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第24話 決闘

「何でこうなったんだ……」


 ギルドの訓練場の中央で、決闘を申し込んだ相手と向き合いながら限は現状を不思議に思っていた。

 ルール違反を犯した者を突き出しただけなのに、なんでこんなことになってしまったのだろうか。

 あっさり気絶させた3人は、目を覚ましたら口裏合わせたように被害者面している。

 ボコボコにした奴が目を覚ませば何とかなるかもしれないが、少しやり過ぎたのかなかなか目を覚まさない。

 こんなことなら、全員殺して魔物の餌にしておいた方が良かった。


「殺せ! アルマンド!」「ボウズ! 少しはもてよ!」 


 訓練場の客席には多くの冒険者が集まっていて、冒険者らしく粗野な声援を送ってきている。

 満杯と言っても良いほど集まっているが、どこからこの戦いの情報を聞きつけたのだろうか。

 聞いている限りだと、限の目の前の相手を応援している声がほとんどと言って良い。

 限を応援しているのはレラくらいのものだろう。

 

「お前、アルマンドって言う名前なのか?」


「なっ! 君! 僕の名前を知らないのか?」


「何だ? お前有名なのか?」


「くっ!」


 周囲から聞こえて来た声援で、ようやく相手の名前を知ることができた。

 何だか有名っぽいので問いかけてみたら、何だかまた腹を立ててしまったらしい。


「それで? お前が勝ったらどうすりゃいいんだ?」


「マナー違反と言う言いがかりを撤回して、彼らへの暴行を謝罪してもらう」


 そもそも、彼らがちょっかいをかけて来たと言うのに、撤回しろと言って来るのはおこがましいのだが、別に言うだけ言わせておこう。


「条件はその2つか?」


「あぁ!」


 審判役をやってくれているが、普通に考えたらランク差があり過ぎる。

 止めてもいいと思えるが、ギルドは関わらないと決め込んでいるのか何も言ってこない。


「じゃあ、当然こっちも条件を提案させてもらおう」


「何っ?」


 敵が勝った時の条件は分かった。

 では次は自分たちの条件の番。

 そう思って話し始めたのだが、アルマンドの奴は意外そうな顔して反応した。


「……まさか、自分たちだけ条件出してこっちにはないなんて不平等なこと言わないよな?」


「あっ、あぁ……」


 そもそも負けるという発想をしていないのだろう。

 仲間だからというだけの理由で奴らの裏の顔を見抜けないなんて、もしかしたらアルマンドはどこぞの貴族なのだろうか。

 それにしても、頭がお花畑で一杯と言ったような世間知らず過ぎる。


「まず、全財産寄越してもらおう。あと一生ギルドランク最下位でいることを契約してもらおう」


「……冗談だろ?」


「冗談の訳がないだろ? 駆け出しの冒険者にAランクパーティーの人間が戦闘の申し込みをしているんだ。こっちが勝った条件の方が桁違いでも構わないだろう?」


 謝罪と意義の撤回に対して、全財産没収に一生ランク最下位なんて要求のバランスがおかしすぎる。

 しかし、奴らは高ランクの冒険者だという話だ。

 そんな奴らが冒険者になりたての人間と決闘をするんだ。

 大きく吹っ掛けても文句を言われる筋合いもない。

 要求した全財産はゼータを故郷へ送っていくための旅費を稼ぐ時間を短縮するため、ランク最下位でいるように言ったのは、Aランクともてはやされているのが気に入らないから、単純にその人気を奪い取ってしまおうと思っただけだ。

 やり口や、口裏合わせがこなれている所からすると、奴らは恐らくこれが初ではない。

 Aランクだからギルドも処罰しにくいという思いもあるだろう。

 次やって訴えられでもしたら、実力があろうとも処罰されることになるはずだ。

 そう思えば、同じようなことを軽々にやらなくなるだろう。


「その条件で了解した!」


「よし! じゃあ、やろう!」


 ギルドも立ち会っているし、多くの冒険者もこの条件で戦うと聞いている。

 人気者らしいが、低ランク相手に決闘を申し込んで、条件が気に入らないから他にしろと言えないのは空気を察すれば馬鹿でも分かる。

 思った通り、吹っ掛けた条件で戦うことを了承させることに成功した。

 決まったらもうこっちのもの、さっさとこの茶番を済ませてしまおう。


「これより、アルマンドと限の戦いをおこなう!」


 審判役のギルド職員が話し始めると、騒いでいたギャラリーが黙り始める。

 変な所で行儀がいいものだ。


「君も剣か……」


「木刀の方が良かったが、まあ、いいだろう」


 向かい合うお互いが手にしているのは木剣。

 大怪我をしないようにするために、ギルドが用意したものだ。

 独り言のように呟いたが、限が得意なのは刀を使った戦闘。

 普通の剣は使ったことがない。

 持った感じなんだかしっくりこないが、たいした問題ではない。


「弘法筆を選ばずって言うしな……」


「……?」


 戦う前に剣を振ってブツブツ言っている限に、アルマンドは首を傾げる。

 自分と戦う恐怖で、気でも触れたのかと疑わしくなってくる。


「それでは……」


 限とアルマンドが木剣を構えたのを確認した審判は、両手をあげて声を張り上げる。

 観客もその声で静かになる。


「始め!!」


「ハッ!!」


 審判が手を振り下ろすのを合図に、開始早々動いたのはアルマンド。

 直進による移動と、その勢いを利用した突きが、一気に限に迫り来る。


「っ!?」


 自信の攻撃に手ごたえが何もなく、アルマンドは驚きを覚える。

 さっきまでいたはずの限が、その場所にはいなくなっていたからだ。


「こっちだ!」


「っ!!」


 声がした方向へ顔を向けて、アルマンドは更に驚いた。

 いなくなった限が、いつの間にか自分の背後に立っていたからだ。


「いい突きだ。Aランクは伊達じゃないな……」


「……偉そうに!!」


 木剣を担ぐようにして立ちながら、限はさっきのアルマンドの攻撃を寸評する。

 言葉通り、彼が放った突きはかなりいい線言っている。

 ただのお花畑のボンボンではないようだ。

 先日戦った英助よりも上の実力をしているのは確実だ。

 英助も敷島の外に出て任務をこなす役割に関わっているのだから、決して弱くない。

 敷島以外に強い人間がどれだけいるか分からなかったために、Aランクの実力と言うものを見ておきたいという思いがあったが、動きだけ見るとかなりレベルが高いようだ。

 上から目線の限の発現が気に障ったのか、アルマンドはすぐさま限に向き直る。


「なかなかやるようだが、少し本気を出そう!」


 言葉から察するに、どうやらさっきの攻撃は限の実力を計るために手加減していたらしい。

 限としては、それも分かった上で評価したのだが、アルマンドはそうは思っていないのだろう。

 声をかけずに打ち込んでいれば限が勝っていたということを理解していないのか、まだ戦うつもりらしい。

 魔力を体に纏い、身体強化を計り出した。


「全力出していいぞ? その方が早く終わる」


「舐めるな!!」


 限の言葉に反応するように、アルマンドは地を蹴る。

 身体強化すれば勝てると思っているのだろうか、アルマンドは確かに先程よりも速い動きをし始めた。

 限を中心とするように、その周りを走り始めた。


「…………」


 自分の周りを走り回るアルマンドを、限は黙って目で追う。

 限の目から外れようと、アルマンドはどんどん加速していく。


「くらえ!!」


 限の目が自分に付いてこれていないと判断したアルマンドは、背後から一気に襲い掛かった。


“ガンッ!!”


「何っ!?」


 上段から振り下ろされた剣を、限は背中を向けたまま頭上に剣をかざして受け止める。

 今度こそ当たったと思ったアルマンドは、自分の攻撃を止められたことに意外そうに声をあげる。


「……いやっ! 背後からの攻撃なのに、そんな大声出したらダメでしょ?」


 止められたことに歯噛みしながら後退するアルマンドに、限は正論ともいえる言葉を返す。


「おの……」


「はい! 終わり!」


 相手するのも飽きた限は、また動き出そうとするアマンドの懐に一気に迫る。

 「おのれ!」とでも言いたかったのだろうが、そんなの言ってから動くのではなく、さっさと動けよと言いたくなる。


「うごっ!!」


 実力はたしかにあるようだが、懐に入った限は色々と隙の多いアルマンドの腹を剣で打ち込む。


「……しょ、勝者! 限!!」


「どうも!」


「「「「「………………」」」」」


 大番狂わせに審判も戸惑っていたのか、宣言するのが1拍遅れる。 

 限がそれに礼を言うと、観客たちもまた静まり返ってしまった。

 この程度の時間で大金を稼げたことに笑みを浮かべながら、限はギルドの職員へ借りていた木剣を返したのだった。




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