第172話 決着①
「グルアァーー!!」
レラの魔法によって片腕を失ったミノタウロス。
この好機を逃すまいと、アルバは一気に攻めかかる。
アルバの両前足による連打が、ミノタウロスに襲い掛かった。
「グッ、グウ……」
アルバの連打を、ミノタウロスは残った左腕で防ごうとする。
しかし、片腕を失った影響は強く、連撃の全てに対応することはできず、いくつか被弾した。
「ガアァーー!!」
アルバの攻撃により、ミノタウロスはズルズルと後退させられる。
このままでは攻撃を受け続けることになる。
それを阻止するために、ミノタウロスは更に迫りくるアルバに左腕による攻撃を仕掛ける。
「ガウッ!!」
「っっっ!?」
カウンターのタイミングで合わせた反撃。
それでアルバを大人しくできると思っていたミノタウロスだったが、その狙いは外れる。
何故なら、その攻撃をアルバが突然の方向転換によって回避したからだ。
「ガウッ!!」
「ガッ!?」
方向転換してミノタウロスの攻撃を回避したアルバは、攻撃をして防御ががら空きになっている太ももに嚙みついた。
それにより、深い傷を負ったミノタウロスは、その場へと蹲った。
「っっっ!?」
蹲ったミノタウロスは、痛みに耐えアルバの方へと視線を向ける。
すると、アルバは次の攻撃態勢に入っていた。
「ガアァーー!!」
「ギャオーッ!!」
口元に魔力を集めたアルバは、その魔力を火に変えて放出する。
その放出された炎がミノタウロスを包み込む。
そして、アルバが炎の放出が治まると、全身に火傷を負ったミノタウロスが存在していた。
「…………」
全く動かないミノタウロスに、アルバは絶命したのだろうと判断し近寄ろうとした。
「……グッ、ガッ……」
「っっっ!?」
確実に仕留めために近付いたアルバに、ミノタウロスが突如目を見開いて睨みつけてきた。
そして、拳を握り、反撃をしようとしてきたため、アルバはその場から飛び退く。
「ガッ、ウゥ…………」
「…………」
反撃をしようとしていたミノタウロスは、振りかぶった状態のまま停止した。
そして、そのまま動かなくなった。
どうやら、先ほどの反応が最後だったらしく、今度こそ絶命したようだ。
「……そ、そんな……」
ミノタウロスの死によって、オリアーナは顔を真っ青にして絶望の表情に変わる。
そして、腰が抜けたのかその場へとへたり込んでしまった。
「…………」
「ヒッ! ヒィーッ!!」
残りはオリアーナのみ。
そのオリアーナにアルバが視線を向けると、オリアーナは涙を流しながら這いずるように後退する。
「キッ!!」
「っっっ!!」
見苦しくも逃げようとするオリアーナに対し、アルバは殺気を向ける。
それだけで戦闘素人のオリアーナの精神は耐えきれなかったらしく、すぐさま気を失った。
◆◆◆◆◆
「ハハッ!!」
「グウゥ……!」
地下の戦闘が終了する少し前。
玉座の間では、限と魔物化してリザードマンと化した重蔵が戦っていた。
両者共に至るところに怪我を負い、かなりの出血をしている。
そんな状態ながら、両者の表情は違っていた。
笑みを浮かべる限と、顔を歪めている重蔵といったところだ。
「…………」
両者の戦いを見ていた天祐は、言葉が出ないでいた。
化け物同士の戦いは、自分の予想を超えていたからだ。
離れた位置から見ているというのに、両者の戦いを目で追うのがやっとといった具合だ。
というより、ところどころ見失っている場合もある。
この大陸最強の民族である敷島人といえど、人間という生物では到達できない領域だと嫌でも理解させられる。
「すげえじゃねえか! この姿の俺と互角なんて……」
「グルル……」
笑みを浮かべる限は、重蔵に称賛の言葉を投げかける。
魔物化した重蔵に対抗するように、自分の肉体を魔物に変化させた限。
全力を出すためにこの姿になった自分と、重蔵が互角の戦闘をしていることが、何故だか楽しく思えたからだ。
しかし、重蔵の方はそうではないらしく、限の態度が上から目線のように見えて気に入らないようだ。
天祐の手のひらで踊らされたことは癪だが、強化薬と魔物化薬を使用して、とんでもない力を手に入れた。
その力で自分を痛めつけた限を殺すことができると思っていたというのに、限は更なる力を隠していた。
まさか、薬を使用することなく魔物化できる能力を持っているなんて、研究所でどんな実験をされたらそんなことが可能になるというのだ。
「どうした? かかって来いよ!」
「グルアッ!!」
休憩していて特になるのは自分の方だ。
何故なら、自分は回復魔法が使えるからだ。
重蔵からすると、回復魔法を使いたければ使えばいい。
回復魔法は、使用すればかなりの魔力が消費される。
そうした場合、たとえ傷が回復しても不利になるのは限の方だ。
戦闘が長引けば、魔力切れになるのは限の方が先だからだ。
それな安い挑発に乗る必要はない。
しかし、重蔵の中にあるプライドが許さなかったのか、その安い挑発に乗ることにした。
気合を入れると共に居合の体勢に入った重蔵は、力一杯床を蹴った。