第149話 理不尽
少し間が空いてしまって申し訳ありません。
「ハァ、ハァ……」
「ハッハッハ……」
息を切らすレラとニール。
レラは、魔力回復薬を使用しているからと言っても、魔法を連発しているためだ。
そして、ニールはレラを守るために魔力障壁を何度も張ったことで魔力を消耗しているからだ。
「……くっ!!」
最初から全力で魔法を撃ちまくったことにより、かなりの敵を討ち倒した。
しかし、まだかなりの数が生き残っている。
数が少なくても、相手は敷島の者たち。
こっちの魔力や体力が尽きれば、あっという間に命を奪われかねない。
そうならないためにもまだ戦わなければならないというのに、魔法の指輪に収納していた魔力回復薬が切れてしまった。
それに気付いたレラは、思わず歯を食いしばる。
「……ハハッ! どうやら魔力回復薬は尽きたようだぞ! 攻めかかれ!」
「「「「「おぉーーー!!」」」」」
レラの一瞬浮かべた表情から目敏く読み取ったらしく、ひとりの敷島兵が声を上げる。
その声を受けて、他の敷島兵たちはレラへ向かって襲い掛かった。
「ハッ!!」
「くっ!!」
これ以上魔法による迎撃は難しい。
ならばと、レラは魔法同様限から指導を受けた薙刀で迎え撃つことを選択する。
しかし、いくら鍛えたとは言っても、相手はひとりひとりが強力な敷島兵だ。
なんとか攻撃を防ぐが、とても反撃できる余裕なんてない。
しかも、敵は次々襲い掛かってきているのだから、すぐに対応できなくなることは目に見えている。
そのため、レラは動き回りながらどうするべきかを必死に探った。
“ガキンッ!!”
「なにっ!?」
「ニール様!?」
順々に迫り来る敷島兵の刀による攻撃。
それがレラに当たる瞬間に、見えない壁のような者に阻まれて止まる。
誰がそれをやったのかを、レラはすぐに理解する。
ポケットの中にニールによる魔力障壁だ。
「キュウッ!!」
「……分かりました!」
これまでの戦いで、ニールもかなりの魔力を消費して相当疲弊しているはずなのに、自分を守ってくれているため、レラは感謝の言葉をかけようとした。
しかし、そんな言葉をかけるよりも、敵を倒せと言うかのようにニールが声を上げたため、レラはその指示に従うように薙刀を振るった。
「ギャッ!!」「ガッ!!」
レラは、防御はニールに任せ、自分は攻撃に専念することを決断した。
だが、これもニールが敵の攻撃を防いで置けるまでの時間稼ぎにしかならない。
もしも、ニールの魔力が尽きれば、その時点でレラは敵の刀によって体を斬り裂かれてしまうだろう。
それがいつ起こってもおかしくない状況でありながら、レラは躊躇うことなく薙刀で敵を斬り伏せて行った。
「グルル……」
アルバは、レラとニールから少し離れた所で、平出と高木と戦っていた。
ニールの魔力も残り少ないことは、アルバも気付いている。
このままでは、レラたちがいつ殺されてしまってもおかしくない。
そのため、自分もレラたちの側で戦いたい所だが、敵がそうさせてくれない。
レラたちの方へと向かおうとすると、行く手を阻むように立ち塞がるからだ。
「しぶとい犬め!!」
「しかし、確実に傷は増やしている。このまま続けるしかない」
「あぁ……」
アルバのしぶとさに、平出は思わず呟く。
その呟きに対し、高木は冷静に話しかける。
その言葉の通り、平出と高木は多くの兵と共に取り囲み、アルバに細かいながらも傷を付けていた。
結構な数の仲間が怪我を負ったが、このまま続ければ倒せる。
その考えのもと、平出と高木は部下たちと共にアルバとの戦闘を続けた。
「ハッ!!」
「ぐっ!!」
敷島兵たちを相手に、懸命に戦っていた。レラとニールのコンビだったが、とうとうニールの魔力障壁が突破され始めてしまった。
頼みのニールの障壁がない状態では、レラはもう敵を倒すことは難しくなった。
そのため、魔力障壁を突破してきた攻撃を防ぐことに専念し、懸命に逃げ回った。
「ここまでだ!」
「っっっ!?」
敷島の人間を相手に、ニールの助けが期待できなくなったレラがいつまでも逃げきれるわけもなく、あっという間に逃げ場がなくなってしまった。
レラの魔法攻撃がなくなり、ニールの魔力障壁もなくなったことで、敵からすると脅威がなくなった。
そのため、敵はまずはレラたちの周りを囲み、じりじりと距離を狭めてきた。
そして、タイミングを見計らうように、一斉に襲い掛かってきた。
「……ご苦労さん」
「「「「「っっっ!!」」」」」
“ズバッ!!”
レラへと迫った敷島兵たちだったが、その攻撃が届く前に突如現れた者によって一瞬にして身を斬り裂かれた。
「限様!?」
「キュッ!?」
現れたのは限だ。
谷田を殺してすぐ、レラたちのもとへと駆けつけたのだ。
その姿を見たレラとニールは、死を覚悟したものから嬉しそうな表情へと一転させた。
「魔無し!?」
「馬鹿な!!」
「お前は谷田殿たちが……」
限の方には谷田たちが向かったはずだからだ。
いくら魔無しだった限が強くなったと言っても、光宮家までも加えたというのに負けるはずがない。
そんな思いから、敷島兵たちは限の出現に戸惑いの声を上げた。
「あっちは全員始末した。次はお前らの番だ」
「そんな……」「バカな……」
刀に付いた血を振り払い、限は自分とレラを取り囲む敷島兵を睨みつけた。
谷田・橋本・光宮の三家を相手にして、たったひとりで勝てる訳がない。
その思いが強いためか、敷島兵たちは信じられない様子だ。
「御手を煩わせて申し訳ありません。限様……」
「……気にするな」
魔力も底をつき、体力も残りわずかと言ったところだろう。
そんな様子でありながら謝てくるレラに対し、限は顔を向けずに返事をする。
少し離れた所で戦っているアルバも、細かい傷を負っているようだが命に問題はなさそうだ。
多くの敵の命を奪っておいて、相手からすると理不尽だと理解しているが、自分の仲間を傷つけ、追い込んだ敷島兵に対して限は怒りが沸き上がってくる。
「お前らも皆殺しだ!!」
両手に持った刀を構えた限は、憤怒の表情と共に呟くと、その場から消えた。
「「「「「っっっ!!」」」」」
限がいきなり姿を消したため、敷島兵たちはその姿を確認する為に周囲を見渡す。
もちろん、限は消えたわけではない。
「「「「「…………?」」」」」
“ドサドサ……!!”
限の姿が消えたと思ったら、自分たちの胸や腹から血が噴き出している。
敷島兵たちは首を傾げるが、その理由を分かることなく、連鎖するようにその場へと倒れ伏していった。
「フッ!」
姿を得消した限は、再度レラの側へと姿を現す。
そして、目の前に立つ敷島兵たちが動かなくなった姿を見て、僅かに笑みを浮かべたのだった。