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#106 SIDEプラム:「たまには負けよう」

去年の10月末にも試験を受けましたが…1月末にも試験を受けたんですよ!?何で作者はこんなにも勉強漬けなんだ!?もう嫌だ!!

となっていました。しかも、細かい不運や、嫌な話が12月からずっと続いてて休む暇も無いんです。言い訳してしまいましたが、更新遅くてごめんなさい。

















 マコトとルークが『裂け目』の向こうへと侵入した直後、



「――ううっ」


「あぇ!? 団長っ!?」



 ひとまず待機していたプラムたちの前に『裂け目』から戻ってきたのは二人ではなく、重傷を負ったマゼンタだった。

 その瞬間『裂け目』は消滅。


 心配で目を潤ませるプラムは、倒れる彼女を抱き起こす。回復魔法〈ヒール〉を発動しつつ、


「ウソだ……団長がこんな傷だらけなの……初めて見たよ……? ねぇ何があったの!?」


「ありがとうプラム……でも落ち着いて……『裂け目』の向こうは、謎の世界よ……とにかく今は入ってはダメ……マコトさんとルークも……私と同じ目に遭っているかもしれないけれど……彼らなら、死にはしないはず」


「み、みんな負けちゃったの!?」


「……残念だけど……ね……今の状況では、勝てる見込みがあるとは……思えなかったわ」


 敗北を認めたくないのか、マゼンタは歯噛みしながら答えた。

 そして、


「……一瞬だったけど……他の『裂け目』から、こちらの世界へ……死神を大量に送り込んでいるのが見えたわ……」


「え!?」


「サンライト王国が危険よ……す、すぐに……壁の中へ戻らないと……」


「そんなっ……でも待ってよ! 団長の治療が先だよ!」


「いいえ……私は放っておいて。あなたは強くなったのだから、プラム……お願い。国民の安全を最優先に行動してほしいの」


「でも団長がいなきゃ、その、戦力? が……」


 焦った様子のマゼンタがプラムを急かし、話の流れが面倒なことになってきたところで――空気を読まない爺さんの声が割り込む。


「すまんのぉ。お前さんひょっとして、マゼンタ・スウィーティーかの?」


「……え……? そうだけど、あなたは……?」


「ふぉ〜っふぉっふぉ! 流石にこんなジジイを覚えとらんか! お前さんがまだ新進気鋭の若者だった頃に数回会った程度じゃが」


「ま、まさか……!?」


「久しぶりじゃな。長らく行方不明扱いじゃったろう? ワシはギルドマスターのペルセホース・メネフィオス。マコト君に救出されたのじゃ」


「生きていたのね、良かったわ……そうね、私がまだ若くて……魔術師団の団長になった……『若き天才』なんて呼ばれていた頃ね……」


「いやぁ〜大人っぽくなったのぉ〜!」


 あまりにも才能がありすぎて、15歳かそこらで団長になってしまったマゼンタは、自分の輝かしい若き日々を思い出す。

 もちろんペルセホースも今が世間話をしている状況ではないことを理解していて、


「そんな暗い顔せんでも、ワシや冬の騎士がお前さんを担いで運ぶくらいのことはできる。王都へ移動しながら、プラムちゃんに治療してもらおう」


 提案をするのだが、言われた通りの暗い顔を更に暗くするマゼンタが、


「いいえ……私はもう、足手まといよ……ここに置いていって。自分のことは自分で何とかするわ」


「ん〜?」


「私の才能は、もう枯れてしまったの……みんな、ごめんなさい。『王国最強』とも呼ばれる私が……こんなにも情けない姿を晒してしまって……!」


 プラムはようやく理解した。


 マゼンタは、重く責任を感じていたのだ。ただでさえ絶望の状況だというのに――『王国最強の魔術師』が、いきなり、あっさりと、敗北してしまったことに。


 だが、


「何を謝っておるんじゃ」


「え?」


 フォローしたのは意外にも、とぼけた顔をしたペルセホースだった。



「負け続きの人生も嫌じゃが……勝ってばかりの人生もまた、楽しくないもんじゃぞ?」


「っ!」


「『敗北』は良い。自分を見つめ直す良い機会じゃ。たまには負けておかないと、調子に乗って自分を見失うからのぉ」


「……」


「だから、他人の『敗北』『挫折』『失敗』だってバカにしてはいけないのじゃ。笑う資格など、誰にもありはしないのじゃよ」



 どんなに『最強』『有能』と呼ばれている人でもな……とペルセホースは締めくくった。

 突然ではあったが、人生の先輩からのアドバイスなど久しぶりだろうマゼンタの目には、涙が浮かびそうになっている。


「そうだよ団長! 敵だってヒキョーなことしてきたんだから、団長は弱くないし!」


「……プラム……」


「コー……あなたがやられていた時……シュコー……マコトやルークも責めるようなことはしなかったはず……純粋に仲間を心配していたはずだ……そうだろう? さむい」


「……ええ」


 プラムと冬の騎士も同意すると、マゼンタは微笑んだ。

 こうして『全員で王都へ急ごう』という方針が固まってきたところで、



「――嬢ちゃん! ペルセホース、冬の騎士……マゼンタ団長も!? 殺し屋の女はどこだ?」


「レオン! あれ、そういえばジキルいないね。どうしたの慌てて?」



 超スピードの騎士レオンが後ろから、ぜぇぜぇ言いながらも追いついてきた。

 どうやらダンジョンを見張っていた魔術師団員も抱えて連れてきたようだ。



「いや誰でも慌てる状況だろ……みんな、俺の来た方向を見ろ!」


「え? ……え〜〜っ、何あれ〜っ!?」



 異常事態。

 信じ難いことに――ダンジョンの入口が地面ごと盛り上がってきている。

 まるで生き物のように、地中の洞窟が巨大な体と化して這い出てきているのだ。


「レオンさん……あれはダンジョン……!? ()()()()()()()()()が、巨大な魔物として動いているということ……!?」


「そのようで、マゼンタ団長。あの入口が『頭部』に当たるならば、方向はこっち――つまりサンライト王国に向かってくると考えるべきだ」


「……何てこと……あんな巨体に襲撃されては、いくら私の『結界』でも保たないわ……壁が破壊されてしまう……」


「敵の真の目的など知らんが、とりあえず本気でサンライト王国を潰す気だな」


 しかし王都に戻るにも魔物の群れが押し寄せているので、そう簡単にはいかない。

 戻ったところで死神もきっと大量に出迎えてくるだろう。

 遂にはダンジョン自体も敵と化した。あれほどの巨体に対抗する術はあるのか……重なる絶望に沈みそうになる一同だったが、


「う〜む……」


「我が主……?」


 ペルセホースが顎に手をやって唸り、




「――ここはワシが引き受ける」


「「「えっ!?」」」


「お前さんたちは先に行け……ただし、一つ頼みを聞いてくれんかの?」




 一人でダンジョンの化け物を何とかすると決めたペルセホース。指を一本立てて、


「酒じゃ。死ぬほど大量の酒を持ってきてくれりゃあ、それでいい」


「飲んでる場合か……って、あんたの場合は本当に必要なんだよな」


 酒を飲むほど強くなる体質を知っているレオンが頷く。

 それを見た魔術師団員が「了解です」と言い、花火のような魔法を空に打ち上げる。


「今、応援を呼びました。壁に群がる魔物を蹴散らす援護、そして大量のお酒……我々、魔術師団にお任せください」


「すまんのぉ」


「いえ、我々下っ端はサンライト王国の平和を皆様に任せてしまっている立場。協力だけはさせてください」


「なるほど……じゃあ、頼んだぞい」

 

 たった一人残るペルセホースの後ろ姿に若干の不安を感じながらも、プラムたちは王都へと向かう。




「さて――長い付き合いじゃったが、ダンジョンよ。最後の大勝負といこうか」




 まだ数十キロと離れているのに、それでも見上げるほどの巨体が這い出てきた。

 いくつもの岩石が繋がったような歪な体がゆっくりと、大地を揺らして四足歩行を始める――


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