ワールドスタープロダクション本社⑧
おはようございます!
昨日の説明で一応基本会社的には普通8時から開始らしいが、部署的に時間帯が別々の為細かな就業時間が個別に用意されているらしい。
それで俺はまだ正式には入社していない身なので朝一番でジェシカ社長の所にやってきていた。
今日はどんな事をするのかと不安な気持ちだが、ジェシカ社長について行くしかない。
そう思っていたけど、今日は社長として会議やら打ち合わせやら忙しいらしく今日は橘さんに付いて行く様にと指示を貰った。
それで橘さんについて行くと……………………本社を出て倉庫が立ち並ぶ場所に来ていた。
何処よここ?
ん?時代劇の様な服装でちょんまげのカツラを被っている人がいるし、警察官の制服の人もいる。
おっ戦隊のコスチュームに着ぐるみまで歩いていた。カオスだ。
素直に橘さん聞いてみると。
「橘さん。ここどこですか?」
「え?スタジオだよ。倉庫の中にセットがあって各倉庫で撮影しているんだよ。」
「へぇ~そうなんですね。今日は見学ですか?」
「見学?見学なんかしないよ。エキストラとして参加しにきたんだよ。」
「へぇ~橘さんはエキストラとかもするんですか?忙しいですね。」
「そう、いそ…………って違うから!エキストラとして参加するのは優紀さんだから!」
「…………はい?」
「あれ?熊谷さんから聞いてないの?」
聞いてませんけど?って、え?
俺は後ろにいる鮎美を振り返って見ると……………………どこ見てるの?視線合わせようね。
「…………お~い。鮎美さ~ん、怒らないからこっち向いてお話しようね~」
俺がそういうと…………テヘペロじゃね~よ!
「だってお風呂からあがったら優紀寝てるし、ほら私って朝弱いじゃん。さっきやっと覚醒したって感じなんだよね~」
そうなんだ~~って俺がそう簡単に許すと思うか!知ってるよね?私の性格…………
「そうだ!橘さん。お願いがあるんですけどいいですか?」
「え?参加したくないとかじゃなければいいけど、何かな?」
「そのエキストラってもう1人増やせません?私1人とか不安で…………出来れば熊谷さんにも一緒にとかお願いしてもいいですか?」
「あ~それなら多分大丈夫だと思うよ。監督達に頼んでみるよ。」
「ありがとうございます。」
さ~て鮎美さん。他人事だと思っていたけど、同じになりましたね。ふっふっふっ
勿論鮎美さんはテヘペロから一転、嘘!って顔になっていた。
してやったりと喜んだけど、ん?ちょっと待って!何かさっきの橘さんの言葉に違和感があるんだけど?
何か変な事言ってなかった?気のせいかな。
そうして向かったのは大きな数字の4と扉に書かれた倉庫。
中に入ると木の香りがふわっとした。奥に進んで行くと、うわぁマジかTVとかで見ればちゃんとした建物に見えるのにスタジオの中だと本当に立体的な絵みたいな作りになっていて驚いた。
セットの外側から見れば喫茶店に見えるけど、逆にそのセット中から外を見るとワチャワチャした感じにしか見えない。こんな所で撮影ってされているんだな~って初めて知ったわ。
エキストラの役はただの喫茶店にいるお客らしい。ただ鮎美と楽しそうに10分程話してジュースを飲むだけだった。ただ女子高生の服装には着替えさせられたけど…………どんな内容の番組なのかも全然わからなかった。
本当にカメラに映っていたのかな?
撮影が終わり着替え直してこれで終わりかと思ったのに、次に向かったのは7番倉庫。
そこでも着替えさせられて、白衣の看護師の姿で卒業式みたいな集まりの中に10分程座った。
これで最後だろうと思っていたら次に向かったのは1番倉庫。
またまた着替える事になり、次に着たのは着物。どうも時代劇らしい、町娘かな…………さすがに今度は1人で着れないので着つけてもらって初めてカツラも被った。
さっきまでは気持ちに余裕がなかったのか気が付かなかったけど、どうも動いているカメラでも赤いランプが点灯している方を役者さん達は気にしているみたいだった。
撮影は30分程で二回やり直した。何かあったのかわからないけど、監督の一言で「もう一回撮りま~す」とスタッフの大きな声が聞こえていた。
準備に30分に撮影に30分とこの倉庫では1時間掛かった。
もうさすがに無いだろうと思ったがそんなに甘くはなかった。
橘さんからの次の言葉は…………
「次の撮影にはまだ時間があるから休憩しようか。それとコレ読んでおいて、次はちょっとしたセリフあるから。」と言って橘さんは鮎美と俺に薄い本を渡して何処かに行ってしまった。
え?
俺に渡された薄い本の中を覗いてみると、居酒屋店員Aの所にピンクの蛍光色で色が付いていた。
セリフは2つ。一つ目は『いらっしゃいませ~』と、二つ目は指定されたテーブルまで足早に歩きそこで注文を聞き『ご注文は以上ですか?』だった。
鮎美に渡せれた方の本にはカウンター客Ⅾ。セリフは無しで、羨ましい事に鮎美はカウンターに座って料理を食べるだけの役。え~俺もそっちがいいのに。
休憩時間の間に一度練習してみた。
イメージは未来で毎日の様に親友の柳田 優と行った居酒屋の店員。
それを見た鮎美からOK!と評価を貰ったから大丈夫だと思う。
30分程飲食ブースみたいな所で休憩していると、橘さんが戻ってきた。
「そろそろ時間だけど大丈夫かな?」
勿論大丈夫。それより正直退屈になってきていたし、周りからの視線に疲れて来ていた。
やはり田舎者っぽいのかな?何かみんなしてジロジロ見るんだよな~
「はい!大丈夫です。」
「そっか良かった。次で最後だから頑張って。」
おっ!もう最後か、やっぱりそういくつも俺に出来る仕事なんかないよな。
そう俺は何となくここに来させられた意味がわかった気がしていた。
最初はいくつあるの?とか思っていたけど。
多分…………素人の俺にさせられる様な仕事がエキストラぐらいしかなかったんだろう。
俺と鮎美は橘さんに連れられて3番倉庫に着いた。
中に入ればそこは見事な居酒屋風景、まっ一部壁がありませんけど。
その居酒屋のセットの横を過ぎて奥に行き、またまた着替えタイム。
居酒屋の店員に変身!
スタッフの誘導に従ってセットの所定の位置に待機。ドラマとかではわからなかったけど、床の至る所に印があった。
少し待っているとスタジオの入り口の方からスタッフの大きな声が聞こえてきた。
「田村 政和さん入りま~す!!!」
おっ、おおぉ、もしかしてこの撮影ってあの事件もの?よくTVで見るあの服装だし。
感動して見ていると、またスタッフの大きな声が聞こえて来た。
ま、まさか…………
「西街 まさ彦さん入りま~す!!」
キターーーー!絶対アレだよね?
俺は周りのエキストラさん達の様子がおかしい事も気が付かないで1人頭の中ではしゃいでいた。
俺1人だけ貫禄あるな~とか軽い気持ちでいた。
そして撮影スタート。
すると先程までなかった違和感に気が付いた。不思議な事に緊張とかそんな気持ちも先程まで感動して喜んでいた気持ちもストンと何処かに落としてしまった様に無くなった。
そして俺の中に湧き上がってきたのは、いつも通り店員の仕事をしなくては…………そんな気持ちに支配され先程まで凄い人と思っていた二人の俳優は、ただの客にしか思えなくなった。
そして俺はいつも通りに仕事を始めて「いらっしゃいませ~」と声を出し、水を準備して手を上げたお客さんの所に行って注文を聞いた。そしていつも通りに「ご注文は以上ですか?」と確認を取った。
うん。もう注文は無いみたいだ。そう思い俺は店長に注文を伝えに行こうと数歩歩きだすと大きな声が聞こえて俺はハッと我に返った。
「はい!カット!」
あれ?もう終わったの?
何だかよくわからないけど終わったみたいだ。
それからまた着替えてスタジオから会社に戻る為車に乗った。
車の中で橘さんが「いや~優紀さん、凄い良かったよ~。もうね、細かい動きとかも店員そのまんまだったよ。」
はぁ~何か褒められたけど…………そんな難しい事してないよね?
読んで頂きありがとうございます。
次ぐらいで多分ワールドスタープロダクション本社編終わりかな?




