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第88話 獅子奮迅

「……な、何だと……」


 この程度の数の帝国兵なら、怪我を負うことはあっても死ぬようなことはなかなか無いと考えていたため、少し離れた位置で帝国兵と戦っていた敷島兵は、仲間が殺られたことに戸惑いの声を漏らした。


「貴様っ!!」


“スッ!!”


「なっ!?」


 周りの帝国兵を倒し、手の空いた1人の敷島兵が、仲間の仇を討つため限へと迫る。 

 帝国の鎧を着て刀を使用している相手という認識しかないためか、やや雑な攻撃だ。

 そんな攻撃が通用する訳もなく、限はあっさりとその攻撃を躱した。


「ハッ!!」


「がっ!!」


 攻撃を躱されて隙だらけになっている敷島兵を、限は刀で斬りつける。

 その攻撃に反応も出来ず、またも敷島兵の首が宙を舞った。


「おのれ!!」「この野郎っ!!」


「フッ!」


 あっという間に3人が殺されたことで、ただの帝国兵ではないと認識した敷島兵が、更に限へと襲い掛かる。

 これまでの相手とは違い2人がかりによる連携の取れた攻撃ではあるが、限それを鼻で笑って回避する。


「その程度で通用する相手じゃないって気づけよ!」


「ぐえっ!!」「うがっ!!」


 攻撃を回避した限は、すぐに反撃に出る。

 1人はこれまでのように首を斬り飛ばし、もう1人は心臓を一突きにして息の根を止めた。


「な、なんだあいつは!?」


「帝国兵の中にあんな奴がいるなんて!!」


 帝国側の戦力は、事前の調査によって把握していた。

 その中にこのような者がいるという報告は受けていない。

 そのため、立て続けに仲間が死んでいくことに、他の敷島兵たちが慌てる。

 そして、限のことを最大限に警戒した。


「手の空いた者は、協力してあいつを狙え!!」


「了解!!」


 仲間の敵を討ちたいところだが、帝国兵は他にも沢山いる。

 隊長格らしき男は、まずは自分を囲む帝国兵をどうにかすることを優先させ、少数では先程のように返り討ちにあうことが予想されることから、集団で襲い掛かることを指示する。


「おらっ!!」


「ギャッ!!」


「よしっ!」


 敷島の1人が、指示通り目の前の帝国兵を倒す。

 そして、その帝国兵が死んだのを確認すると、限を倒すために移動を開始しようとした。


「ッ!!」


“ボンッ!!”


「ギャアァーー!!」


 限の所へ向かおうとした敷島兵だったが、突如火球が飛んできた。

 それに気付いた時には遅く、火球が直撃した敷島兵は体を焼かれ、大きな悲鳴を上げて地面をのたうち回った。

 その火は消えることなく、動かなくなって炭化するまで燃え続けた。


「他に焼かれたい人間はいますか?」


「な、なんだあの女は!?」


 帝国の鎧を着た女性兵士。

 限同様帝国兵に紛れたレラだ。

 その女性の魔法により仲間がやられた。

 護衛の兵という意味では、どこの国にも女性兵というのも存在しているが、戦場の前線に出てくるようなことはあり得ない。

 そのため、その場違いな人間に、敷島兵たちはまたも慌てた。


「女だろうと関係ない。あの兵同様殺せ!!」


「当然!!」


 女だろうと、強力な魔法の使い手だというのは分かった。

 仲間を殺されたのだから、もちろん殺すべきだ。

 隊長格の男の指示を当たり前と言うかのように、手の空いた敷島兵がレラへと襲い掛かった。


「ハァ!!」


“ガキンッ!!”


「何っ!?」


 レラに斬りかかった敷島兵は、驚きの声を上げる。

 斬りかかった刀が、魔力の壁によって防がれたのだ。

 女性兵士はその魔力障壁を発動させる動作をしていないのにだ。


「ハッ!!」


「ガッ!!」


 戸惑う敷島兵が距離を取る前に、準備をしていたレラは魔法を発動する。

 至近距離からの風魔法によって、その敷島兵は全身切り刻まれて細切れになった。


「ありがとうございます。ニール様」


「キュッ!」


 攻撃を防がれた敷島兵が驚くのも無理はない。

 先程の魔力障壁は、ニールによるものだからだ。

 元は聖女見習いとして、回復魔法などの光魔法を重点に強化していた。

 それが、身に覚えのない罪を着せられて人体実験の研究所に追い込まれて限と会い、研究所から出てからは攻撃魔法を鍛えてきた。

 今では、敷島の人間を相手にしても充分通用する程の威力を使いこなせる。

 しかし、防御の面で不安が残るため、限はレラにニールを付けた。

 防御が得意なニールが付いていれば、レラは何の心配もなく攻撃に専念できる。

 先程の結果は、狙い通りの結果に過ぎないということだ。


「おのれ!!」


「ガウッ!!」


「グアッ!!」


 限だけでなく、レラも敷島兵たちの標的になる。

 帝国兵を倒した者たちは、連携して2人のうち近い方へと向かって行った。

 そんな敷島兵たちに、突如白い影が襲い掛かる。

 その白い影の体当たりを受けた敷島兵は、猛スピードで吹き飛ばされて行った。

 体がおかしな方向へ曲がっている所を見ると、骨が折れて即死したのだろう。


「は、白狼だ!!」


 白い影の正体。

 それは白狼のアルバだ。


「ガアァーー!!」


「おわっ!!」「ぎゃっ!!」


 特有のステップにより、アルバは敷島兵との距離を詰める。

 そして、接近すると前足を使って殴り飛ばしていった。

 即死はしなくても一撃でどこかの骨が折れ、戦闘不能になる敷島兵が増えていった。


「……何だあいつらは?」


「さ、さあ?」


 限たちの出現に戸惑っているのは、帝国兵たちも同じだった。

 開戦して何千人と殺されているのに、帝国側は敷島の兵を倒すことができないでいた。

 そこに現れた限たち。

 帝国の鎧を装着していることから、仲間なのだと考えられる。

 しかし、誰もがあの兵たちの顔を見たことが無いし、兵の中には従魔使いもいると言っても、白狼のような強力な魔物を従魔にしている者も見たことが無い。

 本当に仲間なのか判断しかねる状況だ。


「誰かは分からないが、彼らに期待するしかない! 俺たちは彼らの邪魔をしない程度に援護をするんだ!!」


「「「「「了解!!」」」」」


 生物兵器のない帝国では、やはり敷島兵に対抗できる術がなかった。

 そんななかで、光明となる存在が現れたのだ。

 彼らに期待して、自分たちは援護に徹するしかない。

 自分たちは無視して限たちに向かって行く敷島兵たちに対し、帝国兵たちは一歩引いたところからの攻撃を開始することにした。


「な、なんなのだあの兵は!!」


 予想外なのは、当然指揮官の菱山源斎も同じだ。

 生物兵器のない帝国なら問題なく倒せると判断していただけに、限たちの出現に怒りが沸き上がる源斎だった。



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