大丈夫? あなたの正義を見直して
ぼくらは占い師たちを助けるために王都に向かっていた。
所々で病に侵された人々を見かける。おなかが肥大して苦痛に悶え誰の看護も受けられずに街中で街道でのたうっている。
父のように看護を受けてちゃんと食べ物を食べていればもう少し長生きできるはずなのに。
幽鬼のように彷徨う人々にぼくらはなにもできない。
ぼくのおなかも痛む。
皆にはまだ告げていないが、ぼくのおなかも膨らみつつある。
魔物を食べれば少しは癒えるらしい。
魔物を効率よく狩る方法は魔物を養殖することだろう。
早くも王都近くでは魔物と思しき生き物を養殖しているようだ。
「餓鬼族だ」
「あれは犬鬼族だね」
凶暴で思慮が浅く養殖は不可能とされた二種族だが、今は人の都に住むようになって長命化し、文化を得て穏やかになっている。だが本来この二種族は繁殖力と成長の速さで人類に脅威を与えた種である。生育環境を調整すれば意図してかつての人類を脅かした彼らの本来の姿に戻るのも容易だ。
「ジンタンはあいつらの肝から作る」
戦士の呟きにぼくらは噴いた。
「そんなもの飲ませていたのか」
「格段に効くというからな」
しかし。
疑問に思う。
かの二種族を養殖している者たちは人間もいるが、餓鬼族や犬頭鬼族が混じっていた。
「なぜあのようななことができるのだろう」
「昔いた奴隷みたいなものじゃないっすか? あるいは文明化された彼らからすれば養殖した同族は同じ生き物に見えないのかもしれないっすよ」
ぼくの疑問に最近本を読みだした盗賊が知的な発言で返してきた。
「正義も悪も陳腐なものですよ。罪悪感の分散化は効率化を助けます。今や正義も悪も技術も魔法も人間ですら総駆り立て態勢で国家間の事業や戦争を成すためにのみ存在するという書物を揉んだことがあります」
それはぼくのなくなった内臓のようなものだろうか。
ぼくの正義はそれほど陳腐なものなのだろうか。
復讐は無益と本は説く。ではぼくの渇望をいかにして止めればよいか。
本は教えてくれはしない。
話は変わる。疫病は父が罹患していた病にやはり似ている。
母はとても献身的で朗らかで優しい人だった。あの子もそれをよく支えてくれた。
あの子とぼく。すなわち若者は未来の為に必要と村人たちはその身を挺して守ってくれた。
村人は多種多様な種族でなされており、今思えば餓鬼族や犬鬼族もいたかもしれない。伝説の存在が身近にいるとは思っていなかったが案外そのようなものなのであろう。
よそものは水に触れるな。
水場に近づいたぼくらは水の補給を老婆に止められた。
「よそ者が、水に触れたから皆が病にかかるのだ」
老婆がくってかかるのをその息子と思しき青年が止める。
路の片隅であの子によく似た姿を見るようになったのは、たぶんおなかの膨らみと病が生んだ幻覚であろう。
「だから、魔女どもが私たちの村にやってくるのだ」
「いい加減にしなよ。あの女の子たちがいるからぼくらはやっていけるのだよ。あの子らの献身的な介護がないととてもじゃないけど村は滅んでいるよ」
ぼくらは水をたらふく飲んで、少々緩んだおなかを癒す。
「水が、水が。おおおお……水が汚れていくのじゃ……占い師の私にはわかる」
「何言っているのさばあさん。澄み切った水に綺麗な嫁さん。作物は今年も豊作。いいことばかりだろ」
ぼくらは旅立つ。
首都は近い。




