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第48話 拿捕

「ったく! 毎日毎日あいつらよく平気だな」


 研究所の中から、1人の男が出てくる。

 周りに人がいないからか、独り言をつぶやいている。


「研究ばっかしてんのもさすがに飽きてきたし、このままトンズラかましちまうかな」


 頭を掻きながら、ポケットから取り出した箱からタバコを1本取って口に咥える。

 そして、咥えタバコをしながら商店街の方へと向かっていった。


「トンズラするならもっと早くそうした方がよかったな?」


「っ!?」


 商店街までもう少しの距離の所で、路地裏に入った男の背後から声がかけられる。

 さっきの独り言を聞かれていたことを知り、男は咥えていたタバコを落として背後へと振り向いた。


「だ、誰……」


「動くな!!」


 声をかけてきた男の顔には心当たりがない。

 男は思わず問いかけようとしたが、すぐにそれを止めることになった。

 またも背後から声をかけられたのだ。

 しかも、今度はナイフを首に添えられての命令だ。

 そうされては命令に従うしかなく、男は黙ってそれに従った。

 その間に両手を縛られ、猿轡までされる始末。

 訳が分からないまま、男は拘束されるしかなかった。


「このまま付いて来てもらおう」


「…………?」


 何でこんなことになっているのか分からず、男は納得できないという表情で指示に従う。

 そしてそのまま、男は冒険者ギルドへと連行されて行った。






「これか?」


「っ!!」


 ギルドに連れて来られ、ようやく男は自分を拘束した人間が何者なのかを理解した。

 そして、身体検査をされて、ポケットに隠していた薬を奪い取られたことで、ギルドが何を理由に自分を拘束したのかを理解した。


「こいつを飲むと数時間の間魔物へと変貌するって話だな?」


「っ!?」


 しかも、薬の作用まで知られている。

 完成するまでは誰にも知られないようにするのが、研究員5人の間で交わされた盟約だったはず。

 つまりは、自分以外の人間がそれを破ったということなのだろうか。

 それとも、ギルドが密かに情報を掴んだということなのだろうか。

 何にしても、この状況では抵抗する術がない。


「……さて、あの研究所のことを洗いざらい話してもらおう」


「…………」


 ギルドの人間が首輪を出して話しかけてくる。

 奴隷の首輪だ。

 どうやら隠し立てはできそうにないようだ。

 男は諦めてされるがままになったのだった。






「捕まえた男は、買い出しに出ただけのようだ」


「そうすか……」


 ギルマスの説明に限が頷く。

 5人の研究員は、いざ捕まえに動いてみるとなかなか外に出てこなかった。

 そしてようやく捕まえたのが、今回の男だ。

 南の町で暴れた男が持っていたのと同じような薬を所持していたことから、間違いなく無関係ではない。

 このまま色々と尋問を続けるつもりだが、いつまでも帰ってこないとなると他の4人がどう動くか分からない。

 念のため冒険者たちを配備しているが、これからどうするかを話し合うためにギルマスに呼び出されたのだ。


「買い出しから戻らない場合、4人がどう動くか聞いていますか?」


 レラがギルマスに問いかける。

 5人が人間を魔物に変える薬を研究しているのは最初から分かっていた。

 限とレラへ人体実験をした研究員たちだ。

 そんなのを作っていたとしても驚かない。

 それよりも、確保が優先だ。

 1人いなくなり、残り4人がどう動くかのことの方が気になる。


「恐らくこの場から去る準備を始めるだろうとのことだ」


「……なるほど」


 この町にいた5人の研究員。

 たしかに限とレラを苦しめた研究員に違いないだろう。

 しかし、あの研究所にはもっと多くの研究員が存在していた。

 北からたから南、南から北へと向かって来る途中で、研究員の情報は入ってこなかった。

 そのため、研究員は揃って行動している可能性が濃厚だ。

 研究内容が研究内容なので、それが当然と言ったところだろう。

 他に漏れれば、自分たちに被害が及ぶ可能性があるからだ。

 つまり、この町で密かに研究している5人は、限たちを苦しめた研究員たちと袂を分かったということだろう。

 そんな事を、あのオリアーナが許すはずがない。

 必ず追っ手をかけているはず。

 1人が急にいなくなったことで、その追っ手に捕まったと勘違いするだろう。

 そして、研究書類と共にいなくなるというのも頷ける。


「危険ではあるが、一網打尽にするしかないかもしれないな……」


「そうだな……」


 バラバラに捕縛することで、魔物へ変異する薬を飲ませないことができると思っていたのだが、これで微妙になった。

 固まって動かれれば魔物へ変異されて足舞うかもしれない。

 そのため、こうなったら全員一気に捕まえるしかない。


「今日の夜に冒険者たちを集めて奇襲をかけようかと思うが?」


「分かった。協力しよう」


 危険人物たちを、このまま他の地へ逃がすわけにはいかない。

 逃げ出そうとするところを捕まえるしかないだろう。

 そのために、ギルマスは信頼できる冒険者たちを集って攻めかかるつもりのようだ。

 やつらに話を聞きたいのは限も一緒だ。

 当然その捕縛に参加するつもりだ。


「奴らが誰にもバレずにこの町から脱出するには、朝になってから動き出すはず。そのまえに捕まえよう!」


「あぁ……」「はい」


 夜中の捕縛作戦。

 ギルマスの提案に、限とレラは頷きを返した。




「……どうかしましたか?」


 作戦決行の夜までの間、宿屋で仮眠をとっておこうと戻る最中。

 レラは限へと問いかけてきた。


「……何故そう思う?」


「ギルマスとの話の途中、限様が何か思う所があるように思えましたので……」


 自分が考えていることをなんとなく見透かしているような問いかけに対し、限は問いで返した。

 問い返しに対し、レラは僅かに顔に出ていたことを指摘してきた。


「よく分かったな?」


 色々あって、今の体になったことで表情筋もおかしくなっている。

 それが限自身分かっているので、表情に出たとしてもほんの僅かな反応でしかない。

 なのに、レラが判断できたことが意外だ。


「それは限様の信者ですもの……」


「……そ、そうか……」


 どうして分かったのかその理由を問いかけたのだが、レラは何だか誇らしげにしつつも照れたように返答してきた。

 それが何だかストーカーチックな感情に思え、限は背筋に冷たい汗を流すことになった。

 そのため、限は思わずどもるようなことになってしまった。



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