#103 フッ軽ラスボス
「お、おいおいっ……!?」
ルークを背負って走る俺にも見えた――ずっと先にあるサンライト王国を中心に、空へ『闇』が広がっていく光景。
半年前と似た状況だが違う点は、
「前は……こことは違う国、ムーンスメル帝国ってのが魔王の拠点でそこから『闇』が広がったし、戦いの舞台でもあったよな」
「……今回は、ラムゼイさんが『中』にいますからね。サンライト王国が戦場と化すのは、避けられないようです……」
俺の後ろで、ルークは泣きそうなほど情けない声で話す。
ちょっと様子がおかしいか? いや、でも気にしてる場合じゃなさそうだ。
「キィ!! キィーーーー!!」
「おお? ワシの伝達鳥が帰ってくるのう。じゃが、焦っている様子じゃぞ」
ペルセホースのペットもとい伝達鳥が、ジャイロに手紙を届けて帰還するが、甲高い声で鳴いている。そうだアイツ警報みてぇな役割もあるんだったな。
もう少し走って目を凝らしてみると、
「うわ〜!! 魔物の大群じゃ〜ん!?」
わかりやすくプラムが叫び散らす。
俺たちの先。水平線かと思うくらい大量の魔物の軍勢が、サンライト王国へ突撃しようとしていた。
だが、
「何だ!? おい、外壁を見ろ! なんか光に包まれてんぞ!? これも敵の仕業か!?」
「いえ、あれは……」
群れが外壁に辿り着こうとする直前、まるで外壁がコーティングされるかのように光が覆っていく。
ルークは答えを知っているようで、
「団長です! マゼンタ団長が……『魔物除けの結界』を張り終えたんです! 良かった。間に合ったようですね」
「マゼンタが……そうか、ならしばらくは安全……いや、今回は『中』がヤベぇんだった。でも外からの襲撃は防げるよな」
「はい。僕らも急ぎましょう。群れを蹴散らして王国の中へ!」
クソ、王国へ戻るにも面倒なことになりやがったぜ。
ってかそもそも、
「あの魔物ども……さっきまであんな量いなかったよな!? どうして俺たちがあいつらの背中を追うことになんだよ、どっから現れた!?」
疑問だ。北の森から湧いて出たとか、そういう素振りも見られない。
ダンジョンから王国までの原っぱで、突然に湧き出てきやがったとしか思えん。
しかし答えはすぐにわかることに。
「……気をつけろ……」
「あぁ?」
急に呟いた冬の騎士がドドドドッと走るスピードを上げ、
「ヴアーーー……」
――ガキンッ!!
俺たちの正面、これまた急に現れた敵の大鎌に剣を合わせた。
「何だコイツ!? 死神かよ!」
「は、はい、『死神』でしょう……よく知っていましたねマコトさん、滅多に現れない魔物ですが……」
「えっ? あっ、ま、まぁな!」
正解しちまったがまぁ今はスルーだ。
スケルトンみてぇな体の野郎が、黒いローブみてぇなのを着て、バカでかい鎌を振り回す。
まさに俺のイメージ通りの死神が、そこに浮かび上がっていた。
鎌の攻撃が重かったのか、受け流して飛び退いた冬の騎士。
「おい、お前戦闘はどんくらいイケる!?」
「……コー……《冬の騎士》の能力は……雪雲だけではなく、ある程度の身体能力や氷属性攻撃を保証はしてくれる……シュコー……《超人的な肉体》には劣るが……」
「可もなく不可もなくってとこか」
まぁ冬の騎士の戦闘力はわかったが、
「この死神……今どっから出てきた?」
俺たちの正面に、何の脈絡も無く突然出てきたよな。
瞬間移動でもしてきたのか?
「一瞬ですが……裂け目のようなものが見えた気が……」
「ん?」
ルークが呟いたその時、
「ねぇねぇ〜、裂け目ってアレのこと?」
「「え!?」」
プラムが後方を指差す。
確かに言語化するならありゃ『裂け目』としか言いようがねぇな。
そう、まさに大気が斬り裂かれたような――
「ちょっと、誰か出てくるんじゃない!?」
ジキルが声を震わせながらも叫び、刀を構える。
その様子だけでわかると思うが、何者かが裂け目から這い出てくるぞ。あれは……
「――せっかく群れを送り込んだのに、結界とは余計なマネをしてくれる。マゼンタ・スウィーティーめ……」
「ラムゼイ!!?」
当然のように『闇』を纏った剣を携えてやがる、魔王軍幹部。
いきなり悪役ムーブされてもこっちは理解が追いつかないんだが、
「ッ!!!」
事実は事実。あの野郎は敵だ。
刀を構えて突っ込むのは、ジキルじゃなくて俺だった。武器ガチャで刀を出したんだ。
「おっと、思ったよりも好戦的だな。魔王の心臓を持つ者――マコト・エイロネイアー」
「俺の心臓が大好きらしいなお前ら……その先の目的は何だ!?」
俺の刀攻撃を剣で防御し、ラムゼイは薄ら笑いを浮かべてる。
さすがは魔王軍幹部、つまりはハイドと同格ってだけはある――新人騎士なんて真っ赤な嘘だ、こいつ超強いぞ。
だって、
「あ、俺ジャイロ・ホフマンを殺したからな」
「ッ!!?」
俺の質問なんかガン無視で、全員に戦慄が走る爆弾発言しやがった……
ジャイロを殺したなんて……信じられねぇが本当なら手紙もクソもねぇし、そっから俺たちの方に飛んでくるとかフットワーク軽すぎだろ……
「ヴァーーーーー!!!」
「げっ……」
金髪イケメンの甘いマスクが……充血した目、口の中に並ぶ牙、そんなバケモノスマイルで台無しだぜ。
マジで人外の魔人なんだな……
笑ってるってことは、動揺する姿を見て喜んで……サディストかよ。




