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白き勇者は黒き王子へ復讐を挑む  作者: 鴉野 兄貴


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13/13

ご存じですかあなたを待ちわびわたしはただここにいます

 私は人間に警告した。魔物や災害の本質とは何か。それはこの世界に顕現した『竜』である。


 私の統計的試算において、我々と王国の民が焼き払い虐殺し、かつ石灰石と砂の混合防壁によって水源から放逐したニンフ貝の数と、彼女らの単性生殖および異種と交配することで生み出すであろう雄個体の姿をした上位個体の数には差異があることを彼らには『ぐらふ』をもって説明したのだが。


 おそらくニンフ貝だった魔物は滅んでいない。活動を停止し姿を変えて潜んでいるだけなのだ。

 彼女たちは過酷な環境に耐え、土中にて何年も休眠状態を過ごすことができた。


 この時代を生きる人間に与える知識ではないが、彼らが『貝』と呼ぶ生き物は収斂進化によって同じ姿をしているだけで種は大きく異なる。例を挙げると見た目は同じナメクジやカタツムリでも進化の過程で似たような姿を得ただけであり種は大きく違うため各々の種における寿命の確認は極めて難しい。


 およそ私の知る生物という概念に従えば種が違えば子を成すことはできない。ニンフ貝にはそれが当てはまらない。このような存在は生物の概念から外れる。


 私事を例に挙げるならば、愛という奇跡があれば人間と交わる身体を自ら構築し一世代のみのハイブリット『半妖精』を生み出す我々エルフのように。

 しかし例として挙げはしたがこれはニンフ貝の解説としては相応しくない。半妖精は半妖精同士での交配により完全なる半妖精が生まれることがあるためこれも一般的な生物の概念から外れるのだ。ではニンフ貝は如何なる生き物かについては再生クローンを生み出すことも危険とし研究を打ち切った今、もはや確認できない。また私はそのようにして命を弄ぶことをよしとしない。


 水源がある限り単性生殖でクローン体を無制限に生み出し、貝ならばあらゆる種と交わり父方における上位能力を持った個体を次々と生み出し、その上位個体と交わった存在はまた上位個体の能力を踏襲する。そして彼らはニンフ貝を守るような行動を取る。かように生命力に富む存在である彼女らが駆逐されたと断言することは尚早ではないだろうか。


 ニンフ貝が媒介する病は根絶したように見えるがそれは解決したわけではない。


 彼女たち個々にある脳のような器官、神経球は一般的な貝類と比較すればやや大きいものの知性を持っていると判断するには小さすぎる。にも関わらず彼女らの種としての知性は時として我々を追い詰めた事を決して忘れてはいけない。


 我々は病を根絶したのではなく、彼らが『病を使うのを一時的に停止した』『より効果的な病という名前の竜を生み出す時間を要した』だけではないか。また、我々の時代ではただ腹が膨らみ死に至る病でしかないが、後年彼女らがもし復活し我々に牙をむくとき、それは我々の自滅を促すような病かもしれない。例えば吸血鬼災害や獣人病のような、あるいはそれ以上の悪意を持った病が人類に襲いかかるかもしれない。人間たちはその病をきっかけに疑心暗鬼に陥り差別しあい仲たがいを繰り返して自滅するかもしれない。


 私は人々に告げた。ニンフ貝だった魔物を真に滅ぼすにはこの国を破壊しつくす必要があると。


 それはエルフである私には耐えがたい所業であるが如何なる手段で私は人間を、彼女たちを救えばよいのだろうか。

 人々が既にニンフ貝の事を忘れ、古ぼけた石碑だった石ころのみがかつての記憶を伝えている時代になった今でも私はこころに刺さった痛みを取り除くに至っていない。


 ――『疫病との戦い ニンフの章』巻末に書かれた手書き文字。書き手不詳――


※ ※ ※


 ――彼女たちは泣いていた。

 私たちが尽くす妻はどこにいるの。

 みんなどこかに行ってしまった……。


 どこか遠くに旅立とう。

 神々の戯れ、神の名を得て。

 そして一つの始祖とならん。


 彼女らは『箱庭』に住み着いた。

 太陽のごとく優しきエルフの娘は彼女たちをその世界に迎え入れた。


 彼女たちは、彼女らを妻としたモノたちは魔力を得た。


 あるものはハリガネムシに寄生され自ら水に飛び込むカマキリのように自らの人生と愛を彼女らに捧げ、あるものは魔力と正気を得るためひとを喰らい、あるものは魔力によってカタチを変え、彼らはその世界で等しく『魔族』と呼ばれるようになった――


(『ククク。奴は四天王の中では最弱……。』の世界へ)

 この世界においてニンフと呼ばれる架空種族にはモデルが存在します。


宮入貝 日本住血吸虫症

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/地方病_(日本住血吸虫症)

Wikipedia日本語版より。


参考資料

カタツムリの多彩な世界 東京大学理学系研究科・理学部 ~上島 励 助教授(生物科学専攻)~

https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/story/newsletter/labo/13.html

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