#104 混沌世界
気持ち悪いからじゃなくて間合いを測るためだが、バケモノスマイル野郎から距離をとった俺は、
「うあぁぁ!!」
草原に刀の刃を隠しながら、弧を描くように走って迫る。
ギリギリまで隠した刃を斬りかかる直前に振り上げ、確実にラムゼイの目元を狙う。
だがヤツも剣を合わせてくる。
「んん!!」
互いの刃の先端がぶつかったワケだが、ラムゼイは一歩踏み出し、
――ギャリリリリッ!
火花が散る。
俺の刀の上をスライドさせるように剣を動かして迫ってくるんで、
「ほっ!」
「っ」
俺に届く前に薙ぎ払い、追加の一撃。
さっきので体勢を崩したかと思ったんだが、
――ギン! ガンッ!!
簡単に防がれたし、オマケにもう一発も防がれちまったぜ。
「「おぉっ!」」
お互い斜めに振り下ろし鍔迫り合いに。
「……俺ってば、魔王とかに近づくとムカムカしてくる体質だったんだぜ……?」
「くっ……今はどうなんだよマコト・エイロネイアー、ムカつくのか? ん?」
「今はそうだ……だが今までは全く気づかなかった……せっかくスパイを炙り出せる体質のはずなのにな……」
「俺はギルバルト・アルデバラン様によって生み出された完璧な存在……『闇』を隠すぐらいのこと……わけはない」
力を拮抗させながら、俺たちは苦しまぎれに会話をする。
今のでパッと思いついたんだが、
「そっか、お前作り物だったな」
「ッ!!?」
ピキッ……と音がしたかと思うぐらい、ラムゼイの眉間にシワが集中した。青筋がもうドクンドクン波打ってますけど。
「あれま。地雷踏んじゃったか?」
「マコト・エイロネイアーぁぁ!!!」
「うお!」
急にラムゼイの剣からパワーが溢れ出してきて、軽く吹っ飛ばされちまう。
見てみると、
「〈混沌……・スラッシュ!!〉」
ヤツの剣が『闇』と『光』を纏い、俺を斬ろうと突撃してくる。
そうだ、あいつ光属性使えたな。あの設定も継続か。
さっき急にパワーアップしたのは、光属性も混ざったからか……回避しとこう。
「よっと」
予定通りに転がって回避するが、ラムゼイはそのまま二色の剣を振り下ろして、
――ザンッ!!!
何かが斬られたような音がした。
変だ。今の斬撃は文字通りに空を切ったはずなのに。
「あばよ……」
「はぁ!? どこ行くんだ!?」
最初に現れた時と同じ『裂け目』が出てきやがった!?
ラムゼイはそれを両手で広げて、ズズズ……と中へ入っていっちまった。
逃げたってことか……?
「……あっ、そういえば!!」
もう一体、死神ってヤツがいんのを忘れてたぞ! 冬の騎士が応戦してたが、
「ウ……」
死神を前にして膝をつく冬の騎士。ピンチじゃねぇか! ケガしてるようには見えねぇんだがな。
すぐに向かおうと思ったら、
「マコトさん屈んでっ!!」
「どわ!」
そういえばルークを背負ってるのを完全に忘れて戦ってたが、注意してくれたんで助かった。
何てったって、俺の頭上を大鎌の刃が掠めたんだからな。
「……後ろに死神!? もう一体いたか……!?」
「また『裂け目』から出てきたようです」
「ほ、本当だ……」
さっきラムゼイが作ってたヤツと同じのがある、アレからもう一体の死神が出てきたらしい。
あの裂け目から魔物が湧いてくんのか?
「〈愛の機関銃〉ッ!!」
――ドドドドドドドド!!
首を刈られそうになってた冬の騎士の後ろから、プラムがハートを連射して援護してるな。
――ガキキキキキンッ!!
死神は正面で鎌を高速回転。ハートの弾丸を全て弾く。が、
「しぶといなぁっ〈愛の鼓動〉!!」
「ヴオオオオッ」
ハートのビームが炸裂すると鎌もへし折られて、死神は消し飛んだ。
「〈混沌の豪雨〉」
「っはぁ!?」
またしてもラムゼイの声がして見上げてみると、空に裂け目があってそこから顔を出してやがる。
出てくる場所も自由自在かよ……空いっぱいに光の球と闇の球が広がって、
「やべぇ全部降ってくるぞ!?」
「〈氷の鳥籠〉!!」
ルークが俺たちの頭上や周囲に、ドーム状に氷を展開。鳥かごみてぇにお洒落な格子と装飾だけど、そういう魔法なんだろ。
その氷が、上からの弾丸の嵐は守ってくれてるんだが、
「ヴアーーー……」
死神はもう一体、まだ生きてる。
「あいつもカゴの中か」
「マコトさん、一瞬でいいので隙を作ってもらえますか?」
「ん? よし任せろ」
ルークの指示に従って突撃。死神は鎌を斜めに振り降ろしてきて、
「ふんっ!」
バックラーだっけ? 丸い盾を生み出して腕に装着してた俺は、タイミング良く鎌の刃にブチ当てて軌道を逸らす。
死神の体勢が崩れた。パリィってヤツだな。
「あなたは出ていってください」
地面からせり出したデカく太い氷柱が、死神の腹にぶつかって、鳥かごの外まで押し出す。
「オオオッ」
まだ続いてるラムゼイの攻撃、降ってくる光の球が死神を焼き殺した。
なるほど敵の攻撃を利用――ってか、この死神とかいう魔物、強いな。明らかに今まで戦ってきたザコ魔物とは質が違う。たった二体にこんなに手こずるとは……
と、
「――そこだなラムゼイっっ!!!」
「よくも俺の可愛い死神を……ッ?」
「振り返りジャンピングフロントキック!!」
「読まれて……ヴァ!?」
ヌゥッとラムゼイが現れるのをムカつき体質で先読みした俺は、ヤツが喋ってる最中に顔面に蹴りを入れてやった。
今の勢いでバックラーは飛んでった。
まだ裂け目から出られてなかったラムゼイは顔を凹ませたまま裂け目の向こうへ、とんぼ返りだ。このトンボ野郎めが。
でもって……
「え〜!? マコトどこ行くの〜!」
「いってきま〜〜〜す」
まだ残ってる裂け目を両手で広げ、俺は向こう側へ行ってみることにした。
ルークも背負ったままだが……
「何だ……こりゃ……」
「同じ世界とは思えません……」
裂け目の向こうは――まるで宇宙空間。いや、でも呼吸はできるし足も普通に地面に着く。重力はちゃんとある。
どこを振り向いても真っ暗で、表現するなら……『虚空』? 『虚無』? って感じだ。どこか幻想的でもあるが。
「それはそうだ……別の世界だからな」
「……ラムゼイ……」
どこからかわからんが、ラムゼイの声が響く。別の世界だと?
別の世界への出入口を自由に作ってたが……
「『光』と『闇』が揃えば、時空の裂け目も……新たなる世界も創ることができるのさ」
「ッ!?」
「マコト……お前が『救世主』ならば……俺は新時代の『創造主』となる!!」
「あ……」
ラムゼイが何だかペラペラ喋ってるが、俺とルークはこの虚無空間の中であるものを見つけ、聞いてるどころじゃなかった。
「……ハァ……ハァ……」
「マ……マゼンタ!!?」
「団長ッ!!!」
血まみれで、息も絶え絶えの……魔術師団の団長、マゼンタ・スウィーティーの姿だった。
王国最強の魔術師が……どうなってんだ。
「ようこそ〈混沌世界〉へ」
ラムゼイ……何しやがったあの野郎!!




