第150話 後始末
「ぐあっ!!」
一振りにより、敷島兵が崩れ落ちる。
それを成した限は、仕留めたことを確認するように周囲を眺める。
「フゥ~……、ひとまずは終わったようだな」
限の周囲には、敷島兵たちの死体の山が出来上がっている。
周りを見て、立っている敷島兵がいないことを確認した限は、刀に付いた血を振り払った後、一息ついた。
「さすがです! 限様!」
周囲にいた敷島兵を倒し尽くしたことを、側で見守っていたレラは感動したように褒め称えた。
自分たちは絶体絶命に近い状態だったというのに、限が助けに入った途端、あっという間に形勢逆転したのだから、限を神扱いしているレラでなくてもそう思うことだろう。
「後は……」
レラとニールの方はひとまず終了した。
残りはと考えた限は、少し離れた位置にいるアルバの方へと視線を向けた。
そこには傷だらけになっているアルバと、平出家と高木家の当主2人がいる。
「お前たちは休んでいてくれ」
「分かりました!」「キュウ!」
アルバの状態からして、不利な状況なのが見て取れる。
すぐに助けに行くべきと判断した限は、レラとニールに指示を出して移動を開始する。
その指示に対し、レラとニールは「自分たちも一緒に」と言いたいところだろう。
しかし、自分たちは魔力を消費して疲労困憊の状態。
足手纏いにならないため、限の指示に素直に従った。
「くそっ!」
「せめてこの犬だけでも!」
平出と高木は焦っていた。
多くの敷島兵を率いて、限の仲間と思われるレラたちを始末しようとしたのだが、多くの仲間が殺され、残っているのは自分たちだけになってしまったからだ。
谷田・橋本・光宮の三家が潰しに行ったはずの限がこちらに来ているということは、その三家は返り討ちに遭ったということになる。
残っているのは自分たちと、城壁の防御を担当している近藤家の者たちとアデマス王国の奴隷兵しかいない。
敵との兵数差を考えれば、彼らだけでは王都への侵入を防ぐことはできないだろう。
それに、このまま限の戦力を少しでも削ぐことができなければ、王都の陥落もあっという間だ。
そのため、平出と高木は、何としてもアルバだけは倒そうと、必死になって攻撃を繰り返していた。
「グルッ!?」
平出・高木が率いる敷島兵たちの攻撃を躱すため、動き回るアルバだったが、ある方向に誘導されていた。
アルバが倒した人間たちの死体が散らばっている場所だ。
そのことにアルバが気付いた時には一足遅かった。
死体から流れ出た血によってできた血だまりに足を取られ、体勢を崩してしまったのだ。
「今だ!!」
「一斉にかかれ!!」
「「「「「おぉっ!!」」」」」
アルバが体勢を崩した僅かな隙。
それを待っていた平出と高木たちは、この機に仕留めるべく、アルバに向かって一斉に襲い掛かった。
「ガアァーー!!」
「「「「「っっっ!?」」」」」
平出と高木たちの一斉攻撃により仕留められる寸前、アルバは意を決したように大きな声で吠える。
それにより、アルバの魔力が膨れ上がり、それが壁となることで迫り来る敵の攻撃を防いだ。
「グウゥ……」
「ハァ~! 最後の足掻きだったか……」
「そのようだな……」
一斉攻撃が失敗した瞬間、平出と高木は驚愕の表情で固まった。
アルバを仕留める絶好の機会を失ったからだ。
しかし、一斉攻撃を防いだはずのアルバが、立っているのもやっとと言うように目に見えて弱っている。
どうやら、先程の防御によって魔力が底をついたようだ。
こうなっては、一斉攻撃を防いだところで、死までの時間を僅かに伸ばしたに過ぎない。
そのことに気付いた平出と高木は、ため息と共に胸をなで下ろした。
「やれ!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
倒れまいと我慢して立っているだけで、反撃することもできないだろう。
アルバのその状況を理解している平出は、今度こそ仕留めるべく敷島兵たちに指示を出す。
その指示に従い、兵たちは再度一斉にアルバへと向かって行った。
「させないよ!」
「「「「「っっっ!?」」」」」
敷島兵たちが迫る所へ、一陣の風が舞い、アルバを守るように限が姿を現す。
その姿を見た敷島兵たちは、驚きで足が鈍った。
「隙だらけだ!」
「「「「「ギャッ!!」」」」」
一瞬動きが鈍った敷島兵。
それは、現にとっては絶好の攻撃チャンスに過ぎない。
もちろんそのチャンスを逃す訳もなく、限の刀によってアルバへと迫っていた敷島兵たちの多くが斬り伏せられた。
「くっ!!」
少し離れていたために運良く生き残った敷島兵たちは、限から距離を取ろうと後退しようとする。
「おっと!」
「っ!!」「がっ!!」「ぐあっ!!」
むざむざと逃がす訳もなく、限は後退しようとする敷島兵たちを追いかけてて斬りつける。
現れてすぐだと言うのに、限はもう二桁の人数を斬り倒した。
「なっ!?」
「もう来たのか!?」
限がレラたちの方に現れたことは分かっていたが、あまりも早すぎる。
谷田たち三家を相手にしても勝利したと分かった時点で、もう自分たちでは限を抑えることはできないことは察していた。
そのため、せめて限の従魔らしきアルバを始末しようと、レラたち相手にしていた仲間を犠牲にしたというのに、もうこちらに現れてしまった。
どこまでも敷島の者にとって邪魔な存在でしかない限を、平出と高木は忌々し気な表情で睨みつけた。
「……大丈夫か? アルバ」
「ワフッ……」
限の幼馴染である菱山美奈子と戦った時のパワーアップも使用したようだが、強化薬を使用した平出や高木の当主をはじめとする一族の精鋭たちが相手では、流石のアルバでも苦戦したらしく、ボロボロの状態になっている。
状態を確認するために限が問いかけると、そのパワーアップも魔力消費による時間切れらしく、アルバはもう動くのもしんどそう返答した。
「もう休んでいていいぞ」
「ワウッ!」
主人である限の匂いが迫っていたことに気付いていたため、最後に全魔力を消費した防御をおこなったが、その選択は正解だった。
主人が来れば負けることはない。
その自信があるためか、アルバは限の言葉に返事をして、その場に座り込んだ。
「俺の従魔をずいぶん痛めつけてくれたな? 他の奴ら同様、お前らも始末してやる!」
「くっ!」
「魔無しのくせに!」
アルバがひとまず無事なことを確認した限は、平出と高木に右手に持つ刀を向けて話しかける。
その気迫に圧されつつ、平出と高木たちは、負けると分かっていながらも敵前逃亡の選択をすることなく限へと襲い掛かっていった。