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第106話 選手交代

「ハァッ!!」


「くっ!!」


 地を蹴りものすごい速度で迫る奈美子。

 その速度を利用しての突きに、レラは必死に反応する。

 手に持つ薙刀で軌道をずらし、レラは何とか奈美子の攻撃を防ぐが、これまでと違い全く余裕がない。

 反撃しようにも、奈美子の攻撃を弾いただけで手が痺れてくる。


「また逃げるつもり?」


「……うるさい!」


 攻撃を躱されたというのに、奈美子は余裕の笑みと共にレラに問いかける。

 戦闘開始時とは違い、レラに余裕がないことが分かっているからだ。

 また逃げ回ると共に結界内に魔法陣を設置しようにも、短時間で設置するような魔法陣では奈美子にダメージを与えるどころか接近を防ぐ事すらできない。

 そのことはさっきの攻防で理解しているうえで、煽ってくるような奈美子の物言いに、レラは内心焦りを覚えていた。

 このままパワーアップした奈美子の攻撃を防ぎ続けることはできない。

 限の指導で防御に関して一流レベルになれているとは思うが、薙刀による攻撃面はそこまでに達していない。

 一般的な敷島兵との1対1なら何とかなるかもしれないが、今の奈美子レベルとなると通用しない。

 つまり、完全に手詰まりだからだ。


『時間が稼げれば……』


 聖女見習いとして回復魔法を訓練していただけあり、魔力操作を教わる必要はなく、その分攻撃魔法の訓練に当てることができた。

 そのため、レラは薙刀による攻撃よりも魔法攻撃の方が得意だ。

 今の奈美子に自分がダメージを与えることができるとしたら攻撃魔法だけだとレラは考えたが、そのためには魔力を溜めるための時間が必要。

 しかし、その時間を作るための策がレラには思いつかないでいた。


「っっっ!?」


「ワウッ!!」「キュッ!!」


「アルバ様! ニール様!」


 レラが手詰まりになり、どうやって奈美子と戦うかを考えていたところ、突然レラと奈美子だけを囲んでいた結界が消失した。

 どうしたのかとレラが驚くと、ニールを背に乗せたアルバがレラと奈美子の間へと現れた。


「はっ! 頭のいいペットだな。あんた独りじゃ勝てないと判断したようね?」


「くっ!!」


 奈美子を睨みつけるアルバとニール。

 そんな2匹を見て、奈美子はレラを助けに来たのだと判断した。

 たしかに、奈美子と戦って勝つことは難しい。

 分かっていても、倒せる機会があっただけに、レラは1人で倒せないことの悔しさが込み上がってきた。


「ガァッ!!」


「おっと!」


 まるで、今度はレラに代わって自分たちが相手だと言わんばかりに、アルバが奈美子へと襲い掛かる。

 パワーアップした自分と同等の速度で迫るアルバの噛みつきを、奈美子は横へ跳んで躱す。


「ハッ!!」


 奈美子は、躱すとすぐにアルバに斬りかかる。


「キュッ!!」


“ガキンッ!!”


「っと! 確かに厄介なコンビね」


 アルバに迫る奈美子の刀が弾かれる。

 ニールが張った魔力壁だ。

 受ければ一発で致命傷になりかねない攻撃をしてくるアルバと、魔力を溜める時間が短いにもかかわらず強力な魔力障壁を張るニールに、奈美子は改めてこの2匹のコンビネーションの危険性を感じていた。


「奈美子!」


 女性部隊が、一旦アルバたちから距離を取った奈美子のもとへと近寄る。

 アルバを相手にしていた彼女たちはかなり疲弊しており、多くの死傷者が出ているようだ。


「この2匹は私が殺る。みんなはあの女を相手して」


「了解」


 苦しめられたレラは、自分の手で始末したい。

 しかし、これ以上仲間をやられるわけにはいかないため、奈美子はあの2体の従魔の相手をすることにし、残った女性部隊の者たちにはレラを相手にしてもらうことにした。

 ニールの魔力壁を突破できない女性部隊の者たちからすると、奈美子の提案は願ったり叶ったりだ。

 すぐにその提案に乗り、女性部隊の者たちはレラへと向かって走り出した。


「ワウゥ……」「キュッ……」


 自分たちのコンビにより、かなりの女性部隊の者たちを戦闘不能にしている。

 しかし、それでもまだ結構な数が残っている。

 その数相手に、レラが1人で対応できるか不安のため、アルバとニールは何度か心配そうにレラをチラ見する。


「私は大丈夫です。お二人はその女を!」


「ワウッ!」「キュッ!」


 今の奈美子は、2匹のコンビネーションをもってしてもかなり危険な相手だ。

 そのため、自分の心配をするよりも、奈美子の相手に集中してもらおうと、迫り来る女性部隊に対応しつつ、レラはアルバたちに声をかけた。

 それを聞き、レラを心配する暇があるなら少しでも早く敵を始末しようと、アルバとニールはレラの言うように奈美子に集中することにした。






「ハァ、ハァ、マズイな……」


 動きっぱなしで息が切れ始めた限は、僅かに視界に入った仲間の様子を心配していた。


『奈美子があんな秘策を持っているなんて……』


 これまでと同じく、限はまるで作業のように動き回りながら敵を殺していく。

 その思考は、奈美子の変身の分析に移っていた。

 奈美子の変身は、限にとっても完全に予想外だ。 

 敷島内の一部の家には、肉体を一時的に強化する丸薬があることは知られている。

 しかし、あのように肉体強化と魔力を増幅させるような物があるとは、限は聞いたことも見たことも無い。


『もしかして、最近できたのか?』


 自分が研究所に送られてから、できた薬のかもしれない。

 しかし、それなら前回菱山家の連中も使っているはずだ。

 彼らどころか、今戦っている五十嵐家の者たちも使用してこない。

 あんなのをここにいる全員に使われたら、それこそ自分がこんな悠長に分析していられるわけがない。

 そう考えると、つい最近完成した薬なのではないのかと限は考えるようになった。


『人間でありながら魔物並の力を手に入れる。まるであいつの研究みたいだ』


 今の奈美子は薬の効力とはいえ、人間の域を越えた成長をしている。

 しかし、限には似たような効力を発揮する薬に心当たりがあった。


『……あいつのみたい(・・・)?』


 心当たりとはオリアーナの研究だ。

 薬物により人間を魔物と化し、その強力な戦闘力で敵を駆逐する。

 奈美子は魔物化していないし意識も失っていないが、戦闘力の上昇はまるで魔物化したようだ。

 そのことから、限にはある考えが頭に浮かんできた。


「まさか、あいつ敷島に……」


 行方不明になっているオリアーナ。

 そのオリアーナが、奈美子の使った薬を作り上げたのかもしれない。

 つまり、オリアーナは敷島内にいる。


「そうか……」


 可能性がある復讐対象者の行方に、予想がついた限は嬉しさから獰猛な笑みを浮かべる。

 そして、その笑みと共に、魔力が膨れ上がっていった。



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