最前線! 黒太子立つ!
ぼくらの前に剣士たちが立っていた。
その中央にはあの黒太子が立っていた。
婚約者を殺したのは貴様たちかと問われたので『はい』と答えたら戦いになった。
もちろんそのようなことはないが、ぼくは彼を殺したかった。
彼が正しい人であるという妄想から決別したかった。
彼は率先して戦い、部下を気遣い、そして堂々とぼくに挑んできた。
「なぜ我が婚約者を殺した!」
「あの子を殺したから! 父を、母を殺したから! お前が、お前たちが殺したんだ!」
ぼくと彼は剣を交わしあう。
彼はひるむことなく臆面もなく言い放った。
「奴らは生きていてはならぬ存在だったからだ。そして貴様も王国の為に、人間のために絶対に生かすわけにはならん。残念だがあの街も燃やさねばならん」
ぼくは恐怖した。
彼は婚約者の育てた女性たちも皆殺しにするというのだ。
何故。どうして。
「教えぬほうが慈悲である。歴史書には私は残虐無情の魔神として記されるだけだ。それでよい」
彼の剣をかわし、黒馬のひづめをかわして魔術を放つ。
しかし彼もまた今どき珍しく魔術を用いるようだ。
「効かぬ。そもそも私は『車輪の王国』の王太子。魔術妖術にも通じている。そして」
彼は短銃を取り出す。ぼくのおなかに衝撃が走った。
「教会の奴らとちがい、技術やそれを生み出した異種族たち、民に不要なまでの偏見を持つことはない」
ぼくはおなかを抑えることもできずに横たわる。戦士がぼくを抱え、盗賊が血路を開いてくれたらしい。
双子の姉妹は捕虜になったと後で聞かされた。商人の妻と子は『車輪の王都』で人質にされているようだ。
ぼくは傷を癒し、彼を殺さなければいけない。
燃え盛る街を背にぼくらはまた旅に出た。