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第101話 対五十嵐家②

「あっちはレラに任せて、俺は他を相手にしないとな……」


 許嫁にさせられたことが気に入らないからか、昔から奈美子は自分に対してきつく当たってきた。

 島を出る時も、ふざけたことを言われたことを覚えている。

 出来れば奈美子も自分の手で始末したいところだが、他にも相手にしなければならない敵が大量に存在している。

 そのため、奈美子と女性部隊の方はレラに任せることにした。


“スッ!”


「「「「「っっっ!!」」」」」


 他の五十嵐家の兵たちを相手にするため、限は刀を抜く。

 その刀を見て、五十嵐家の面々が目を見開く。


「あれは……」


「おのれ……」


 五十嵐家の面々から怨嗟の声が漏れる。

 何故なら、限が両手に持った刀のうち、右手の刀が菱山源斎のものだったからだ。


「落ち着け! あれは我々をワザと煽っているのだ!」


「光蔵様……」


 怒りは力にもなるが、視野を狭めることにもつながる。

 他の兵たちが怒りで顔を歪め、そのまま限へと攻めかかろうとするのを光蔵が叱責すした。

 その言葉により落ち着いたのか、兵たちの表情が冷静なものへと変わっていった。


「チッ! 菱山とは違うか……」


 舐めた態度を取れば、怒りに任せて攻めかかってきた菱山家の兵たち。

 彼らとは違い、五十嵐家の方は煽っても乗って来ないようだ。

 ちょっとした心理戦が無意味に終わり、限は舌打ちをした。


「「「「「「ハァ!!」」」」」」


 周囲を囲んだ五十嵐兵たちは、限との距離を詰める。


「シッ!!」「セヤッ!!」「オラッ!!」


「とっ! ハッ! フッ!」


 距離を詰めた五十嵐兵が、僅かな時間差で襲い掛かってくる。

 迫り来る刀を、限は次々と躱す。


「ハーッ!!」


「フンッ!」


「ガッ!!」


 この人数で攻撃が当たらないことによる焦りなのか、何人目かの攻撃が少し大振りになる。

 それを見逃さず、限は躱すと同時に胴を斬り裂いた。


“ヒュン!!”


「くっ!!」


 仲間が斬りつけられたことによるものなのか、一瞬敵の攻撃が止む。

 それを訝しむ限に、火球が数発飛んできた。

 飛んできた火球を、限は両手の刀で弾くことで事なきを得る。


「魔法使いも連れてきているか……」


 火球が飛んできた方角を見ると、こちらに手を向けて魔力を練っている集団が存在していた。

 敷島では敵を確実に仕留めることを求められるため、遠距離攻撃をする魔法使いはあまり使用されない。

 しかし、今回なりふり構っていられないのか、魔法使いの者たちも連れてきているようだ。


「「「「「ハーッ!!」」」」」


 魔法を躱した限に、再度兵たちが襲い掛かってくる。


「ハッ!!」


「ギャッ!」


 1、2人と攻撃を躱し、3番目に襲い掛かってきた敵の左腕を斬り飛ばす。


「ぐぅ……、ガァー!」


「っ!!」


 次の敵へと警戒していた限だったが、先程腕を斬り飛ばされた敵が向かってきた。

 片腕で何をする気なのかと警戒していると、至近距離から刀を投げつけて来た。


「フンッ!」


「ガッ!!」


 投げつけて来た刀を、限は右手に持つ刀で弾く。

 すると、投げつけて来た敵は、低いか前からタックルをして来た。

 どうやら、押し倒して仲間に自分ごと仕留めさせようと考えているのだろう。

 その狙いを察した限は、刀を弾いて僅かに崩れた体制のままタックルしてきた敵の首を斬り飛ばした。


「片腕だけでなんてパワーしてるんだ……」


 刀を弾き、体勢が少し崩れた状態で利き腕ではない左手の攻撃。

 致命傷を受けても、即死するようなことはないと考えていたのだろう。

 少し離れた場所から指示を出していた光蔵は、限のパワーに驚く。


「あの限が……」


 光蔵の隣にいる奏太は、限の強さに驚いていた。

 島にいる時の限は、魔力がないことから魔無しと言われていじめられていた。

 奏太も何度かその場に遭遇し、いじめていた連中を諫めたことがある。

 限が努力をしていたことは知っていたが、どんなに努力をしても魔力がなければ何の意味もなかった。

 いつまでもいじめ続けられるだけの存在だった限が、今では五十嵐家の面々と堂々と戦っている。


「この数年で何があったんだ……」


 何の研究をしていたのか分からないが、研究所に送られて死んだと聞いていたというのに、この変貌ぶりが信じられない。

 攻めかかる敷島への攻撃を躱しつつ、時折反撃をして斬り倒す。

 そんな攻防をしている限から、奏太は目が離せなかった。


「菱山家の時よりも面倒だな……」


 限の額から汗が流れてくる。

 敵と違い、限は的にならないよう足を止めず、狭い範囲を動き回るしかないからだ。

 いくら限が人体実験によって特殊な体を手に入れたとはいえ、体力は無尽ではない。

 菱山家を相手にした時も同様だったが、あの時と違い、この場に身を隠したりする樹々がない。

 少しでも息つく暇を作れないため、このままでは体力も切れてしまうかもしれない。


「とは言ってもな……」


 このままではまずいが、かといって戦闘中に打開策を見つけるない限りこのままでいるしかない。

 汗を拭うことも出来ず、限は次々と迫り来る敵を捌いていた。


「フンッ!」


「ぐあっ!!」


 何人目になったのか、敵の大振りに攻撃を合わせる。

 それにより、限は敵の腹を掻っ捌く。


「グ…グウ!!」


「しぶと……」


 腹を斬られた敵はすぐには死なない。

 残り少ない命を使い、限を殺すためにしがみつこうとしてくる。

 鈍った動きで迫る相手に捕まる訳にはいかないため、限はギリギリ距離を取って止めを刺そうとした。


「ハァッ!!」


「おわっ!」


 死を覚悟して迫り来る敵。

 それに止めを刺そうとした限は、迫り来る敵の背後にもう1人重なっているのが視界に入った。

 そのことから危険を察知した限は、焦って背後へと跳び退く。

 すると、腹を斬られても迫り来る敵の胸を貫いた刀が、限に向かってきた。

 仲間を犠牲にしての攻撃という意表を突かれ、限は脇腹を少し斬られてしまった。


「決死の思いだな……」


 仲間を犠牲にしての攻撃は、敷島では兵法の1つとして教えられている。

 しかし、それは余程の相手をする時のみだ。

 それだけ、五十嵐家は自分のことを脅威と見定めたようだ。

 魔無しと呼ばれ、敷島の者には蔑んだ目しか向けられなかった。

 それが今では脅威と見られていることが、限からしたら面白く感じ、僅かに笑みを浮かべる。


「決死な所悪いが、俺の標的になった時点でお前らは皆殺しだ!」


 敵に認められて嬉しいが、それはそれ。

 敷島の人間は全員殺害対象。

 限は先程の笑みを獰猛なものへと変えた。



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