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白き勇者は黒き王子へ復讐を挑む  作者: 鴉野 兄貴


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10/13

イケメンたちを噂にするあの子だけが知る! 街で分かった最新事情!

 あの子を見つけた。

 駆け寄るぼくに彼女は戸惑いの表情を浮かべる。


 あなたはどなたですかと彼女は問う。


「ぼく、ぼくだよ! ぼくを忘れたの」

「おい、うちの女房にちょっかい出すな」


 如何にも酔漢と思しき中年男がぼくに絡んできた。

 彼はあの子を容赦なく小突くと足蹴にする。


「サケ買って来いと言っただろうが愚図!」

「ごめんなさい。あなた。すぐに買ってきますから」


 満面の笑みで中年男に返事するあの子にぼくのこころは砕けそうになる。

 何故。きみはぼくがわからないの。ぼくだよ。そんな悪い男のどこがいいのさ。



「まぁ、旦那も酒を呑むとアレですから」


 商人の言葉にぐうの音も出ない。


「あれは本当によくねえっすよ兄貴。あっしも呑みませんから」


 踊り子の涙を思い出してぼくは胸に刻まれた血の文字を思い出す。

 踊り子に付き添い彼女の心を癒し、彼女の恋人となっていた戦士が咳ばらいをする。


「よく似た人物だろう」

「だって、だって生き写しだよ! ぼくのあの子に!」


 戦士は昔の女を思い出すぼくに思うことがあるようだがあえて黙ってくれたようだ。


「そうか、だがその子は双子か何かなのか」

「あんなにかわいくてきれいでやさしい女の子は他にいないよ」



 盗賊と商人はなぜか瞳を交わしあう。


「あっし、あっちの娼館で似た娘に逢いましたよ。ありゃ最高でした。あんなに充実したサービスはないです」

「私は酒場にいた詩人の娘があの顔でしたが……『車輪の王都』では案外一般的な顔と性格なのかもしれません。妻と息子は必ず無事と実に献身的に励ましてくれました。妻がいなければ褥を共にしていたかもしれません」


 下世話な話にぼくは口元を歪めてしまうが、酒に酔ったぼくの問題行動は仲間たちが指摘する通りらしい。

 とにかく、病人や酒呑みを献身的に介護する金色の髪を持つ美少女たちの話を聞くようになった。


 その容姿がことごとく母やあの子に似ていることは普通ではないらしいがぼくにはよくわからない。

 村から出たことのないぼくには知らないことが多いのだ。だから本を読むことにする。


 雨の日は本を読めばいい。

 晴れの日は剣を磨けばいい。



『疫病との戦い ユースティティア著 リンス・リンスィース監修 ニンフの章』


「最も恐ろしい魔物は何か。私の伝記を紐といた者は竜族や魔神と呼ばれた少女の物語、あるいは『滅びをもたらすもの』、私たちが倒しきれず封印の魔物としたものたちなどを思い出すかもしれない。しかし私の意見は違う。彼ら、否『彼女ら』は大きな体も魔法の力も、否。身を守るために必要とされる爪も牙も持っていなかったのだから。

 私は後の人々に警告する。強さと恐ろしさは別なのだと。弱さは時として強さであるということを。私は彼ら、否彼女らを殲滅したことをいまだに忘れることができない。私たちは人間の為になることをしたかも知れない。だが、それ以外にはどうだったのだろうか。彼女らにとっては我々こそ魔物だったのではないか」ロー・アース


「小さな貝の魔物、私は彼女らを伝説にある女だけの精霊もしくは妖精になぞらえ、『ニンフ』と呼ぶことにした」リンス・リンシィース


「彼らは毒や病に非常に強い耐性を示した。いや、進化と呼ぶべきだろうか。他の陸生貝類や水生貝類と共に増殖し、水源を汚染し、村人を確実に減らしていく。実地調査を重ねた結果、業病や地方病として村人が恐れる病の源はこの貝の姿をした魔物が媒介するものであると私たちは結論した」ユースティティア


「彼らは水源があれば無限に生殖する旺盛な生命力を持つ。乾燥状態において食料を与えずとも土中で休眠する事で長期にわたり生存する。貝であれば種族を問わず子孫を残すことができるようだ。後者の貝は母方の貝とちがい、父方の貝に酷似している。我々がニンフと名付けた貝と交配して生まれた貝は通常の雌のみで生まれる個体よりも大きく、種族的優位性が高く、母方を守る行動を取る」ミック・ウェル


「彼らは壁を登りどこともなく侵入し、ぼくらを苦しめた。ともすれば睡眠中の耳の穴や口を狙ってくる。特に雨の日はありとあらゆる防護を潜り抜けて侵入を果たしあるいは増殖を果たそうとした。まるで知能があるかのようなふるまいをしたのです」ファルコ・ミスリル


「私たちは水路を固め、漆喰や石灰石の粉を混ぜた砂をもって封じること、古の下水道と上水道を分離しかの地域の水質改善に努めることで彼らの繁殖を防ぐことにした。事業の初期から私たちの主張を全面的に聞き入れ最後までともに戦ってくれたアンジェとグローガン一族郎党をはじめとする友たちに感謝しここに特別に記録する。後に我々の主張を全面的に受け入れニンフ貝の絶滅に向けて協力してくれた王国民の奮戦にはさらに謝辞を贈りたい」ロン・カーペンター


 巻末に当時の王家筆頭財政補佐官ワイズマン家当主の印がある。


「剣の暦530年。絆月(※他国における十二月)ニンフ貝の絶滅を確認。供養塔を設け彼らの手向けとする。決して汚すなかれ」

※『夢を追う者たち』は後の世界における喜劇の英雄であるのみならず、料理史や疫病史、毒や呪い、災害に対する物語でも伝説上の人物として登場することがあります。

(※ただし信憑性に乏しい資料しか残っていない。位置づけとしてはピタゴラス学派とピタゴラスのような関係。後の冒険者たちが故事に倣い自らを『夢を追う者たち』と名乗ったため混同が進んだ)

 一次資料に近い『アキ・スカラーの日記』、一次資料である『五色の魔竜歴代帳簿』『五色の魔竜年代記』に基づく本編でもヒ素(鉱毒)結核などを鎮圧しています。

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