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第151話 誘導

「せめて一太刀でも!!」


 強化薬を使用した大群の敷島兵を、たった1人で全滅に追い込むような相手だ。

 殺された多くの仲間たち同様、自分たちの命も風前の灯だ。

 それが分かっていても、王都へ攻め込ませるわけにはいかないため、平出家・高木家の敷島兵たちは、一矢報いようと限へと斬りかかっていく。


「無理だね」


「がっ!!」


 上段から振り下ろされる全身全霊の攻撃を余裕の表情で躱しつつ、限は交叉法で攻撃してきた敵の腹を、右手に持つ刀で斬り裂いた。

 斬られた敵は、大量の出血をして前のめりに倒れ込み、そのまま息を引き取った。


「はっ!!」


 先に動いた仲間がやられるのを読んでいたかのように、他の敷島兵が左から限へと斬りかかってくる。

 攻撃をした後にできる、僅かな間を狙った攻撃だろう。


「甘いな」


「ごあっ!!」


 相手の動きを読んでいるのは限も同じだ。

 魔力が無かったとはいえ、敷島の戦い方は幼少期に学んでいる。

 それに、これまで多くの敷島の者たちとの戦いで、それに対する戦い方も上達してきた。

 そのため、限は敵の攻撃を左手に持つ刀で受け流し、攻撃をして逆に隙だらけになった敵へ右斬り上げを放つ。

 身体を右脇腹から左肩へ向かって斜めに斬られた敵は、血を噴き出しながら、限へ斬りかかった勢いのままに数歩進んだ後、崩れ落ちるようにして横向きに倒れた。


「シッ!!」


 左から来た敵に気を取られている限に対し、死角となる右側からも敵が来る。

 斬り上げをしたことで脇が開いた限の横腹を目掛け、速度重視と言わんばかりの突きを放ってきた。


「フンッ!」


「なっ!?」


 敵の放った突きが脇腹に迫った所で、限は自分の脇の下から出した左手の刀を横に振る。

 それによって敵の突きを横に弾き、刀の軌道をずらした。

 死角を突いたつもりだったが、逆に死角から出て来た刀に攻撃を防がれ、敵は戸惑いの声を上げる。


「じゃあな!」


「っっっ!!」


 突きが防がれた敵は、慣性の法則によって止まることができず、完全に無防備な状態で限へと迫る。

 そんな敵に、限は別れの言葉をかけると共に、容赦なく右手の刀で薙ぎ払う。

 それにより、敵の首が飛んだ。


「「「「「…………」」」」」


 仲間を犠牲にするように、しかも死角を突いた攻撃をしているのにもかかわらず、まるで舞うかのような体捌きによってこちらの攻撃が防がれ、交叉法でこちらが殺される。

 限の一連の動きを見て、敷島の兵たちは息を呑む。

 攻め込めば、自分も彼らのように命を落とす。

 そんなイメージが、否が応でも頭に浮かんできたからだろう。


「隙を狙うなんて考えているからこうなるんだ。無駄に策を考えるくらいなら、一斉にかかって来たらどうだ? 誰かひとりくらいは俺に怪我を負わせられるかもしれないぞ」


 これまでの敷島兵たちとの戦いで、敵がどう動くか、自分がどう動けばいいかも限は理解している。

 もはや、敷島で指導される強者を相手にする時の連携は通用しない。

 そのことを証明した限は、攻撃することに二の足を踏む敷島兵たちに向かって、首をストレッチするように左右に倒して余裕を見せ煽るように言葉を投げかける。


「調子に乗りやがってガキがっ!!」「魔無しのくせにっ!!」


 限の言葉に、平出と高木が顔を赤くしてほぼ同時に悪態を吐く。

 しかし、限の言うように、敷島の戦い方では傷を与えることはできそうにない。


『他に一撃入れる方法はないか……』


『そのようだな……』


 限の言葉に乗るのは癪だが、今残っている者たちで一撃入れるには、その方法しかない。

 同じ考えの平出と高木は、声を出さずに視線で会話をする。

 そして、


「者ども!!」「一斉にかかれ!!」


「「「「「おぉーーー!!」」」」」


 限の言うように、誰がが一撃入れられれば御の字と言わんばかりの玉砕攻撃を兵に指示した。

 その指示に従い、敷島兵たちは四方八方から一斉に、逃げる隙間も与えないと言うかのように襲い掛かる。


「…………」


 いくら限でも、これでは避けることも逃げることもできない。

 攻撃が迫る中、限はただ無言で周囲を眺めた。


「ハハッ!!」


「「「「「……!?」」」」」


 一瞬の間の後、自分たちの突き出した刀が、限を串刺しにする。

 そこまで接近した状況だというのに、限は笑みを浮かべた。

 その反応の意味が分からず、攻撃をする敷島兵たちは訝しむしかなかった。


“ボンッ!!”


「「っっっ!?」」


 兵たちが隙間なく、あそこまで接近した一斉攻撃。

 あの状況なら、傷を負わせるどころか限を殺すことができる。

 そんな期待をしていた平出と高木だったが、すぐにそれが幻想だったということを理解する。

 自分たち指揮官を残した全員による一斉攻撃だったというのに、その兵たちが一瞬にして弾け飛んだからだ。


「ま、魔法……?」


「いや、そんな……」


 限を中心として、爆発するように部下たちが吹き飛んだ。

 その状況に、平出は限が魔法を使用したのだと推察し、小さく呟いたが、その呟きに高木が否定の言葉を漏らす。

 たしかに、あのような状況を引き起こすとなると、魔法を放ったと考えるしかない。

 しかし、限が魔法を使用する素振りを見せていなかった。

 もしもそんな素振りが見られたならば、そのまま一斉攻撃をさせるようなことはしなかった。


「魔法なんて斬ってしまえば問題ないなんて、いつまでも下に見ているからこんなことになるんだ」


 どうして敷島兵たちが弾け飛んだのか。

 その種明かしをするように、限は刀で足下を指し示す。


「……そんな、い、いつの間に……」


「連携攻撃を躱しながら……?」


 敷島兵たちが弾け飛んだのは、爆発魔法による結果だ。

 ただ、限がおこなったのは、魔力を地面に放出して魔法陣を描いて発動させるタイプの魔法だった。

 そのことを、平出と高木は限の足下にある魔法陣を見て理解した。

 距離のある相手を倒すなら、刀に纏わせた魔力を斬撃として飛ばせば済む話だ。

 敷島の人間なら、大抵の攻撃魔法は魔力を纏った刀で斬り捨てるか弾くことができる。

 それに、魔法陣による魔法なんて時間が掛かるだけで、自分たち敷島の人間からすると戦闘では全く通用しない。

 魔法が脅威にならないため、警戒の意識が低くなる。

 切羽詰まっている状況ではなおさらだ。

 そこを限に突かれた結果、このようなことになった。

 連携攻撃をおこなう敷島兵を相手にしながら、限は魔法陣を仕込んでいたのだ。

 その魔法陣が完成した所で、一斉攻撃をするように誘導されたことに、平出と高木は今更ながら気付いたのだった。


「正解だ」


「がっ!!」


「うっ!!」


 気付いたところで、もう残っているのは平出と高木のみ。

 戸惑っているふたりとの距離を一気に詰め、限は平出・高木の順に首を斬り飛ばした。



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