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伝説のカラオケ大会 (裏方編)②


カラオケ大会が始まった。本当に()()()カラオケ大会だ……………………


昨日の夕方から始まった打ち合わせは時間が掛かった。なぜかと言えば、まずこのカラオケ大会が街や町内で開催した訳ではなくファンクラブ主催だという事の説明を聞くのに時間が掛かった。


音響設備関係の責任者の響の嬢ちゃんは、あのオカマの社長からいくらか事情を聞いていたのか自主的に動いていたが、ただ単に付いてきた俺らには意味が全く理解出来なかった。


目的がただ一人、黒沢優紀って子の歌をみんなで聴くのが目的だと……………………は?

それで話を聞けば聞く程わからん。ファンクラブとは言うが黒沢優紀本人には内緒になっている?

なぜ?守る為?……………………わからん。


カラオケ大会を見にくるファンが推定500人、それもオーバーするかもだと……………………多いだろ?

そんで、その黒沢優紀はまだデビューもしてない無名だとか……………………ありえないだろ?

どんな人物だと聞けば、見れば分かるとか……………………なんだその説明は!


主催者の熊谷さんの話だと自信ありげに聴いたら絶対に感動して泣くと……………………まさか俺ら演奏者まで泣く訳ないだろ?


最初は街や町内での開催する小さなカラオケ大会かと思ったが、個人の為のカラオケ大会とは大きすぎるだろ。


打ち合わせはその説明で大半の時間を消費した。

後はカラオケ大会自体初の開催で段取りがわからないと正直に主催者の熊谷さんは頭を下げた。

若いのにやるもんだ。


それならばと俺ら演奏も響の嬢ちゃんと撮影の梶が今までの経験であれこれ助言した。

今まで呼ばれれば言われた通りに演奏してた俺らだったが、段取りから手伝うとはな……………………ある意味新鮮だった。主催者にこうしたいとかあーしたいとか逆に指示するとかありえないもんな。途中から呼ばれた事を忘れて終いには自主的に動いていた。


そうして始まったカラオケ大会は順調に進んでいったが、しまったな。曲の時間だけ考えて人の入れ替わりや移動の時間を考えてなかった。予定より僅かずつだが遅れているな。


午前の部が何とか終わった。思っていた程遅れなかった時間にして10分程だ。

正直前回のビジュアル系だがなんだかわからない、若造の歌に合わせて演奏するよりは楽しかった。

それでも、さすがに立ちっぱなしでの演奏は疲れる……………………歳だな。


俺らやスタッフの為の楽屋に弁当と飲み物を準備してあると聞いているので向かった。

スタッフとは言ったが、全てファンで自ら希望して手伝っているらしい。どんだけ好かれているんだ、その黒沢優紀は。


ステージを降りた所に冷えたタオルが準備されていた。まっそれも俺らの希望で準備して貰ったんだけどな。

顔を拭きながら楽屋に入ってみると、スタッフと思われる後ろ姿の女性が弁当が入っていると思う段ボールの前にいた。振り返ったその女性を見て俺らは一瞬固まった。


あぁ~なるほど!見ればわかるとはこういう事か。

人に寄っては美人とも美少女ともとれる外見に、神秘的なオーラが強い。

これは守りたいと思う気持ちもわからんでもないな。しかもバレない様にか……………………


俺は重要人物とは知らない振りでスタッフ扱いで「弁当5つと飲み物も5本頼む。」と言った。


すると「はい、どうぞ。多分食べてもいいんだとおもいます。」


ほほう。

性格も高飛車になっているとか、ぶりっ子等では無くごく普通の優しい感じがした。

もう黒沢優紀さんだとは思っているが確認の為に


「ん?もしかしてスタッフじゃないのか?」


「はい。カラオケの参加者です。最後ですけど………」


そうか最後となればやっぱり黒沢優紀本人か。


「最後………もしかして黒沢優紀さん?」


「はい、そうです。すいません、友達が主催者なんで特別に【急遽】参加させて貰いました。」


ん?彼女の言う特別と俺らが思う特別が違う気がするが……………………まぁいい。それよりも昨日の打ち合わせで彼女が歌う曲は主催者の熊谷さんがそれとなく聞く事になっていたが、まだ聞いてないのか連絡が来ていない。俺らで聞いておくか。


「あぁ、特別に【主役として】最後に歌うって聞いてる。別に主催者が決めた事だ俺達は気にしない。それよりまだ何を歌うのか聞いてないんだが……………………聞いてもいいか?俺達も演奏するのに知っておきたいからな。」


「あっ!演奏の方々でしたか、すみません。気が付かないで……………………実は私も何を歌うのか決めてなくて、決めるにもどの曲が被らないかもわからなくて。」


やはりまだ聞かれてなかったか。しかし被る事に気がついて他の人の事も気遣うとはなかなかやるもんだ。


俺は持っていた名簿と曲リストを渡して見せた。

彼女はそれを見て悩み始めた。今のうちに飯を食べておこう。


俺らが食べ始めると彼女も飯の事を思い出したのか一緒のテーブルに弁当と飲み物を持ってきて食べながらリストを見て考えていた。


それを横目に見ながらも俺らは飯を食べていると


「あの~ご飯食べながらでいいんですけど、アカペラでどんな曲を歌ったりしても演奏って合わせたり出来るものなんですか?」


なんだその質問は?俺らプロだぞ?素人の歌にあわせれない訳ないだろ?


「………………………………あん?舐めてるのか?俺らプロとして演奏してるんだ、歌う奴のリズムさえまともならどんな曲にだって合わせるに決まってんだろ!それに余程のマイナーな曲じゃなかったら俺らはほとんど覚えてるから演奏できる。」


「あんた」と言いたかったが、まだ口の中に飯があったせいで「あん?」になってしまったが演奏できると説明した。勿論俺ら全員だ。


「プロの演奏の方って凄いんですね。私、歌いたい曲あるんですけど……………………多分誰も知らないと思うんですよ。何とか演奏して貰えませんかね?」


凄いとわかってくれたらしいが……………………俺らも誰も知らない曲だと?それを演奏して欲しい?

随分興味の惹かれる話だな。


「…………知らないだと?何て曲だ?どんなメロディーだ?」


「こんな曲なんですけど、ちょっと歌いますね。」


そんな質問に彼女はアカペラで歌って教えてくれるらしい。俺らは飯を食べるのも忘れて耳を澄ませて聴いてみた。


「どうです?聴いた事あります?」


どうです?どうですじゃない!何だその曲は!彼女の言う通り聴いた事の無い曲だが……………………鳥肌が立っちまった。歌詞もいい…………曲のメロディーもいい…………それに彼女の歌声…………リズム感…………

少ししか聴いてないのにもっと聴きたいと思ってしまう凄い曲、そして歌声に俺らは固まってしまった。

そして思った。


「………………………………誰の曲だ?」


「え?え~と【誰作ったんだっけ?】」


なぜにすぐに答えられない?


「もしかして自作か?」


「いや自作って言うか…………そのまだ世に出てない曲なんですけど【なんて説明すればいいんだろ】」


まだ世に出ていない?意味がわからないが誰も聴いた事の無い曲だとわかった。

もしかして主催者の熊谷さんはこれをみんなに聴かせたいのか?


「………………………………今の曲を歌いたいのか?」


「えぇ、まぁ出来れば……………………」


出来ればか……………………あぁ挑戦してやるよ!


「………………………………わかった演奏する。」


それとまさか他にもこんな凄い、まだ世に出てないって言う自作の曲を持っているのか?


「なぁ、黒沢さん。もしかしてそ・の・ま・だ・世・に・出・て・な・い・曲・ってまだあるのか?」


「えぇ、それは勿論まだまだありますよ。」


くっ…………嬉しそうに答えやがった。

あんな曲がまだまだあるだと?どんなのだ?もう一曲だけでいいから聴かせてくれよ!


「…………ならもう一曲ぐらいちょっと歌って貰ってもいいか?」


簡単には聴かせてはくれないかもしれないが頼んでみると


「え~といいですよ。じゃ次どんな曲にがいいですかね?」


拍子抜けする程に簡単に聴かせてくれるだと……………………その上どんな?と選ばせる程ジャンルがあるのか?

普通自作ともなれば偏った感じになるものだが……………………天才か?いやいやたまたま今さっき聴いた曲が出来のいい曲かも知れん。同じ様な他の曲を聴けばわかるだろ。


「出来れば今の曲みたいなゆっくりな曲で頼む。」


すると彼女はまた歌ってくれた。

今度はさっきと違い気持ちの準備をして聴いた。それでも凄かった!

なんとか鳥肌が立った腕の指で目を閉じリズムを確認しながら確実に覚えれる様に聴いた。

短いながら彼女が歌い終わった時、部屋の扉が開いた音がした。


「すいません。富田さん、そろそろ時間です。お願いします。」


くそっ!時間か。


「すいません。折角の休憩時間を潰してしまって。」


休憩時間?


「……………………いや気にしなくていい。それより最初の曲を歌いたいんだな?」


「はい。でもいいんですか?」


「あぁ逆に俺は演奏してみたい。お前達もいいか?」


「「「「はい!」」」」


絶対あの歌声に負けない演奏をしてやるよ!


俺だけじゃなく俺ら全員がそう思っていた。

まさかこんな所で久しぶりに挑戦したいと思うと思いもしなかった。



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