12:05
「すみませんでした。」そう言いながら頭を下げる。時計の針は『9:30』を差している。色黒な課長が遠目で分かるほど赤くなっていた。「お前はいつになったら遅刻しなくなる!この話は何度目だ!」という怒鳴り声と共に険しい剣幕がこちらに飛んできた。「すいません。」「お前はそれしかないのか!」…30分ほどお叱りを受け、課長の唾液と共に自分のデスクに着席する。「はぁ…」ため息をついていると隣のデスクの同僚が「なんで遅刻したの?」と聞いて来やがる。悪い奴ではないが空気の読めない奴だ。「あぁ、電車が遅延しててさ」と返すと「ふーん…いつもと違う匂いがしてるから寝坊かと思ったよ」と言い残し笑いながら自分のデスクに向き直っていた。勘のいいやつだ。なんなんだ?こいつは俺に好意でもあるのか?あるわけがない。何を考えているんだ。と自分に言い聞かせデスクのPCの電源を付ける…
『12:05』時計は昼時を差している。飯でも買いに行こうと腰を上げると「おい鴨宮、ちょっと来い」と僕についている唾液の主からお呼びがかかる。恐る恐るデスクに向かうと「お前、始末書書いてこい。月曜日迄だ」「今日の遅刻の件ですか?」「それ以外何がある!」「わかりました。書いて来ます…」そう言い残し唾液のデスクを後にする。「はぁ…」何だか食欲が失せてきた。昼の献立の変更を行い自販機のカフェオレで済ませることにした。カフェオレを買いに自販機に向かう。赤文字で『売切』なんと残酷な文字なんだろうか。隣にあったブラックコーヒーを渋々買いデスクに戻り時計を眺める。『12:32』まだ28分もある。なんだろうか。今日は昼が長い。期待と絶望を告げてくれる薄い板の電源をつける。緑のアイコンのトークアプリを開く。『セール中!これを機に購入s…』公式からのトークを削除して青い鳥のアイコンをタップする。上下に指を動かし板を眺める。『芸能人○○が一般人男性と結婚』タップ。『結婚まじかよ』『おめでとうございます!お幸せに』画面を左から右にスワイプする。際どい自撮り写真と共に添付された『良かったらフォローして下さい』の文字。タップ。『かわいいですね。フォローします』『めちゃくそタイプ』なぜここまでして他の人から認められたいのか。理解できん。まぁいいや。ゲームアプリを起動して暇をつぶす。時間が進むにつれ人が増えてくる。「なにそれ?面白いの?」隣から声が飛んでくる。一瞬驚いたが「最近配信されたやつ、人気はそこまでだけど内容はいい物だよ」と答える。「へぇーこういうのやるんだね!意外だよ!」と自分のスマホをみながら答えている。興味がないなら聞くなよ。そう思い再度自分のスマホに目を向ける。『12:56』そっと電源ボタンを押しデスクの上の絶望も希望も伝えて来ない折り畳み式板へと視線を切り替える。