第61話 有益情報
「ハァ、ハァ、ハァ……」
多くの魔物の死体を前に、息を切らすレラ。
少し離れた背後で、限と従魔たちが見守っている。
「グウゥ……」
“ドサッ!!”
小さく呻き声をあげ、最後まで残っていた傷だらけの魔物が倒れる。
「フゥ~……」
その魔物が動かなくなったのを確認して、レラは深く息を吐き脱力する。
疲労感に座り込んでしまいたい思いだ。
「お疲れ。この短期間でよく頑張ったな」
「限様のお陰です」
戦闘が終了し、限はレラへ歩み寄りながらねぎらいの言葉をかける。
その言葉に、レラは限への感謝を返した。
ダンジョンの深層へと潜り、限はひたすらレラの戦闘能力の向上に努めた。
それにより、単独で強力な魔物たちを倒せるほどに成長した。
「これなら敷島の連中を相手にしてもそう簡単に殺されるようなことはないだろう」
元々、このダンジョンでレラの特訓をしたのは、限の出身一族敷島を相手にする時のことを考えてのことだ。
人体実験によって醜く姿が変化し、廃棄された施設の地下で死にかけの状態から限によって元の姿へと戻ることができたレラ。
元は聖女見習いとして、多少の回復魔法が使える程度の魔法しか使えなかった。
それが限と行動を共にすることによって、魔法技術を向上させてきた。
その成長速度はかなりのものがあったが、それでも敷島の人間を相手にするのは難しかった。
しかし、この地下での特訓によって、敷島の人間相手でもなんとか戦えるだけの実力を得られたと限は確信した。
「そろそろ地上へ戻って研究員たちの捜索に向かうとしよう」
限たちの標的は、自分やレラを人体実験をした研究員たちの始末だ。
魔物を作り出すという研究をおこなっているそうだが、そんなことのために人間を実験体にしている奴らのことを許すつもりはない。
自分たちの復讐と共に、被害に遭う人間を減らすためにも、始末しなければならない。
レラが順調に成長してくれたため、限は予定通り地上へと戻ることにした。
「宜しいのですか?」
「何がだ?」
地上へ帰ろとする現に対し、レラが問いかける。
その質問の意味が分からず、限は質問で返すことになった。
「限様なら、このダンジョンの攻略をしようと思えばできるのではないでしょうか?」
成長したと言っても、限には程遠いということは分かる。
そんな限なら、このダンジョンを攻略することすら可能のように思える。
そのため、レラはこのままこのダンジョンの攻略をしてしまわないのか尋ねたのだ。
「できるだろうが、興味がないな。何か手に入る訳でもないし……」
ダンジョン内には時折宝箱などがある場合があるが、大抵はダンジョンが作り出した罠でしかない。
冒険者たちがダンジョン内で死ぬと肉体は吸収されるが、持ち物などは吸収されない。
残った武器や防具は魔物が拾って使用しているため、手に入れるのであるならば魔物を倒すしかない。
このダンジョン内で貴重な武器がなくなったという情報は聞いていないため、特に探す物はない。
最下層のダンジョン核を破壊することを目的として進むのもいいが、そうした所で何のメリットもないため、限としては興味がないというのが本音だ。
「そうですか。限様が興味がないのでしたら、戻りましょう」
ここのような成長したダンジョンを攻略したとなると、冒険者としてかなりの名声になる。
限が有名になることを望むレラとしては、出来れば攻略してもらいたい。
しかし、当の限が興味ないというのなら、強く求めるようなことはしない。
そのため、レラはあっさりと意見を引っ込め、地上への帰還を受け入れることにした。
「そうですか、この町から出ていかれるのですか……」
地上に戻ってギルドへ魔物素材などの買い取りを頼み、限たちは宿屋で一泊した。
翌日、限たちはギルドへ向かって素材の代金を受け取るときに、ギルドの解体職員にこの町から去ることを告げると、彼は残念そうに呟いた。
何度か顔を合わしているうちに、彼は限の顔を覚えてくれていたようだ。
「これまで世話になった」
レラの訓練のために地下に潜ってはいたが、限だけは魔物の素材を売るためにギルドへと顔を出していた。
こういう時は転移魔法は得だった。
ダンジョンに入るための受付を毎回しなくて済むからだ。
限としても彼にはきちんとした査定をしてもらった印象があるので、一言礼を告げた。
「これからどちらへ向かうつもりですか?」
「ここから西へ向かうつもりだ」
研究所で知り合った小人族のゼータを故郷に送った時、占いでこの国の西側を指摘された。
それを半分信じて旅をして来たが、その占い通りに研究員の手掛かりを得ることになった。
今ではその占いを信じて進む以外の選択肢がないため、限たちは西へと進むつもりでいる。
「そうですか。でしたら大丈夫でしょう」
「……? 何がだ?」
限の答えに対し、ギルド職員の男は安心したように呟く。
その言葉に違和感を感じた限は、その違和感の解消をするために問いかけた。
「実は、北のアデマス王国との戦争が迫っているという話が上がっているんです」
「っ!!」
職員の男の答えを聞いて、限は目を見開く。
アデマス王国との戦争となれば、敷島の連中も出て来ることになるだろう。
戦争に乗じて、何人か殺すことも可能かもしれない。
そう考えると、限としては戦争が開始されるのは願ったり叶ったりだ。
「また攻めてきたということか?」
「いいえ。その兆候があるため、こちらも軍備を整えている段階だそうです」
アデマス王国の現国王は大陸統一を目指しているらしく、何度も隣接する南の2国へと戦争を仕掛けてきた。
敷島の連中の活躍もあって、少しずつだがアデマス王国は領土の拡大を図ってきた。
前回の戦争で消費した資金などの調達ができたのだろう。
また攻め込んでくるつもりのようだ。
「この国に勝ち目はあるのか?」
「それが、何でも、ある貴族が特殊な兵器を完成させたという話です」
「……特殊兵器?」
アデマス王国は、敷島の連中がいるためかなり強力な軍である。
これまでの戦いを考えると、このラクト帝国が勝てるか微妙なところだ。
そのことを尋ねると、職員の男は自身ありげに説明をしてくれた。
その説明に、限はまたしても違和感を感じた。
「はい。何でも、見たことのない魔物を使役しできたということです」
「っ!! そうか……」
その説明で、限は彼の自信の根拠が何のなのかが理解できた。
そのため、限は驚いた後、小さく笑みを浮かべた。
「いい情報を聞いた。感謝する」
「いいえ。お気をつけて」
その情報を得た限は、職員の男に感謝の言葉をかけて背を向けて歩き出した。
感謝を受けた職員の男は、去っていく限の背中に向かって別れの言葉をかけたのだった。