた!
マザーガーゴイルが自分の体からガーゴイルをニョキニョキ生やしまくってるのを見て、思いついたぞ。
「来やがれ! こっちだオラ!」
都合良く、数体のガーゴイルが行列作ってるみてぇに整然と並んで飛んでくる。
チャンスだ。
「グェェェ! ……ゲッ!?」
「踏み台サンキュー!」
俺はジャンプして、先頭のガーゴイルの頭を踏んづけ、それを踏み台にまたジャンプ。
さらに少し高いところにいるガーゴイルの頭を踏んづけ、またジャンプ。
ガーゴイルは大量だし、しかもマザーガーゴイルが健在な限り無限湧きときてる。
こうやって進んでけば簡単にボスにたどり着ける――
「グガ!?」
おっと。マザーガーゴイルの目が変わった。
どうやら俺が何をしてるんだか、しっかりと理解しやがったらしく、体からドロッパーガーゴイルを生やして派遣してくる。
マズいな、空中だと逃げ場がねぇ。
「うわっ!」
「ギェギェ! ギェェ!」
長い腕に巻き付かれ、捕まっちまった。クソ。力が強くて引き剥がせねぇ!
やべぇやべぇ、空中だってのに、すげぇ量のガーゴイルに囲まれ始めた。
さっさと逃げねぇと。
「くらえ、花火だ!」
「ギゲェェェェ!!!?」
俺が手に生み出したのは手持ち花火。ススキ花火?とか言う、ほら、前方にブシューって火が出るやつだ。
最初から着火されてたんで、それを掴んでくるドロッパーガーゴイルの顔面に押し当てた。
良い子はマネすんなよ?
って、やべ、ドロッパーガーゴイルの野郎、俺を離して手で顔を覆ってる!
俺落ちる! 落ちちゃう!
クソ! 振り出しに戻ってたまるかぁ!
「出ろ、頼む出てくれフックガン!」
フックガンだっけ? フックショットだっけ? よくわからんがフックを物に引っ掛けられるやつ。
あれだって人や動物に当てたら立派な武器だろ!
「おい、ヤカンじゃねぇか! こんな時にハズレとか勘弁してくれ!」
お湯沸かしとる場合か!?
フックガンだ、フックガン! 出ろ出ろ……
「これは!? 水鉄砲かよ! ちょっと近くなったけどいらねぇよ!」
ガーゴイルの顔にでも噴射するか!?
何の役にも立たねぇ! マズいってこれ落ちるって! 早くフックガンを……
「おっ、キター!!」
先端にフックが付いてる、銃の形をしたもの。とりあえず引き金を引く。
瞬間、すごい勢いでワイヤーが射出されていく。落ちていく俺よりも少し高い位置にいるガーゴイル目掛けて、飛んでいく。
「ウゲェア!」
上手く調整して、フックとワイヤーを絡みつけてガーゴイルをグルグル巻きにする。
宙吊りの状態。仕組みはわからんが、もう一回引き金を引いてみると、
「うおおおおお!!?」
ワイヤーを巻き取るっていうか、俺が巻き取られていくような感じでガーゴイルの方に引っ張られていく。
ガーゴイルのところまでたどり着いたら、
「どりゃあ!」
「グゲ!」
ぶん殴って吹き飛ばし、また次のガーゴイルに向かってフックを射出。
その繰り返しでまたマザーガーゴイルへ近づいていくが、
「……ゴェェェェ!!!」
なんだ?
マザーガーゴイルが急に大声を上げた。まるで号令でもかけたみたいだ、と思ってると、
「あれ!? ……おい嘘だろ!?」
俺の周りからガーゴイルが一体もいなくなりやがった! フックガンが届かない範囲までみんな逃げやがったんだな!
あのマザーガーゴイル、やり手だぜ。とか言ってる場合じゃねぇ。
「落ちるぅぅぅ!!?」
振り出しに戻るどころの話じゃねぇぞコレ。
こんな高いところから校庭に真っ逆さまに落ちちまえば、致命傷は免れん。
戦線復帰できなくなるだろ。
ピンチだ。
――だが、俺は半年ぶりに大きな戦いに参加したもんで、すっかり忘れてたんだ。
俺の武器は、自分や、自分の能力だけじゃねぇってことを。
「マコト! 手伝うよ!」
英雄、なんて呼ばれる俺だが。
実際のところ、一人で何かを成し遂げたことなんてほとんどねぇな。
本当に大事な俺の武器は――いつも、すぐ近くにいるから。




