悪魔の手配書! 卑劣なる罠は正面から打ち砕こう!
手配書からぼくらの正体を知ったひとは、賞金稼ぎでも盗賊でもなかった。
あの飲んだくれの妻だった少女だった。
飲んだくれは先日病で死んだらしい。
彼女はぼくに潤んだ瞳を向け、手のひらを握ってぼくらを助けてくれると誓ってくれた。
ぼくが風呂から出て、寝台に入ろうとすると彼女もついてきた。
拒否すると彼女は泣いた。
たとえひどい奴とはいえ先日まで妻がいたもののする振る舞いではない。
苦言を告げると彼女は涙を瞳にためて反論する。
「私には、妻が必要なのです」(※この世界におけるこの地域では『妻』は配偶者を指す言葉)
そのためにはいかなることをもすると誓うという。
例え娼館にその身を沈めることになろうが、犯罪者であるぼくらを匿うことになろうとも。
情を与えてくれたあなたに尽くしますと彼女は言う。
「いいんじゃねえすか。兄貴。結構たまっているでしょ」
盗賊は軽い口調でぼくの脇腹を小突いてくる。微妙に下腹に近いのは狙っているのだろうか。
商人は何かの仕事をしてお金を稼いでくれる。非合法かもしれないが彼女たちの支援がなくばそれは成し遂げられないであろう。
何よりぼくらは黒太子を殺さなければならない。
それよりも占い師と踊り子、そして商人の妻と息子を助けねばならない。
果たして、商人の妻と息子は無事であった。
とある村に隔離され、軟禁されているという情報を『彼女ら』はつかんでくれたのだ。
彼女らは娼婦に、冒険者の妻に、酒場の娘に。あるいは貴族の妾に。
盗賊協会の筆頭の愛人の一人にとなってぼくらを支援してくれる。
ぼくらは剣を磨き、武装を整え、情報を集め武器を集い復讐の時を待つ。
さあ。黒太子。君を殺す日が来た。
そして決行の日。ぼくらは最近公務についていないという黒太子がくつろぐ庭園を突き止め彼に襲い掛かった。
「……ナメクジどもめ」
剣を抜き、彼は応戦する。
この場所には彼以外は誰もいない。
「あの子の! 父母の仇!」
「王子。私はあなたが好きです。今でもです。ですが、あなたの暴走を止めねばなりません」
「王子様。悪いけど死んでくれないかな」
ぼくらの剣は確実に彼を追い詰めていく。
三つの剣が彼を穿ったとき、彼は叫んだ。
「逃げろ!」
逃げろ? 逃がすはずがない。誰に言ったのか。伏兵のことか。
ぼくらはさらに彼の腹を刺す。
『決して傷つけるな』
樵がかつて教えてくれた魔物の急所である、ぼくがかつて傷つけられた内臓の位置を。
「やめろ! お前たち! 逃げろ! なぜ私がここにいるか……」
殺戮に酔ったぼくはしばらく意識が飛んでいた。




