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#107 魔王降臨



「はっ……?」


 王都の大通りで、大の字になって意識を失っちまってた俺は目を覚ます。

 隣には同じく気絶したルーク。


「お、おい……起きろ……!」


 出血はすごいが死んでなさそうだ。

 だが、体を揺すってやっても起きない。


「や、やべぇぞ……!!」


 揺らぐ視界の中でも、周囲を見渡せば、簡単に状況はわかった。



「ぎゃあああああ」

「うああああ」

「キャアアアアアアアアアア」

「ぐあぁぁぁ」

「ああああああ」



 王都は――やっぱり地獄に成り果ててる。


 大量の死神が空を舞い、鎌を振るい、罪もない国民たちが抵抗もままならず狩られていく。

 騎士団や魔術師団が対応して必死で国民を守ろうとしてるが、死神って魔物は強いし量も半端でなく、間に合うワケがない。


 悲鳴と血飛沫の飛び交う、最悪の光景。


「クソ……!」


 ルークは一旦置いといて、俺はフラつきながらも民家の壁を頼って立ち上がる。

 何ができるかわからんが……居ても立ってもいられねぇだろ、こんなん。



「ハァ……ハァ……ッ! ッ!?」


 ――ドクンッ!!



 い……痛ぇ……!?

 右胸が……またおかしいぞ!? あの変な世界を脱出したってのに!


 ――ドクンッ!!


「あぁぐッ……」


 右胸を押さえながら……というか、痛みを消そうと鷲掴みにしながら、俺は歩き出す。

 非常にイヤな予感がするな。



「あ……あぁっ……誰か助けて!! 夫が……夫の様子がおかしいの!!」


「ん……?」



 助けを求める女の声。どうやら夫婦で逃げてたらしいが、夫の方は這いつくばってて様子が変だな。

 ゆっくり近づこうとすると、



「あなた!?」


「お……おぉ……オオオオッ……!!」


「キャーーーッ!!!」


「オオオオオ」



 ()()()だ。

 信じられねぇ。男の全身がボコボコ盛り上がっていって、変身していって、オーガってデカい魔物になりやがった。


 王都にオーガが現れるって光景は、半年前にも見た。

 魔王との戦いが始まるって時だ。


 だが、あの時は……何でもない場所に、魔王の能力『魔物創造』で突然現れたってだけ。


 今回のは……何だ?


 人を魔物に変えるってか?


 ……どうすりゃいいんだ。


「うお! 空飛ぶ魔物だけではなかったか!? オーガがいるぞ!」

「さっきの巨大な鳥も気になるが……」

「いいからあのオーガを討ち取れ! 他の騎士も魔術師も、死神だけで精一杯だ!」


「や、やめて! あ、あれは……夫なの!」


「バカ言うな!」

「下がっていてください!」


 騎士どもが集まってきて、魔物であるオーガを討伐にかかる。

 泣きじゃくる奥さんはパニック起こしてる扱いで、無理やり後ろに下がらせる。


「おっしゃ俺のエクスカリバーが火を吹くぞ!」


 モブ騎士だけだったらオーガを倒すの自体が大変だったかもしれねぇが、アーノルドがやってきてエクスカリバーを光らせる。


 いや――そりゃそうだわな。

 騎士を責められねぇよ。これは。


 だから、



「やめろ!! やめろお前ら!!」


「え!?」

「マコト・エイロネイアーさん!?」

「なぜ!?」



 知名度のある俺が、この事実を伝えなきゃならねぇ。


「そのオーガは……ぅゴフッ!!!」


 ――ドクン!! ドクンッ!!


 やべぇ。

 右胸の鼓動と激痛が、いよいよ治まらなくなってきやがった。また吐血だ。


「どうされました!?」

「え!? オーガが何なんです!?」


「うぐぉ……」


「おい、来るぞどうする!?」

「攻撃していいのか!?」


「マコトさ〜ん、止めといて吐血じゃ意味わかんないすねぇ。やっぱエクスカリバーで斬っちゃいますよ!?」


 仲裁したことであのオーガが普通じゃないことは察したらしい騎士どもだが、発端の俺が喋れなくなっちまったモンだから、伝えられねぇままオーガが暴れ出す。

 あの魔物だって強いんだ、騎士も奥さんも危ねぇぞ。いや、エクスカリバー相手じゃ一瞬で真っ二つか。


 俺は思い出す。



『『魔王』になるためには『魔王』を殺すこと。つまり、まだ『闇の心臓』もとい『闇属性』が覚醒していないお前は、まだ真に『魔王』とは呼べない』



 ラムゼイが、あの〈混沌世界(カオス・ワールド)〉とかいう世界で喋ってたこと。



『だからお前を闇堕ちさせるための嫌がらせを続けた……』



 あいつの今までの全ての行動は、俺を闇堕ちさせるため。

 そして、



『――どうしたマコト・エイロネイアー? 『闇の心臓』が……魔王の血が騒いできたか?』



 あの世界に俺を呼び寄せたのも、闇堕ちさせるための嫌がらせ……その最終段階。

 この右胸の『闇の心臓』の鼓動……


(畜生……もう避けられねぇらしい)


 どうせ動けねぇ役立たずになるんなら、とりあえず身を委ねてみよう。

 開き直るんだ。


「オオオオオ!!!」


「「うわぁぁあ」」


 オーガが棍棒を振り上げ、騎士や女に向かって振り下ろそうとする。

 アーノルドがエクスカリバーを振りかぶる中、飛び込んだのは、




「う、らあああああァァァ!!!」


「オオッ!?」




 謎の力でジェット機のようなスピードを出した俺は、すんでのところでオーガの顔面をパンチ。

 吹っ飛ばして民家に激突させ、気絶させた。


 よかった。

 力が湧き上がってくるんで調整が難しかったが、ギリ死なない程度にはできたようだ。


「あれ! マコトさん!? 攻撃して良かったんですか!? 俺の出番奪いたかったの!?」


「このオーガは……そこの女の旦那さんが変身したんだよ!」


「え!?」

「何ですって!?」


「だから……殺すな!! ラムゼイをブチのめしたら……きっと元に戻せる!!」


「と、とはいえ……これ以上魔物を増やし続けたら……」

「殺さず倒すというのも、逆に大変だ」

「って、ラムゼイ!?」


「ゴチャゴチャうるせぇ!! アーノルド、お前ら! いいから、死神とかいう空飛ぶ魔物以外は殺さないように、他の騎士や魔術師に伝えろ! できるだけ早くだ! いいな!?」


 きっと他にも魔物に変えられちまった国民はいるだろうし、増え続けるだろう。

 うっかり殺しちまったら……想像したくもねぇ。


 もしかして、また世界中でこんなことが起こり始めたりしねぇよな……半年前もそうだったようだが……


「でも……救世主(マコトさん)の言うことなら無視できないですね。よし、みんな! 他の奴らに伝えに行くぞ!」


 アーノルドが率先して行ってくれた。

 いつも無礼なヤツだが、こういう状況では割と頼りになるんだよな。



「建物が落ちてくるぞー!」

「うわぁぁぁ」


「……次から次に……!」



 今度は別の方向から、死神から逃げる国民の一団が走ってくる。

 死神か他の魔物がやったのか知らねぇが本当に民家が上から降ってくるし、どういう状況だよ!

 周りに騎士も……いねぇか。仕方ねぇ!



「ぬあぁぁぁッ!!!」



 落ちてくる民家を、俺は両手で受け止める。両足踏ん張らせても……キツいけどな!

 と思いきや、


 ドクン、ドクン、ドクンッ――!!


 右胸の鼓動に合わせて上手いこと力を出せば、やっぱり謎の力が湧き上がる。

 俺の体から、何本もの『黒い腕』がニョキニョキ伸びて、民家を持ち上げるのを手伝ってくれてるようだ。


「ひ……ひぃっ……」


「早く逃げろ!!」


「は、はいっ!」

「ありがとうございますぅぅ!」


 うずくまる国民を逃がしてから、



「んのクソどもがぁぁあ!」


「ヴオオオオ」

「オオオオ」



 数多の『黒い腕』と協力して民家をぶん投げて、追ってきた死神どもを押し潰す。

 何だろうな、この腕……?


「う……」


 あれ。おかしいな。


「……う……ぅ?」


 また意識が朦朧として、俺は倒れた。




 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。


 路地裏で倒れた俺の体は――どうやら、『闇』のオーラを噴き出してるようだ。



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