7:53
カーテンから差し込む朝日で目が覚めた僕はいつも通りスマートホンを手にして電源をつけた。眠い目をこすりながら見たスマホから表示される文字に衝撃の事実を告げられる。『8月23日7:53』飛び起きた。遅刻ギリギリの時間である。バクバクと音を立てて鳴り続ける心とは裏腹に脳は冷静であった。脳からは今から急いで用意して向かえば間に合うと指令が下される。「ふぅ…」深呼吸を一つついて心臓を黙らせ脳からの指令を体に言い聞かせる。僕のモーニングルーティーンである朝風呂に体は入りたがっているが今日はお預けだ。制汗剤を全身に振りまき、これで許せと体に言い聞かせ部屋を出る。駅までは歩いて15分程、走れば10分足らずで着く。家を出るときに見たのは『8:06』という数字。9時までに出勤していれば課長のお咎めは無しだ。電車で30分。ギリギリ間に合うと判断し胸をなでおろす。ただ歩いている時間はない。そう判断し、僕は走りだす。
『8:11』何とか間に合った。一番早い電車が8:15分に来る。ホームまでも3分足らず。間に合った。と胸を撫でおろし汗を拭う僕は定期の準備をしホームまでの階段を駆け下りる。電車も止まっている。1本前のが遅くて乗れるのかもしれない。これは確実に間に合うぞ!しかし、僕の安堵とは裏腹に辺りは騒然としている。
ホームに到着して1番最初に目に入った文字「遅延のお知らせをします」駅の電光掲示板からの死刑宣告。たった11文字で人はこんなにも絶望できるのかと膝から崩れ落ちていると線路から何やら視線を感じる。ん?なんだ?いや、そんな疑問を抱いている場合ではなかった。会社への連絡をしなくては。急いで掛ける会社への電話。『はい、〇〇株式会社、○○です』電話から聞こえる男の声に絶望した。課長の声である。いつもはこの時間居ないのにと心の中でぼやきながら「あ、鴨宮です…今電車が遅延していまs…」『なんだと!?また遅刻するつもりか!!!』受話器越しから聞こえる課長の怒鳴り声。スピーカーじゃなくても外まで丸聞こえだ。「すいません…まだ再開の目途が立ってなくていつ再開するか分からなくて先にお電話させていただきました。」『説教はあとだ、とりあえず早く来い』そう言い残し課長は電話を切った。「最悪だ…」思わず漏らした声に周囲が注目する。そんなことどうでもいい。もういっそのこと死んでしまおうか。いや、こんなことで死んでたまるか。そう自分に言い聞かせ課長への言い訳を必死に考えながら電車を待つ。