第128話 勝負あり
「クッ!!」
「な、何だ!?」
「何が起きている!?」
いきなり鳴り響いた爆発音に、当然三浦・山科・南川の3人は慌てた。
「うぅ……」「…ァウ……」「……ッ…」
音が鳴り響いた方向に目を向けると、多くの敷島兵が怪我を負っていた。
限との戦いで傷つき、回復を計っていた者たちが集まっていた、言わば医務室のような場所だ。
完全に無警戒だった彼らは、爆発により四肢を欠損している者ばかりだ。
辛うじて反応している者もいるが、怪我の具合から見て助けることはできないだろう。
“ズドンッ!!”
「ま、またっ!?」
再度爆発音が鳴り響く。
生存者たちを助けに向かった者たちが吹き飛び、更なる怪我人が増えることになった。
その光景を見て、三浦の表情が歪んだ。
「ククッ……」
「っ!! これは貴様の仕業か!?」
死体が散乱するこの状況に、限は小さく笑う。
その笑い声を聞いて、山科は怒りと共に問いかけてきた。
「……だったら?」
この状況を見れば、自分が関わっていることは明白だ。
しかし、自分は大多数の敵を相手にし、その後は彼ら3人と戦っていたため、とても何かを仕込む時間はなかった。
そのことが分かっているため、山科も問いかけてきたのだろう。
その答えを教えても構わないが、教える必要もない。
なので、限は思わせぶりな言葉を返答するだけにとどめた。
「おのれ……」
「……まさか卑怯とか言う訳ではないよな?」
自分よりも年下の限にいいようにしてやられたことが気に入らないのか、それとも、多くの仲間が不意打ちのようにして死傷させられたからか、南川は憎しみのこもった目と共に恨み節を呟こうとした。
その顔を見て、限は不思議そうに尋ねる。
「まさか卑怯とか言わないよな? 俺一人相手に強化薬を使って大人数。卑怯と言うならそっちの方だろ?」
「ぐぅ……」
限の言うとおりだ。
そのため、南川は言おうとしていた言葉を飲み込むしかなかった。
「そもそも敷島では、戦いに勝利するためなら、どんな汚い策でもありだと教わったぞ。今は違うのか?」
「クッ!!」
魔無しと言われようと、限はキチンと指導を受けていた。
その時、敷島では勝つために取れる策なら、どんな方法でも構わないと教わった。
それを実行したというのに、文句を言われる意味が分からない。
もしかしたら、今は指導方針を変えたの変えたのかと、限は厭味ったらしく問いかけた。
もちろん、指導方針を変えたなんてことはない。
それが分かっていて聞いてきている限に、南川は怒りと恥ずかしさから顔を赤くした。
「それより……」
「「「っっっ!?」」」
何をどうしたかと言う話はそこで終了にするかのように、限は3人に話しかける。
会話しつつ仲間の怪我の様子が気になっていた3人は、今更ながらに限の様子が変わっていることに気付いた。
いつの間にか、纏っている魔力の量が増えていたのだ。
「さっき言った通り、7割の力で相手してやるよ……」
強化薬を使用した3人と戦うには、身体強化の魔力量を増やす必要がある。
3人の攻撃を躱しながらそれをおこなうには、ほんの一瞬の時間が必要だった。
原因不明の爆発によって、意識の逸れた彼らは攻撃の手を止めてしまった。
それだけで、あまりあるくらい充分の時間が得られた。
そのため、限は宣言通り7割の力をもって3人の相手をする事にした。
「ちょ、調子に乗るな!!」
「ま、魔力が上がっただけだろ!!」
「くたばれ! 魔無しが!!」
纏う魔力量が増えただけで、限から発せられる圧力が先程までと違う。
その圧力に戸惑いながらも、3人は再度限へと襲い掛かっていた。
「フンッ!!」
「グフッ!!」
敵の攻撃を受け止めては、他の者の攻撃を受ける隙ができてしまうため、これまでは受け止めるようなことはせずに躱すしかなかった。
しかし、魔力量上昇と共に身体強化された今では話が別。
3人の攻撃を躱しつつ、限は少し雑になった三浦の攻撃を受け止める。
そして、その攻撃を受け止めると共に、三浦の腹に前蹴りを突き刺した。
「「なっ!?」」
これまで通り、限には反撃の隙など与えていなかったはず。
それなのに攻撃を受けた三浦を見て、山科と南川は驚きの声を上げた。
「オラッ!!」
「ウグッ!!」
3人の連携による攻撃だからこそ、7割全力の限もそう易々と反撃ができないでいた。
しかし、1人が崩せれば反撃の機会は増える、
驚きつつも攻撃してくる山科の上段振り下ろしをいなし、限は脇腹にミドルキックをお見舞いした。
「ふ、2人共!!」
三浦だけでなく山科までも反撃を喰らい、南川は慌てる。
一瞬の反撃だというのに、限の蹴りは強力だ。
その蹴りをくらった2人は吹き飛び、すぐにまた攻撃を仕掛けるということはできない。
「お仲間の心配している余裕があるのか?」
「っ!?」
限のことは当主の3人に任せ、動ける部下たちは先程の爆発で怪我を負った生存者の救出に向かっている。
これまでの戦いから、3人なら限を倒すことができると踏んでの判断だろう。
しかし、その3人のうち2人が攻撃を受けて、限との距離が開いてしまった。
つまり、南川は限と1対1で戦わなければならない状況になったということだ。
「まずはお前だ……」
「がっっっ!!」
7割の全力を出している今の自分なら、1対1では相手にならない。
数回の攻防が繰り広げ、限は南川の刀をかち上げる。
そして、上体が起きて無防備になった南川を薙ぎ、胴を深く斬り裂いた。
「「南川殿!!」」
「ハハッ!!」
胴を斬り裂かれた南川は、崩れるように倒れ込む。
指先は僅かに動いているが、明らかに致命傷で虫の息と言ったところだ。
そんな南川を心配しつつも、限を相手に隙を見せるわけにはいかない。
三浦と山科は、南川への攻撃を終えた限に向かって、同時に斬りかかった。
「っと!」
三浦と山科の打ち下ろしを、限は左右の刀で受け止める。
「二刀だと……!?」
「いつの間に!?」
ここまで限は、一本の刀で戦っていた。
敷島の人間からするとその方が普通なのだが、限はそうではない。
強化したパワーにより、両手で振り下ろしてきたそれぞれの攻撃を、簡単そうに片手で受け止めた。
三浦と山科からするとそのことも驚きだが、いつの間に刀を抜いたのか分からず戸惑った。
それだけの抜刀速度を有しているというのなら、身体強化の魔力を増やさずとも自分たちを斬ることができたのではないかという思いからだ。
「止まってるぞ? ハッ!!」
「ギャッ!!」
限の二刀に戸惑ったことで、三浦と山科は僅かに停滞してしまった。
その隙を逃すことなく、限は三浦の胸を刺し貫いた。
反射的に悲鳴を上げた三浦だったが、刀が引き抜かれると同時に大量の出血をし、そのまま絶命した。
「そ、そんな……」
「……終わりだ」
これで残ったのは山科だけ。
2人が殺されて、限との力の差を今更ながらに痛感した山科は、震えながら後退る。
そんな山科に対し、限は笑みを浮かべながら脳天に刀を振り下ろした。