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第133話 失敗

「行くぞ!!」


「ハッ!!」


 砦の前に敷いたアデマス王国軍の指揮官のラトバラは、側に立つリンドンに声をかける。

 それを受け、リンドンは持っていた剣を掲げる。


「進めーーー!!」


「「「「「オォーーー!!」」」」」


 剣を掲げたリンドンの合図を受け、アデマスの兵たちが砦へと突き進んでいった。

 相手は敷島の人間を中心とした軍。

 それだけに、誰も彼もが決意の表情をしている。


「「「「「ワァーーー!!」」」」」


 防壁に梯子をかけて上る者たちと、攻城兵器により砦の門を破壊する者たちに分かれて攻略に当たる。


「……何だかおかしいな?」


「えぇ……」


 兵を指揮するラトバラとリンドンは、少し離れた位置で砦に向かって行った兵たちの行動を観察していた。

 すると、戦場の異変に気付く。


「またも敵が少ないような……」


「左様ですね……」


 こちらの兵を侵入させまいと、敵は砦の防壁の上から攻撃を仕掛けてくる。

 当然の反応だ。

 しかし、その攻撃をしてくる兵の数が、聞いていたほどいないように思える。

 強化薬を使用しているからと言って、あの数では抑え切れるわけがない。

 このまま進めれば、それ程時間がかからないうちにこちらの兵を砦内に侵入させることができるだろう。


「……まさか罠か?」


 配備している兵の少なさに、ラトバラはまるでこちらの兵を砦内へ導いているかのように思えてきた。

 聞いていた話と違い過ぎるのだから、そう考えても不思議ではない。


「何もない……ようですね?」


「……あぁ」


 しばらく攻防を繰り広げていると、思った通りこちらの兵が砦内に侵入し始めた。

 何かしらの罠があるとすれば、すぐに変化が起こるはずだ。

 そう思い、リンドンは砦の変化に注視してたのだが、何かが起きる気配が全くない。

 攻城兵器により、もうすぐ門も開ける。

 そうなれば、こちらの兵がなだれ込める。

 そこまで来ているというのに、敵が何か特別なことをしてくる様子がない。


「どうなっているんだ……」


「全くです……」


 門も開き、こちらの兵が砦内に入って行く。

 こうなれば、もう敵は交戦か撤退するしかないはずだ。

 こちらの勝利が近くなり、ラトバラとリンドンは前回に引き続き肩透かしに遭ったような感覚だ。

 アデマス王国の奪還を目指す自分たちからすれば、戦いに勝てることは嬉しい。

 しかし、買ったという実感が湧かないため、何だか戸惑うばかりだ。






◆◆◆◆◆


「くそっ!!」


 時間は少し前に遡る。

 王となった重蔵に砦を守るよう命じられた光宮宏直は、あまりの状況に怒りを露わにした。

 というのも、医務室で佐武家当主である哲司が殺されているのを発見したからだ。

 兵から哲司の死体の発見を聞いた時に、宏直は一気に血の気が引いた。

 哲司がこの砦に派遣されたのは、重蔵も認めるその武に期待したからだ。

 しかし、その哲司が、戦が始まる前に殺されるなんて思ってもいなかった。

 魔無しと呼ばれた限が力を手に入れ、砦内に侵入している可能性は考慮していた。

 いくら元敷島の人間だからと言って、目を光らせていれば見つけ出すことなど難しくないはずだ。

 だというのに、発見の報告が届いた頃には、発見した隊が全滅させられている。

 こんなことができるということは、聞いていた以上に限は力を付けているということだ。


「光宮様! 敵が迫ってきております!」


 佐武が殺され、数組の隊が潰された。

 戦前だというのに、このまま限に好き勝手にさせるわけにはいかない。

 そのため、宏直は砦内の警戒を更に強化した。

 それによって、限の発見報告は治まる。

 もしかしたら、警戒強化によって砦内から脱出したのかもしれない。

 そう考えて安心したのも束の間、数十分毎に兵の死体が発見されるようになった。

 どうやら限はまだ砦内に潜入しており、兵が仲間から僅かでも離れた瞬間を狙って動いているようだ。

 そんな状況では、兵が心を休ませる暇など無くなり、戦が始まるまで不眠不休の状態を余儀なくされた。

 結局、限を捕獲・発見することも出来ず、戦の当日になってしまった。

 そして、アデマス軍の接近を発見した兵は、宏直に報告を入れる。


「うるさい! そんなこと分かっている!」


 いちいち報告を受けなくても、遠くから聞こえてくる敵兵の足音を聞けば分かる。

 苛立ちから、宏直は部下にきつい口調で返答する。


「中に警戒しないといけないというのに、外からもなんて……」


 いまだに限を捕縛できていない。

 危険人物に警戒しながら、アデマス軍を相手にしなければならない状況に、宏直は頭を抱える。

 アデマス軍の相手だけをするなら、まだ勝利するだけの兵は残っているはずだが、まだ砦内に潜んでいる可能性のある限のことも警戒しながらとなると、とてもではないが戦なんてやっている場合じゃない。

 戦う前から撤退も考えないとならないなんて、光宮家の当主になってから、これほど屈辱的なことはない。


「……撤退する」


「…………えっ?」


 宏直のまさかの発言に、側に居た部下は呆気にとられる。

 限によって、多少の兵を減らされたが、警戒を強めてから殺された兵は極少数。

 しかも、それは敷島の兵ではなく、集められた奴隷兵ばかりだ。

 砦内に残っているかも分からないような限のことは、警戒しつつも置いておいて、残っている敷島の者たちの力を集結させてアデマス軍を倒すことに集中するべきだ。

 だというのに、その最高指揮官である宏直が逃げ腰でいることが信じられない。


「仕方ないだろ!! せめて魔無しの奴の捕縛さえできていれば……」


 アデマス軍の大群を相手にするよりも、問題は限だ。

 部下たちとは違い、宏直は限を放置した状態で戦うことの方が危険だと判断した。


「奴隷兵と一般兵を利用して、敷島兵は撤退を開始しろ!」


「……畏まりました」


 敗北したとしても、兵を全滅させられるよりかはマシだ。

 その判断のもと、宏直は砦を捨てて撤退することを選んだ。

 戦わずして撤退。

 その命令に、敷島の部下たちは納得がいっていないながらも渋々といった表情で従う。

 宏直の命令通り、砦内に残した奴隷兵によってアデマス軍の足止めをさせ、一般兵を殿に撤退を開始した。


「……チッ! 思ったより慎重な奴だな……」


 意気揚々と砦に攻めかかるアデマス軍をしり目に、光宮たちは密かに撤退していく。

 その姿を見て、限は思わず舌打をした。

 今回の策が失費に終わったからだ。

 砦内で暗躍した限だったが、実はとっくの昔に脱出していた。

 いまだに自分が砦内に潜んでいるのではないかと、宏直や敵兵に思わせた状態のままアデマス軍と戦わせることで、戦いを鈍らせようと考えていたのだ。


「まぁ、別にいいか……」


 策は失敗したが、アデマス軍がまたも勝利することができる。

 それで良しとして、限は次に取る策を考えることにした。



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