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第42話 魔物の潜む町

「ハッ!!」


「……あんまり根を詰めるなよ」


「はいっ!」


 結局1人で大量繁殖したネズミの魔物を倒すことができなかったからか、レラは町までの道のりに出てくる魔物を率先して倒していた。

 魔物を倒せば僅かに成長することができる。

 そのことから、限たちの足手まといにならないように少しでも強くなろうとしているのかもしれない。

 ちょっと気持ちが張りつめている様子のため、限は一応忠告をした。

 今すぐ敷島の連中を相手にする訳でもないので、レラはそこまで焦る必要がないからだ。

 それに、別にレラは自分に付いてこなくてもいい。

 自分が敷島の連中を相手にしている時は、他の国にいてくれても構わないのだから、そんなに頑張ることもない。

 しかし、限の忠告もあまり役に立っていないらしく、レラは返事はしても目的の町まで魔物の相手をし続けていた。


「町までもう少しか?」


 ここまで歩いてきていた街道が、より一層整備されているように思えてきた。

 恐らく人の手が届きやすいところだからだろう。

 つまりは町が近いということだ。

 町の到着が近付き、限は街道の先に目を向けた。


「……ん?」


「どうしました?」


 目に魔力を集めて遠距離を見る望遠の魔術をしてみると、限は違和感を感じた。

 訝しむ限の反応に気付いたレラは、何かあったのかと首を傾げた。


「町の様子がおかしい……」


「……? どういうことですか?」


「何かの被害を受けたのか、防壁に損壊が見られる」


「えっ?」


 この先の町の防壁が崩れているのが望遠の魔術によって見えた。

 その崩れ方からして、恐らく魔物による被害だと思える。

 限はレラへ見たままを説明した。


「とりあえず行こう」


「……はい!」


 何があったかは分からないが、元々目的の町だったため、限たちはとりあえずこのまま町へ行ってみることにした。

 まだ望遠の魔術が使いこなせないレラは、どうなっているか分からないので、不安な思いをしたまま減の後へ続いた。






「……これはどうしたのでしょう?」


 限たちが街道を進んでいると、町の様子が見えてきた。

 町としてはまあまあの大きさをしているのだが、限が言っていたように防壁の数か所が破壊されていて、町の中の家がいくつか壊れている。

 最初に限が思った通り、何かが暴れたことによりこのようなことになったのだとレラも想像できた。


「……あの? 私たちこの町に来たばかりなのですが、この被害は何かあったのですか?」


「あぁ……、ここ最近、この町の中に魔物が出るようになったんだ」


 防壁の修理をしている大工にレラが声をかけると、修理の手を動かしながら返答してくれた。

 その大工からは疲労の色が見える。

 もしかしたら、多くの家に修理を頼まれているのかもしれない。


「……最近?」


 限は最近という言葉が気になった。

 その言葉から考えるに、1度や2度被害に遭っただけではないようだ。


「ここにはギルドがあると聞いているのですが、冒険者たちはどうしたのですか?」


 そんなことが起きているというのに、冒険者たちは何をしているのだろう。

 気になったレラは、そのままその大工に問いかけた。


「魔物はその冒険者を狙ってるようなんだ……」


「……冒険者を?」


 冒険者を狙う魔物。

 そんなピンポイントに暴れる魔物なんて聞いたことがない。

 比較的知能の高い魔物ならそういうこともあるかもしれないが、町の中に侵入しておいてそのようなことをするというのが理解できない。

 おかしな話に、限は首を傾げるしかなかった。


「詳しい話は、ギルドへ行ってくれ」


「分かりました。ありがとございました!」


 冒険者といったらギルド。

 元々、南の森にいた変異種の討伐の報告をしなければならない所だ。

 その大工に礼をいい、限たちはギルドのある場所へと向かうことにした。






「……ギルドの建物が壊れている」


 ギルドの建物がある場所へ着いてみると、そこには瓦礫が積まれていた。

 その敷地の一角に、机と椅子が置かれている。

 職員の制服を着た女性たちが側にいる所を見ると、ここで冒険者たちの相手をしているのだろうか。


「あの……」


「……はい?」


 ここで良いのか不安になりつつ、受付と書かれた紙がある机へと向かった。

 そして、レラが少しおずおずと問いかけると、汚れた書類を整理していた女性が顔を上げた。

 声をかけられた受付女性は、限たちが来ていたことも気付いていなかったようで、反応が遅かった。


「あっ! もしかして、他の町からきた冒険者の方ですか?」


「えぇ……」


 受付の女性は、限たちの出で立ちを見て冒険者なのだと気付いたようだ。

 そして、書類整理の手を止めて、限たちの対応を始めた。


「あの……、ここがギルドで合っているんですよね?」


「えぇ……」


 瓦礫の山しかなく、とても依頼などを取り扱えるとは思えない。

 そのため、レラは確認のために問いかけた。

 受付の女性も、レラがそう思うのも仕方ないと表情を曇らせながら返事をし、この状況の説明を始めた。


「実は、ここ最近夜になると冒険者が襲われる事件が起きていまして……」


 受付の女性によると、ギルドの建物が壊れているのと、冒険者が襲われているという話は繋がっているらしい。

 数日前から、突如町の中で魔物が出現するようになり、冒険者が襲われるという事件が頻発するようになった。

 一般市民には被害が起きていないとは言っても放置できることでもないため、ギルドもその事件に対応するべく討伐の依頼を出すことにした。

 依頼を受けた冒険者たちが、数人一組で夜間の警備に入ったのだが、その冒険者たちもやられてしまったとのことだった。

 依頼金額の増額を計画していたギルドだったが、その魔物によって襲撃をくらい、建物を破壊されてしまったとのことだった。

 深夜のことで、ことに当たれる冒険者も少なかったことから、あっという間に建物を崩されてしまったらしい。


「ギルマスは何をしていたんだ?」


「ちょうど隣町へ行っていて、対応できる状態ではありませんでした」


 冒険者のギルドマスターをするとなると、元高ランクの冒険者という場合が多い。

 建物が襲われているのに、その魔物への対応をしないはずがない。

 しかし、この町にいなかったのではどうしようもない。

 それも、隣町の冒険者への協力を求めに行っていたというのだから、弱り目に祟り目といったところだ。


「そうなると、少々おかしいな……」


「……何がでしょう?」


 話を聞いていて、限はなんとなく違和感を感じた。

 ギルマスがいれば、その魔物の対応に当たれた。

 多くの冒険者に勝つような魔物のため、倒せるかどうかは別としても、建物の破壊を阻止したり、怪我を負わせるくらいのことはできたはずだ。

 魔物の都合の良いように、ギルマスが不在なんておかしい。


「町の中に入ったのに冒険者だけを狙い撃ちにしているように、その魔物は人間並みに知識が高いとしか言いようがない」


 人を選ばず襲うのが魔物のはずなのに、冒険者と魔物の戦いで家の一部を破損した以外、市民に被害は起きていない。

 そして、ギルマスが不在を知っていたかのようなギルドへの襲撃なんて、狙ってやらないとできることではない。

 人間並みの知能を有していると考えるのが妥当だ。


「……もしかして、今も町の中に潜んでいるんじゃないか?」


「そんな!!」


 ギルマスの不在なんて、町の中にいないと手に入れられる情報ではない。

 そうなると、その魔物は町の中にいて、何らかの方法で情報を収集している可能性が考えらた。

 魔物が町の中に潜んでいるなんて、とても信じられるような話ではない。

 限のその予想を聞いた受付の女性は、顔を青くして反応したのだった。



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