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第95話 始末

「ま、待て!!」


「…………」


 蹴られた腹の痛みに耐えつつ、源斎は迫り来る限に対して片手を前へ突き出し、懇願する。

 しかし、そんな事は無視して、限は近付く歩みを止めない。


「待ってくれ!!」


「……何のつもりだ?」


 止まらない限を見た源斎は、刀を鞘に納めて今度は両手を前に出して懇願する。

 戦闘中にそんな事をすれば、いつ斬り殺されても構わないと言っているようなものだ。

 その行為を見た限は、源斎の意図が分からず足を止める。


「どうやら、私ではお前に勝てないことは分かった。だから話がしたい」


「話……?」


 ここまでの交戦で、源斎は実力差を感じ取ったようだ。

 後は潔く斬られるだけの状態で、何を話すことがあるというのか。

 このまま切り捨てることもできるが、源斎が何を言って来るのか興味があるため、限はひとまず話を聞くことにした。


「お前の目的は何だ? いや、我々の邪魔をしている所を見ると、敷島への復讐か……」


「その通り」


 話の導入として、源斎は限が敵に回った理由を問いかける。

 しかし、その答えは聞くまでもなく想像できたため、自ら答えを口にする。

 正解を口にした源斎に、限は首肯した。


「今回のことで、菱山家だけを相手にするだけで済んだ。攻め込んでくれてありがたかったよ」


 復讐をするには、敷島内で上の立場にある3家が問題だ。

 敷島のトップである敷島良照だけでなく、斎藤家・菱山家・五十嵐家の3家まで相手にするのは、限でも骨が折れる。

 しかし、この帝国への侵攻によって、3家の1つである菱山家を潰すことができる。

 これで敷島に対する復讐成功の可能性が上がったというものだ。


「お前の考えは分かった。だが、菱山家(うち)を潰したくらいで揺らぐほど、敷島は柔ではない。そこで……」


 たしかに、菱山家は氷山の一角に過ぎない。

 斎藤家や五十嵐家以外にも、優秀な剣士を有している一族は存在している。

 菱山家が無くなっても、そういった一族が繰り上がってくるだけだ。

 それだけ敷島の戦力は充実している。

 そんな連中を倒すための案を、源斎は少し溜めてから提案した。


「私が協力してやる。だからこの場は見逃してくれ」


「…………」


 源斎の提案に、限は呆気にとられる。

 まさかそんな提案をしてくるとは思わなかったからだ。

 

「お前にもメリットがあるはずだ。敷島には頭領だけでなく斎藤・五十嵐家がいる。それら相手にするのなら、協力者が多い方が良いはずだ」


「なるほど……」


 源斎の言葉を、限は一理あると言うかのように呟く。

 今回のことで、斎藤家や五十嵐家の実力もある程度予想できる。

 源斎を相手にしたことで、1対1なら問題なく戦えることは理解した。

 しかし、そう都合よくそのような状況に持ち込めるとは限も思っていない。

 ならば、そういった状況に持ち込んでくれる協力者がいた方が、都合がいいのはたしかだ。


「特に斎藤家を相手にするのは気が引けるだろう? 代わりに我々が斎藤家の相手をしてもいい」


 名乗るだけでも良い顔をされなかったが、限はれっきとした斎藤家の人間だ。

 斎藤家を潰すとなると、もしかしたら躊躇いが生じるかもしれない。

 相手の斎藤家の方からしたら、一族から捨てた人間のことなど何の情も持たないため、その躊躇いはただの隙にしかならない。

 そうならないために、菱山家の人間が代わりに斎藤家を潰すという提案のようだ。


「奈美子と奏太の関係もあるから、五十嵐家の引き入れも出来る可能性も……」


「フゥ~……」


「…………?」


 源斎の娘の奈美子と、五十嵐家の奏太は婚約関係にある。

 そのため、自分が動けば引き入れることができるかもしれない。

 そのことを言い終わる前に、限は大きくため息を吐く。

 言葉を遮るような反応に、源斎は首を傾げる。


「もう言い訳は良い。見苦しいから、口を閉じろ」


「……なっ!?」


 そもそも、最初から源斎の協力なんて求めていない。

 何を言うのか興味があったため、脈があるような反応をしたに過ぎない。

 しかし、聞いていてさすがに不快になってきたため、限はこれ以上聞く価値はないと判断した。

 限にとって、敷島の中で一番潰したいのが斎藤家だ。

 いくら血のつながった父だからといって、生まれてからの関係を考えれば、復讐することに躊躇うことなど無い。

 それに、美奈子と奏太のことも、限の怒りの火に油を注ぐようなものだ。

 源斎は忘れているのかワザとなのか分からないが、元々美奈子の許嫁は自分だった。

 捨てられるのが決定したからとそれを破棄したのは、菱山家の当主である源斎のはずだ。

 それを棚に上げての提案なんて、バカにしているとしか思えない。

 これ以上無駄に時間を使うのも馬鹿らしくなり、限は源斎を殺すための歩を再開した。


「待て!! 待ってくれ!! 同じ敷島の人間じゃないか!?」


「同じじゃねえよ。それに、最初から殺す予定だって言っただろ? 潔く首をさし出せ」


 追い出しておいて、今更同郷同族と主張するなんておこがましい。

 何のために地獄から這い上がってきたと思っているんだ。

 ふと研究所の地下での生活を思いだした限は、命乞いをする源斎に対して刀を向けた。


「お、おのれ!!」


「っ!!」


 間合いに入る一歩手前といったところで、源斎が動く。

 限の足下に魔法陣が浮かび上がったのだ。

 それを見て、限はすぐさま反応する。

 しかし、魔法陣から出現した風の刃によって、限の左手が斬り裂かれてしまった。


「……ハ、ハハハッ! ざまあみろ! 魔無しのくせに調子に乗るからだ!」


 手首から先を失い、大量に出血する限を見て、源斎は笑い声を上げる。

 限の実力に脅威を覚えた源斎は、命乞いをする事によって時間を稼ぎ、密かに魔法陣を作成することにした。

 後は、おびき寄せれば、魔力気配を遮断された菱山家特製の魔法陣に気付かず、限のことを斬り殺すことができるはずだった。

 発動の時の挙動に反応して回避行動を起こしたのは見事といえるが、やはり躱しきれずに片腕を損失した。

 2刀流の戦い方が面倒だっただけで、それさえ崩せば問題ない。

 その考えから、源斎は勝機を得たと判断した故の高笑いのようだ。


「……これがどうかしたのか?」


「ハハ……ハッ?」


 片手を失った限は、高笑いする源斎に向かって、手を失ったことなど何でもなさそうな表情で話しかける。

 手を失っても再生魔法で治すことはできる。

 しかし、それは長い年月を要する治療によってだ。

 そのことは分かっているはずなのにそんな反応をする限に、源斎は違和感を覚える。


「何を強がりを言って……」


「ヌンッ!!」


「っっっ!!」


 源斎は、限の態度は焦っていることを悟らせないためのブラフだと考えた。

 そして、本音を聞き出そうとしたところで、限に異変が起きる。

 斬り落とされた手首の部分に魔力が集中したかと思ったら、ヌルリと手首が生えたのだ。

 あまりの出来事に、源斎はさっきまでの高笑いが嘘だったかのように驚愕の表情へと変わる。


「生憎、手足が斬られてもすぐ再生できるんでな」


「バ、バケモノ!!」


 新しく生えた手を動かし、限はこともなげに言う。

 一瞬で手を生やすなんて、どう考えたも人間技ではない。

 そんなことができるのは、むしろ魔物の類だと言っていい。

 そんな思いから源斎は自然と限のことをバケモノ呼ばわりした。


「やっと気づいたか?」


「ガッ!!」


 研究所での度重なる人体実験により、まともな人間ではなくなっていることは、自分が一番よく理解している。

 今更バケモノと言われても何とも思わない限は、驚きで固まる源斎に一瞬にして近付くと、刀を横一線に振り抜く。

 その一撃により、源斎の首は天高く舞い上がった。



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