そんな装備で大丈夫ですか プロの狩人はこのように教えています
森の中には魔物が出る。
その言葉をぼくは話半分に聞いていたが、すぐに実感することになった。
「やっぱり負けたか」
カカカと樵が笑っている。
切り株のお化けのような生き物にボコボコにされたぼくをその斧捌きで救った彼は『肉食え肉』と告げて取り立ての生肝をぼくに投げつけた。
血だらけだし臭いし。
樵だからと言って狩人の真似をしないとは限らないらしい。
彼は生肝にかじりつくぼくを眺めながらぼくの剣をいつの間にか奪っていた。
「返せよ! ぼくの剣だ!」
「……驚いた。これは大したナマクラじゃねえか」
父さんの剣をナマクラ呼ばわりするなんて。ぼくが必死で剣を奪い返すと彼はにこりと笑う。
「ああ。すまんすまん。出来がいいって言いたかったのさ」
「父さんと母さんの形見だ! 侮辱するなんて許さない!」
なんて気の短いガキだと彼はつぶやき、剣をとって襲い掛かるぼくを逆にボコボコに打ち据えた。
「いったろ。剣じゃなくてお前がナマクラすぎる。恨みや憎しみに目が潰れてろくな斬撃を放てていない」
「うるさい! 黙ってくれ! 消えてください!」
ぼくの背中にのしかかって煙草をふかす彼にぼくは悪態をつく。
ぼくは彼の家と森を何度も往復した。
一つは魔物に勝てなかったこと。
もう一つはご飯とお風呂があったこと。
最後は彼に武術の才能や外の世界に対する知識があり悔しいがぼくには学ぶ必要があったこと。
「うーん。あのボンボンが坊主の村を焼き討ちしたってか」
「そうだ。ぼくの目の前で父を、母を……あの子を……」
彼は首をかしげて煙管を口元から離す。ぷはぁと吐息がぼくにかかる。ゴホゴホ。僕はこの臭いが苦手らしい。
「まぁ、とりあえず獲物の解体くらいまともにできなきゃ旅には出せないだろ。村でもやっていただろうに」
「……やったことがありません」
あの子たちはそういうことをしなかったし、ぼくや父は『母が作ってくれた食べ物』を食べていたから。
あの母はあの子以上の幼児性とかわいらしさ、父に対する盲目的な愛情を持っていた。
病を患った父を甲斐甲斐しく世話する姿は息子でも胸焼けする程度にはいちゃいちゃとしていて、大変目のやり場に困ったものだ。
ぼくは彼からもらったナイフの手入れの仕方を学び、やがて解体を覚えた。
魔物をとらえ、その特性を知って素材にすること、どこが食べられるか。決して食べてはいけない内臓。
そして必ず温かいお湯で身体を洗うことなどを学んだ。
「お湯は匂いが違うから、下手に風呂に入ると野生動物が警戒しませんか」
「そういうときはだ」
彼は動物たちの糞便を手ににやりと笑った。
そのあとどうなったかは日記に記す気にならない。




