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ゴールデンウィーク ④


一人旅みたいに気ままに行こうと思い、興味が引かれた場所に寄りながら運転していたら、目的地に着いたのは夕方近くになってしまった。


今から山に入るのはさすがに無理だと思った俺は地元の観光案内所で宿を探し始めた。

のだけど………やっぱり無理だよな。ゴールデンウィーク中だもの。

市内にあるホテルは全て満室、目的の山の近くに旅館が2件あったけどそれも満室。


ちょっと離れた隣の山の方にある5件の旅館に電話で確認してみたけど、そこも満室。

「明日には空きも出るのだけど」と言われた。


最後に電話した旅館の人が、もしかしたらと紹介してくれたのは隣の山の(ふもと)にある小さい民宿。旅館の人の話だとかなり昔から代々やっていてその山の社の管理もしているらしい、今はお婆ちゃんとお爺さんと娘さんでやっていると………………ただ電話がなく、実際に行ってみるしかないそうだ。


俺はその場所を教えて貰い向かってみると、道?林道だとは思うけど誰もあまり通らないのか道の端には大きな石が転がって落ちてきたままだったり、大きな枝が道に出ていたりと車にキズが絶対付いたと思う道を不安になりながら15分程走った。


見えてきた建物は雨漏りしそうな程古かった。

僅か車3台程の空き地に車を停めたけど、他に車が無い所を見れば泊まる事は出来そうで少し安心した。


車から降りて入り口に向かうと屋根の上で誰か金槌を振っている姿が見えた。屋根の修理かな?


段々と入り口に近づく度に屋根の上の人物が誰かに似ている………まさかね…………顔がハッキリと見える距離までくればやはりそこには、神様がいた!なにやってんの!


「お~~い神様、なにやってんの!!」


「ん?おぉ、お前さんこそ何をしておるんじゃ?」


「いやいや聞いてるのこっちだから!隣の神様の所にいるんじゃなかったのかよ!」


「……………………じゃからここにいるじゃろ?」


「はい?」


屋根の修理をしている神様と話をしていたら民宿から1人のお婆ちゃんが出てきた。


「ほほう、こやつが馬鹿爺(ばかじい)が願いを叶えし者か……………………よくやった!これでいつでもこの馬鹿爺を消せるかと思うと嬉しく思うぞ。」


え?馬鹿爺?


「そういうお主もかなりの婆じゃろが……………………」


その言葉を聞いたお婆ちゃんの手が光ってバチバチ言ってますけど?


「……………………今すぐに消されたいのか?」


「……………………わしが悪かった、まだ消さないで欲しいのじゃ。」


え?このお婆ちゃんが隣の神様?


「ふん!わかればよい。……………………しかし、随分と…………」


と俺の周りを回り始めた婆ちゃん。


「わらわを基準に変えた様だの……………………全く何をやっているのか。」


そう言ってお婆ちゃんがふわっと姿が一瞬で変わった。

目の前に現れたのはどこから見ても女神様とわかる姿の凄い美形だった。


「さて、初めまして願いを叶えし者よ。私はこの山の上に祭られている『縁』の女神です。今、屋根にいる『命』の神とは古くからの知り合いです。」


姿が変わって口調まで女神様に変わり紹介を受けて俺は少し驚き


「は、はい。お、私は黒沢優紀と申します。」と自己紹介をした。


「この上にいる『命』の神のわがままから、過去に戻りその様な姿にさせられ同じ神として本当に申し訳ありません。ほら貴方も謝りなさい。」


え?わがまま?何の事?

と思っていると屋根の上にいる神様がふわっとは降りて来ないで梯子で降りてきた。


「ふぅ、すまんかった。」


意味がわからないんですけど?


そこから『縁』の女神様から詳しい話を聞いた。何でもこの『命』の神様はその昔人間の姿に変化して狩りに行く者に山の知識を教えたり狩りの仕方などを教えていたらしい。

しかしその狩りを教えている時に若者が足を滑らせ大怪我をしてしまった。人間の姿に変化している間は神としての力は一切使えなくなるらしいのだが、目の前で大怪我をさせてしまった事にショックを受け、その後は人間の姿に変化する事を止め神として山に入る者を守ってきたらしい。


その後、山に入る者もいなくなり『命』の神様の力は増える事も()()()もせず時間だけが過ぎて行った。ただずっと大怪我をした若者の子孫を見守っていたのだが、その子孫が津波で亡くなった。その子孫とは笹倉香織らしい。


何も出来なかった『命』の神。

だがその『命』の神様の前にその子孫に係わりを持つ俺が現れた。もしかしたらと『命』の神様は俺の心を読み昔と言う言葉で過去を意識させ「過去に戻って」と願いをさせて叶えた。


過去に戻る願いは『命』の神様の状態では出来ない。世界の理に触れるからだ。

悪神なら世界の理にも干渉出来る。しかし過去に俺を戻した所で若者の子孫を本当に救えるかはわからない。

救える力を与える為には悪神となった後では『命』の神様だった時の力は使えない、力を与えるには代償が必要だ。


その後は俺も知る様に俺の息子が無くなり色々と綺麗になっていた。

『命』の神様だった悪神様の『綺麗』の基準は、目の前にいる『縁』の女神様で見た目もだが歌も踊りも()()も全て含めて綺麗らしい。惚れているでしょ?


そんな説明を聞いていたら周りは暗くなり始めていた。

女神様は「せっかくだから泊まっていきなさい」と言ってくれたのでお言葉に甘える事にした。

泊まるとなり母さんに電話しようと携帯を見れば電波が全くなく連絡出来ない。

その事を女神様に伝えると、携帯電話に指をクルンと回すと電波がフルになった。

「今だけその電波とやらを引っ張たから使えるでしょう。」

俺はすぐに母さんに民宿に泊まる事を伝えた。すると友達と電話で話したいと……………………俺は困って女神様を見ると女神様が手を差し出してくれた。

母さん!今から話す人…………いや女神様だからね!変な事言わないでくれよ!


「もしもし、……………………はい。……………………そうです。大丈夫ですからお母さんも安心してくださいね。……………………いえいえ。……………………はい、では代わりますね。」


どうやら女神様は話を上手く合わせて説明してくれたらしい。しかし…………母さんと女神様が電話で話してるって思うと何か凄いな。

それから俺が電話に出て「粗相のないようにね。」と注意を受け電話は切れた。


携帯を見ればまた電波の無い状態に戻っていた。

それから民宿に入り部屋に案内して貰い夕食とお風呂を頂いた。


何で民宿を?と女神様に聞いてみれば、昔は山の上の社は地元の大地主が建て直しや補修をしてくれたらしいが、今では誰もしてくれないらしい。ならどうするか?答えは自分で直す。

直すにも維持するにもやはり資材が必要で神様の力でどうにかは出来ないそうだ。

自然の摂理に従い、古くなったり壊れたりするのを止められないらしい。

まっ、いつまでも古くならない壊れない社があったら変って話だ。


良縁の神様として祀られているらしく人も結構来るそうで、人間の姿に変化して民宿に来た人に社の補修を頼んだりをしていると教えてくれた。

ただ、いつまでも同じ人間の姿だと変に思われるだろうと、一人三役でお婆ちゃんの姿だったりその娘の姿になったり孫の姿になったりしているとも教えて実際に見せて貰った。


馬鹿爺呼ばわりの神もたまにこの民宿に表れ姿を変え若者の振りや子供の振りをして協力していたらしい。


まさか神様が民宿をやっているとは誰も思わないよな。




次の日(ゴールデンウィーク3日目)



折角来たのだから社に行かないかと女神様………いや今はお婆ちゃんの姿で誘われた。

軽い気持ちで了承して民宿の裏から向かったが後悔した。

『命』の神様の社は山裾だったけど、『縁』の女神様の社は頂上。30分程自力で登ったが、それで初めて女性としての身体の影響を認識した。やっぱりこの脚の細さじゃな。体力もつけないと………


そして頂上の社に到着。そこには立派な社が………おもいっきり負けてるから『命』の神様!あんたの社より10倍大きいから!


それで来たからには手を合わせないと、と思いお詣りしたけど隣にこの社の主がいるのに社に向かってするのっていいの?そう思っていると


「これで条件は揃った。わらわからもあの馬鹿爺のした事への謝罪として『良縁』とお金を増やしてあげよう。」


え?お金が増えるのか嬉しいけど、何で良縁?男とかいらないなら!

そう顔に出ていたのかお婆ちゃんの姿の女神様は


「ん?良縁とは何も異性にだけではないのだぞ。良き師や良き友も『縁』があっての出会いじゃ。これからお主のする事に必要になると思うぞ。それとこれを貸そう。」


そう言って綺麗な緑色の宝石が付いた指輪を渡された。くれるんじゃないの?


「目的がなされたら消えるから、それまで大事に持っておれ。」


これがあれば『良縁』に困らないのかな?

俺はお礼言い、またお婆ちゃんの姿の女神様と下山した。


民宿に戻ると悪神となった『命』の神様は、お爺さんの姿で今度は壁を直していた。こちらに気がつき驚いてこちらに向かって走ってきた。


「なんじゃ!なんじゃ!やり過ぎじゃろ!それにその指輪………は」


そこまで言って話すのを止めた。

うん。俺の後ろから昨日より大きな音でバチバチ聞こえてるもんな。

それから神様達にお礼を言って帰る事にした。最後に並んで手を降る姿はまるで夫婦みたい。

多分、目の前で言ったら俺もバチバチされてたかも………




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『命』の神様視点



あの若者を見送り姿が見えなくなった所でわしは『縁』の女神に聞いた。


「のう?あの指輪はその昔、卑弥呼と言う嬢ちゃんにあげた物じゃろ?いいのか?また争いにはならんかの……………………」


「……………………今度はちゃんと時期を視て返して貰うから大丈夫じゃ。それに今回は条件を付けた。太陽の光があたる時だけ効果が出る様にな。」


「そうか……………………あれは魅了の力が強すぎるのじゃ。上手く使ってくれればいいのじゃが…………」


「そこはお主も視ているから大丈夫じゃろ?」


そうじゃな……………………しかしあやつの行動力だけは凄いからどうなるか心配じゃ。現に昨日いきなり思い立って来たからの。



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