空から私が落ちてきた
私が死んだのは、駅のホームでだ。
身投げではなく、意識が消えた。何で死んだのか、そんなことはどうでもいい。
何もない空間で永遠に落ち続けている。風が身体を通り抜ける感覚。どこまでもどこまでも落ちていく。
いつ終わるのだろうか。どこまで行くのか。
恐怖心に心臓が軋んだ。
怖い。怖い。怖くて仕方ない。
だけど、どうしようもない。逃げることも、立ち向かうこともできない。
「おはようございます」
声が聞こえた。いや、声が響いた。といった方が正しい。
身体に直接響いていくやさしい声は、そのまま続けた。
「貴方は再度、人生を始めることができます。ですが、その人生は過酷なものになります」
私は言った。
「拒否することはできないのですか?」
声の主は私の言葉を無視するように言葉をつづけた。
「ですが、それは人類にとっても大きな試練です。貴方はその試練です。しっかりと働くのですよ」
その瞬間、強い光が私を包み込んだ。
そして
肌を流れる風の感触が、痛いほどやってくる。
青い空の下から風がやってくる。これは……
「落下している?空から?!」
身をひるがえそうと身を捩ってみた。
まともに姿勢を正せない。そりゃそうだ。私はスカイダイバーではない。
ぐるぐると身体を回しながら私は落ちていく。
「これは、死ぬって」
砂場が見える。どこかの海だろうか。
そもそもどこなのだろうかわからないが、どちらにしろ死ぬ。
せめて海に降りなければ
無我夢中で身体を動かした。その瞬間。
背中を思い切り引っ張られる。そのままゆっくりと落ちていく。
何が起きたのかわからない。誰かが助けてくれたのだろうか。
いいや、誰かが助けてくれるわけがない。この高さからどうやって。
助けてくれたのは、腰に生えた大きく無骨な翼だった。