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第100話 対五十嵐家①

「魔無し!! 何で菱山家を!?」


 奈美子は、怒りの表情で限へと問いかける。 

 父を始めとした一族の者たちを皆殺しにした張本人が目の前にいるのだから、腹を立てるのも当然だろう。


「何故? そうだな……」


 腹を立てている奈美子の顔を見ながら、限は思案するように顎に手を当てる。

 しかし、その表情は真剣味が足りない。


「……何となくだ」


「っ!!」


 少し間を置き、限はしれっとした表情で奈美子へ返答した。

 明かに、奈美子の神経を逆なでするような回答だ。

 限の予想通り、答えを聞いた奈美子は怒りに震えた。


「ふざけ……っ!?」


「待つんだ。奈美子」


 怒りに任せ、奈美子は腰の刀へ手をやり、限へと襲い掛かろうとする。

 そんな奈美子に手を向け、奏太は制止させる。


「……限。お前が敷島の人間に手を出したのは、奈美子を取られたからだろ? 幼馴染としての情けだ。大人しく捕まれ。そうすれば苦しまないように処刑してあげるよ」


「…………は?」


 奈美子を止めた奏太は、訳知り顔で限へと話し始める。

 しかし、限にとっては的外れ過ぎた話のため、理解するのにだいぶ間が空いてしまった。


「いや、そいつも言っていたが、俺も頭領からの指示で許嫁として受け入れていただけだ。そんなアバズレ最初から相手にしてねえよ」


「なっ!!」


 研究所送りが決定して島を出る時、奈美子は頭領の指示で仕方なく限との婚約を受け入れたといっていた。

 それは限も同じだ。

 奈美子の見た目は良しとしても、元々性格的に好みではなかった。

 それのせいで復讐しているなんて思われるのは、限にとっては甚だ不愉快でしかないため、奏太の言葉を丁寧に否定した。

 いまだに限を下に見ているからか、アバズレと言われたところで、更に奈美子の頭に血が上る。


「じゃあ、何で敷島の人間の邪魔をする?」


「簡単だ。俺の標的は敷島家の滅亡だ。老若男女関係なく皆殺しにしてやるよ」


 奏太の問いに、限は真剣な表情で返答する。

 大量の敷島兵たちに周囲を囲まれているというのに、全く躊躇うそぶりを見せない。


「ふざけるな!!」


 限の返答内容と態度に、今まで平静だった奏太がキレる。

 そんな奏太の怒鳴り声に対し、限はやれやれといった表情でため息を吐く。


「ふざけてなんていないさ。強くなければ人ではないなんて考え持っているようなイカれた連中は滅びるべきだろ?」


 この大陸に争いをもたらしているのはアデマス王国だ。

 そのアデマス王が強気で攻めているのは、敷島の人間たちが存在しているからだ。

 敷島の人間がいなくなればアデマス王も下手に動けなくなり、この大陸での争いは激減するはず。

 斎藤家だけでなく、敷島の人間を滅ぼすのはそういった考えからだ。


「菱山家は潰した。次は五十嵐家だ」


 菱山家の時のことを考慮して、五十嵐光蔵は大量の兵を集めたようだが、限は狼狽えない。

 狼狽えるどころか、限は笑みを浮かべつつ呟いた。


「……もういい! お前はこの場で死ね!」


 菱山家を潰した敵が死んだはずの限だと分かり、幼馴染のよしみで本気で苦しまないように殺してあげようと奏太は考えていた。

 しかし限は、大量の敷島兵に囲まれて勝ち目など無いというのに、自分の温情を受け入れるどころか反省する欠片も見せない。

 その態度に、会話する意味がないと諦めた奏太は、父に目を向けて頷き合った。


「殺れ!!」


 五十嵐家に連なる大量の敷島兵で囲んでいるため、斎藤家の魔無しがどんな力を得たとしても負けることはないだろうが、戦闘になれば自分の配下が何人か殺される可能性がある。

 その何人かを出さないためにも、光蔵は息子の奏太が説得をするのをそのままにしていた。

 しかし、その説得も無駄となれば、戦う以外に道はない。

 そう判断した光蔵は、限とレラたちを仕留めるために、敷島兵に指示を出す。


「「「「「オーーーッ!!」」」」」


 その指示を受けた兵たちは、巨大フロア中央にいる限たちに向かって一斉に行動を開始する。


「魔無しーー!!」


「もう魔無しじゃねえっての……」


 兵たちよりも速く、限たちに迫る部隊が存在する。

 奈美子をはじめとした女性部隊だ。

 どうやら光蔵の指示を受ける寸前、フライングするように行動開始していたようだ。

 それだけ、菱山家の一族を潰した限への怒りが強いのだろう。

 奈美子は目を血走らせるように叫びながら、腰の刀を抜いて限へと襲い掛かった。


“キンッ!!”


「っっっ!?」


 限へと迫り、刀による突きを放つ奈美子。

 その攻撃を、限ではなくレラが弾く。

 突然、限との間に入ってきた薙刀により攻撃を止められた奈美子は、その武器を持つレラに目を向けた。


「何だあんた!? 邪魔するな!!」


「限様。この女は私に殺らせてください」


 美奈子の発言を無視しながら、レラは限へと話しかける。


「……あぁ、任せた」


 冷静に見えるが、内心殺意に満ちているのが限には分かる。

 というか、美奈子と話し始めた時から、限はレラから少しずつ殺気がわずかに洩れていたような気がしていた。

 自分は他にも大量の人数を相手にしなければならない身。

 なので、限はレラが殺りたいというのなら奈美子を任せることにした。


「アルバ。お前もレラの援護をしてやってくれ」


「ワウッ!」


 限の指導もあってか、レラは確実に強くなっている。

 しかし、前回以上の数を相手にしなけらばならないとなると少々不安な面があるため、元々レラにつけるつもりでいたニールだけでなく、アルバも援護につけることにした。

 そして、アルバに指示を出した限は、美奈子をはじめとする女性部隊をレラたちに任せ、他の五十嵐家の兵たちと戦うために移動を開始した。






「……あなたのような愚者が元許嫁なんて、限様にとって黒歴史でしかないわね……」


「何ですって!?」


 限が離れたのを確認して、レラは美奈子を睨みつけながら呟く。

 隠している裏の顔が、少し出てしまっている。

 婚約者がいたという話は、限本人から聞いていた。

 レラからすると、羨ましいとしか言いようがない。

 その存在を目の前にした時、レラは何故か怒りが沸き上がってきた。

 そのため、レラは美奈子の相手をしたいと限に進言したのだ。


「あんた! あの魔無しの何なのよ!?」


「今から死ぬあなたに話す必要はないわ」


 過去のこととは言え、限の許嫁だったという羨ましさからくる嫉妬。

 その怒りを鎮めるために、レラは奈美子をこの世から消したいのだ。

 無題会話する時間も惜しむように、レラは鍔迫り合いの状態から脱するように後方へと距離を取った。

 そして、薙刀を構え、全身に纏っている身体強化の魔力をさらに高めた。


「死ぬのはあんたよ!!」


 レラの身体強化は、たしかにすごい。

 しかし、自分の実力と数で勝る自信から全く怯むことはない美奈子は、レラたちに向かって女性部隊を仕向けた。



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