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parallel root  作者: 鴨宮 鏡夜
7/8

10:15

用意を済ませ家の戸締りをし玄関を出る。いつもより重く感じる仕事カバン(ゴルフバック)を背負い集合場所の駅まで歩こうと息を大きく吐き出し歩き始める。3分くらい歩くと雲の合間から雫が垂れてきていた。セットした髪に何してくれてんだと天を暫く睨みつけたあとハッと我に返り希望を抱きながらスマホを開く。1件の通知を知らせる吹き出しが出ていた。ロックを解除し確認すると『今日のゴルフは中止になりました。つきましては…』先ほどは睨んでしまって申し訳ないと天に頭を下げ先ほどよりも軽くなった仕事カバンを片手に家に戻ろうとする。すると『あれ、鴨宮じゃないか』と後頭部を殴りつけるような大声が響く。今の私は機嫌がいい。この程度許してやろう。パッと振り返ると鉄の箱の窓から手を振っているおっさんの姿が見えた。「課長…お疲れ様です。どこかに行かれるんですか?」「おう鴨宮、ゴルフ中止になっちまっただろ?だから飯でも食いに行こうかと思ってな。お前も来るか?」「えっと…」悩むそぶりを見た黒いのが『なんだ用事はねぇだろ。付き合えよ』と言わんばかりの眼力でこっちを見ていた。「ご一緒してもよろしいでしょうか…」右頬を引きつらせながら言うと「よし、じゃあ乗れ!」とご近所の皆様に頭を下げろと言いたくなるような大声でこちらに叫んでいた。さっきよりも重く感じるカバンをトランクに積んでもらい助手席に座る。「お前は運がいいな。たまにはおごってやるからたらふく食えよ」と肌の色とは反対色の歯を光らせ笑っていた。鉄の箱に揺られながらサッとスマホを確認する『10:15』『通知無し』何も考えずに開いた板を閉じ外を眺める。鉄の箱に2時間ほど揺られ飯を食う。「お前はさ期待してんだよ…」またつらつらと何かしゃべっている。1時間ほどかけ飯を食い終わると「次行くぞ」と言い、再度鉄の箱を2時間ほど走らせた。会社近くのクレープ屋が気になっていたが自分一人で買いに行く勇気がないとの事で付き合わされている。買い出し(パシリ)を済ませ車内に残っていた黒いのに渡すと上機嫌に食いだした。確かにこんなのがOLやら若い衆の中に居たら不信感が凄い。生きにくい物だなと考える反面オセロだったら完全に負けているなと考えながらタダでもらった糖分の塊を口へ放り込む。今度は1時間ほど車を走らせスポーツ用品店に入っていった。「お前もそろそろ新しいの欲しいんじゃねぇの?」とゴルフのクラブを構えるようなジェスチャーをして車を降りる。糖分の塊を食べた時には感じなかったいつもよりも重く感じる重力に深いため息を1つ吐いて「そうですね」と答え黒いデカ物の背中を追う。思った通りであった。2時間ほど巨体の語りやら買い物に付き合わされていた。何も買うものが無かったので考えるふりをして何も買わずに店を後にする黒いのの背中を追う。ぼーっと外を眺めているといつもの風景に戻ってきていた。「ここの家だよな。今日はありがとうなまた行こうな」と白い歯を見せながら降ろしてもらう。「はい、お願いします」と社交辞令を述べてわが家へ向かう。やっと落ち着けると思いカギを探りながらゆっくり自分の部屋へ向かう。やっと見つけた鍵を取り出すとむくんでいるのかと思うくらい顔を膨らませていた『彼女』が居た。自分の顔から血の気が引いていくのが分かる。恐る恐るフグに声を掛ける。「ただいま…です…ごめんなさい…」何をしていたのかなど聞いてもらえないだろうと思い頭を下げる。「ん…」と顔を見なくてもわかる位のむすっとした声で答えてもらう。彼女の手元を確認すると精密機器の板を指さしながらこちらを見つめている。ポケットに一応入っていた板切れを取り出すと『通知32件』『着信16件』…の文字がブルーライトと言われる有害な物と共に目に飛び込んできた。再度深々と三角定規のごとく頭を下げると前から「いいから入ろ?寂しかっただけだから」と微笑みながら扉を指さし話してかけてくれていた。扉を開け彼女を強く抱きしめ今日1日の疲れを吹っ飛ばす。


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