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運命を紡ぐ双子と想いのキセキ  作者: 楓麗
第1章 募る亡き母への想い
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1-1.星見の丘

 クレイス遺跡をあとにしたぼくたちは、再びファーメルンの街へと戻ってきた。陽もすっかり空高くまで舞い昇り、眩しい日差しが絶えず街の中を行き交う人々の姿を明るく照らし出している。


 長いようで意外と短かった初めての遺跡調査。道中たびたび魔物の群や遺跡の守護者ガーディアンたちが行く手を阻んできていろいろと大変なこともあったけど、何はともあれみんな無事に帰ってくることができて本当によかった。




「ふぅ……ようやく、ファーメルンに戻って来られたな。どうだ、初めて遺跡調査に出かけた気分は?」


「うんっ! 最初はちょっとこわいなぁ……って思ってたんだけれど、実際に足を踏み入れてみると遺跡の中ってなんだかすごく神秘的でいろいろな発見もあって、い~っぱいワクワクした!!」


「おおぅっ! そうだろ、そうだろっ! あっはっはっは! 俺も初めて親父に連れられて、遺跡の中に足を踏み入れた時はもうワクワクが止まらなかったぜ。そう考えると、やっぱりフィアーナは俺のだな! まったく、血は争えねぇってこったぁ!!」




 フィアの屈託のない楽しげな笑顔を目にし、お父さんもすごく満足した表情で透かさず大きな笑い声を上げる。周りの目なんか気にも留めず、ただ無邪気に立ち振る舞う姿が何ともお父さんらしい。


 それにしても、まったく血は争えないか……。


 確かに、お父さんの言う通りだ。見れば見るほどフィアとお父さんが見せる笑顔は、どことなく似ているような気がする。




「フィオーラ、お前も初めての遺跡調査にワクワクが止まらなかっただろ?」


「ああ、そうだね……うん、すごくワクワクしたよ。でもそれと同じくらい、お父さんの計画性のない猪突猛進な行動には毎回、すごくヒヤヒヤさせられたけどね」


「あっはっはっは! フィオーラはフィアーナと違ってなかなか手厳しいな、おいっ! 慎重なのはもちろん良いことだが、時には大胆不敵に捨て身の覚悟で打って出ることも大事なんだぜ?」


「はぁ……確かにそういう気合いも時には必要かもしれないけど、お父さんの場合は命がいくらあっても足りないよ……ねぇ、フィアもそう思うでしょ?」




 同意を求めようと、ぼくはすぐさまフィアの方に視線を移す。同じくお父さんもフィアの回答が気になっているようで、今もじーっとフィアに向かって熱い眼差しを送っている。


 そして、突然話を振られた肝心のフィアの方はと言うと……予想通りと言うかなんと言うか。ぼくとお父さん二人分の視線を一手に浴びて、おどおどとしてしまっているようだ。何度もぼくとお父さんの顔を見比べては、何か言いたげに口元をもごもごとさせている。


 でも最終的には、ぼくの方でフィアの視線がピタリと止まった。




「う、うん……今回ばかりは、わたしもフィオと同じ気持ちだよ。ねぇおとうさん、お願いだからあまり無理しちゃダメだよ? じゃないと、わたしもフィオもすごく心配しちゃうんだから……」


「フィ、フィアーナ……そうだな、お前達の言う通りだわ。ふふっ……しっかしまあ、何と言うか……ここまで心優しい娘と心強い息子に恵まれて、俺は本当に幸せ者なんだな……」




 ぼくとフィアの真剣な態度に何か思うところでもあったのだろうか?

 改めて、お父さんは口を堅く閉ざしたまま静かにぼくたちのことを見つめる。


 どこまでも真っ直ぐで、揺るぎのないしたたかな眼差し。鮮やかな銀色に染まった瞳から解き放たれる純真な輝きは、まるでぼくたち兄妹を包み込むかのように温かな優しさに満ち溢れているようだった。




「さてさて、俺はこれからちょっくらファーメルン家の方に今回の遺跡調査の結果でも報告しに行ってくるわ。悪いが、フィオーラとフィアーナは先に帰っててくれ」


「うん、分かった。あっ……でもぼくたち、ちょっと寄りたい場所があるからそこに寄ってから家に帰るね?」


「ん、寄りたい場所……? ちなみにどこへ寄るつもりなんだ?」




 ぼくの言葉を聞くや否や、急にお父さんが怪訝そうな表情を浮かべて尋ねてくる。


 お父さんとしてみればやっぱり、我が子がどこへ向かうのか気になって仕方ないのだろうか?

 さっきまでの優しい態度から一転して、表情も段々と険しいものへと変わっていく。


 ぼくとしてみてもこれ以上、余計な心配をかけるのは忍びない。すぐさまお父さんの質問に答えようと、小さく息を吸う。


 そして、再び口を開こうと思った次の瞬間。ぼくよりも数秒早くフィアが、元気な声で会話に割って入ってきたのだ。




「えへへ、星見の丘だよ! この前、フィオと一緒に『【スピカのお花】を摘みに行こうね』って約束してたの!」


「ほぅ、星見の丘か……だが、どうしてまた『スピカの花』なんか摘みに?」


「うん、実はパルテール孤児院で『ふれあい会』って言う半年に一度の交流会が明後日にあるんだけど、ぼくもフィアもそれに参加しようと思っててね。その時に孤児院の子どもたちに手作りのクッキーでも贈ろうかと思ってて、その飾り付けにスピカの花でも使おうかなって話になって……ほら、スピカの花ってすごく綺麗だし、古い伝承にも『優しい心を育む神聖な花』って言われて有名でしょ?」


「うんうんっ! それにね、これはツィーネちゃんから教えてもらった話なんだけれど、ファーメルンの街では昔から家族やお友達に『信頼の証』としてスピカのお花を贈る習わしがあるんだって! だから、クッキーと一緒に贈る贈りモノとしてちょうどいいかなって!」


「ほぅほぅ、なるほどな……なかなか良い考えじゃねぇか。しっかしまあ、星見の丘か……」




 お父さんとしてみても、思い出深い場所であるのだろうか?

 ぼくとフィアの話を聞いて、何度も感慨深そうに大きく頷きを見せている。


 だけど、何だろうこの感じ……。

 今のお父さんの顔を見ていると、なぜだか分からないけど不安で不安で仕方がない。


 またどこか遠くへと行ってしまうのではないか。ぼくとフィアを置いてまた忽然こつぜんと姿を消してしまうのではないか……?

 もちろん、古代文明を探求する考古学者の一人なんだから家の中で引きこもってるよりも世界中を駆け回って、日々研究に明け暮れている方がお父さんの場合、ずっと性に合っているのかもしれない。


 それでも……やっぱり、ぼくたちとしてみればお父さんにはすぐ傍にいてもらいたかった。これからもずっと、ぼくたちのすぐ傍で元気よく笑っていてほしい。


 そして、叶うのなら……これからもずっとぼくとフィアのことを、すぐ傍で優しく見守っていてほしかった……。




「ん……フィオーラ、どうかしたか? そんな俺の顔なんかじっと見つめちまってよ……まったく、照れちまうじゃねぇか!!」


「はぁ……お父さん、急に変なこと言わないでよ……冗談でもソレ、気持ち悪いから……」


「あっはっはっはっは! なかなか辛辣しんらつだな、おいっ! でもまあ、お前はそれくらい冷めてた方がちょうど良いのかもな……それはそうと、近頃はあの辺りにも魔物が出るって話だ。お前達は魔法を扱えるからそこまで心配する必要もないかもしれねぇが、そこはまあこのご時世だ。いつ何が起こっても何らおかしくねぇ。行くんだったら、十分に気を付けろよ?」


「うんっ! いざという時は、フィオもついてるからきっと大丈夫!!」


「あっはっはっはっ! それもそうだな! いちいち俺が心配しなくとも、フィオーラがいれば大丈夫だろう。『兄』としてフィアーナのこと、しっかりと守ってやれよ?」


「うん、もちろんだよ。お父さんこそ、また変なこと言ってアリエータさんやヒューゴさんを困らせちゃダメなんだからね?」


「おうよっ! これでも一応、礼儀はわきまえてる方なんだぜ? わざわざ言われなくとも分かってるって! まあ俺に任せときな、あっはっはっはっは!」



 周りの目なんか気にも留めず、ぼくたちに軽く手を振りながら道のど真ん中で盛大に笑い声を上げるお父さん。これにはぼくやフィアだけでなく、道行く人々もみんな一様に苦笑いを漏らしてしまう。


 お父さんは自覚してないのかもしれないけど、こうやって余裕をかましている時に限っていつも問題を起こすから本当に心配だった。


 まったく……ほんの数時間前にクレイス遺跡であんなことがあったというのに、我が父ながらなかなか良い神経をしているものだ。


 でも……こういう細かいところを気にしない性格だったからこそ、今こうして誰もが認める考古学者『クロード・バーンズ』がいるのかもしれない。




「くすっ……行っちゃったね、フィオ?」


「そうだね……ったく、久しぶりに帰ってきたかと思えばすぐに『おい、これから遺跡調査に出かけるぞ!』だなんて言い出して、もう本当頭の中はいつも古代文明の研究でいっぱいなんだから……それに相変わらずのお調子者っぷりだし、少しは振り回されるぼくたちの身にもなってもらいたいんだけど……」


「ふふっ……でもおとうさん、すごく元気そうで安心した! フィオもなんだかんだ言って、おとうさんとお話しててすごく楽しそうに見えたよ?」


「えっ……そ、そうかなぁ……? まあフィアの言う通り、久しぶりにお父さんの元気そうな顔を見られて安心したには違いないけど……」



 何かおかしなことでもあるのだろうか?

 ぼくの反応を目にして、フィアは今もニコニコと楽しそうに笑っている。


 でも改めて言われてみると、確かにフィアの言う通りかもしれない。約二ヶ月ぶりにお父さんと面と向かって話してみて、楽しかったことに間違いはなかったのだ。


 それこそ、時間を忘れてしまうほどに……今回の遺跡調査を通じて過ごしたお父さんとの一時ひとときはぼくやフィアにとってみれば、非常に充実したモノだった。




「んっ……そろそろぼくたちも、星見の丘に向かおうか? 日が沈むと魔物たちも活発に動き始めるだろうし、それに帰りが遅くなるとお父さんも心配しちゃうだろうし」


「うんっ! それじゃあ早速、星見の丘に出発だね! えへへ……っ!」




 ぼくが差し出した手にフィアは、満面の笑みを携えながらぎゅっと握り返す。


 そうだ……わざわざお父さんに言われなくても、兄としてフィアのことを守り抜く気持ちは変わらない。それは今も昔も、そしてこれからもずっと変わらないことだ。


 そう、あの日からずっと変わらないこと……フィアのこの笑顔を守れるのなら、ぼくはどんなことでもいとわない。


 それに、フィアだって十分魔術を扱える。余程のことがない限り、ぼくの力なんか必要ないだろう。











 お父さんと別れた後、ぼくはフィアと共にファーメルンの北にある星見の丘を訪れた。


 頬を優しく撫でるのどかな風と柔らかな日差し。ここはいつ来ても神秘的な青白い輝きを解き放つ、スピカの花たちが咲き乱れている。少し足元に視線を落としてみれば絶えずたくさんの魔素ディウムが大地から湧き上がり、美しいスピカの花びらと重なってどこまでも、どこまでも空高くまで舞い昇る。


 見れば見るほど幻想的で、本当に綺麗な場所だ。ゆっくりと丘の上を柔らかなそよ風が吹き抜けていくたびに、大気の流れに乗ってスピカの爽やかな花の香りがぼくたちの鼻元を静かにくすぐる。


 まさにここは、地上の楽園……そう言っても決して、過言ではなかった。




「わぁあ~……っ! ねぇねぇフィオ、見てみて!! ほらっ、スピカのお花がこんなに咲いてるよ! えへへ、まるでお花の絨毯みたい……っ!!」




 急に一歩前へ身を乗り出したかと思えば、フィアは丘一面に敷き詰められた花の絨毯を見下ろして、思わず感嘆の声を漏らす。今も白いワンピースの裾をふわっとひるがえして、ニコニコと無邪気に笑うフィアの姿が何とも微笑ましい。


 でもまあ、確かにフィアがここまで目をキラキラとさせるのも頷ける。ぼくだって、フィアとまったく同じ気持ちだ。フィアと同じように、眼前に広がる景色を目の当たりにして感動すら覚えていた。




「ふふっ、これだけたくさんの花が綺麗に咲いてると、本当圧倒されちゃうね。何だか摘むのがもったいないくらい」


「うんうんっ! わたしもそう思う! 本当にキレイで、それでいてすごく不思議な感じで……くすっ、見ればみるほど神秘的で幻想的なお花だよね!」




 その場でそっとしゃがみ込み、フィアはぼくに向かってニコッと微笑みかけながら再びスピカの花を見つめる。


 とても真っ直ぐで、迷いのない純真な眼差し……。


 フィアが見せる笑顔はどこまでも果てしなく綺麗に透き通っていて、まさに一点の曇りも感じさせない。特別言葉にしなくても、今のフィアの姿を見ていれば分かる。花を想うフィアの優しい気持ちが、止め処なく溢れ出していることに……。


 そんなフィアの優しい心に触れてなのか?

 スピカの花たちもより一層、綺麗に青白い花びらをキラキラと輝かせ始める。まるでぼくたちのことを歓迎してくれているかのように、スピカの花たちは今も柔らかな風に吹かれてユラユラと静かに小さく手を振っていた。




「……フィア、もうちょっと奥に行ってみようか? この辺りはまだつぼみも多いみたいだし」


「うんっ、そうだね! それじゃあ、丘の頂上目指してしゅっぱ~つ!! なんてね、えへへ……っ!」




 ぼくの言葉を聞いてその場から勢いよく立ち上がると、フィアは長い銀色の髪をふわっとなびかせながら手を後ろで組んで、少し照れくさそうにはにかむ。


 本当、見れば見るほどすごく楽しそうな面持ちだ。すぐ傍でフィアの笑顔を見ていたぼくも、何だか不思議と楽しい気持ちになっていく。


 心が洗われるとは、まさにこのことを言うのだろうか?

 フィアの屈託のない無邪気な笑顔を見ているだけで、自然と心がポカポカと温かな気持ちで満たされていくのをひしひしと感じる。


 やっぱり、フィアは笑顔がとてもよく似合う。飾り気のない、純粋な心からの笑顔が……ぼくは、この笑顔を守りたい。そう思えるほどに……ぼくのすぐ目の前で笑うフィアの笑顔は、とても眩しく輝いていた。




「あっ……!? ねぇねぇフィオ、見てみて! ほらっ、あそこ!!」


「えっ……?」




 不意にグイグイとぼくが羽織っていた上着の袖を何度も強く引っ張るフィア。


 一体どうしたのだろうか?

 未だに興奮を隠し切れないでいるフィアに若干戸惑いつつも、ぼくはすぐさまフィアが指さす先に視線を移した。

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