入社式 (中編)
札幌市内に着いた新人一同。
ちょうど時間もお昼ぐらいだったので昼食を摂る事にしたんだけど、ここでも当然の様にどこで食べればいいの?って事になった。
そしてまた俺に期待の眼差しが集まった。
またかよ……………………そう思ったけどよく考えれば俺も20年前の店等知らない。
こういう時はタクシーだ。
知らない土地で闇雲に歩いて探してもいいけど、15:00………いや14:30迄飯を食べ終えて本社に着きたい。
ならタクシーの運転手を信じて任せてみるのが1番だ。
その方法を皆に説明したら、今度は男達はラーメンが食べたいと言い出し女性陣は寿司が食べたいと………俺にしてみればどっちでもいいんだけど。
しかし、女性陣は強いな~。
6:4で男が多いのに意見の言い合いで負けてない。
ちなみに俺は中立でいる、おっ決まったみたいだ。
最後の「そんなに食べたいなら夕方にいけば?」で何故か男達が負けた。その時俺は何をしてたかと言えば路肩で手を上げてタクシーを捕まえようとしていた。
手を上げてすぐに停まった車はタクシーではなく知らない若い男だった。
助手席側窓を開けて俺を見ている、何を期待しているんだ?
「すいません。タクシーを止める為に避けて貰えませんか?」
ハッとした様で顔を赤らめて男の運転する車はいなくなった。俺に呼び止められたと勘違いしたのか?
まさかな………
また手を上げてタクシーに見つけて貰おうとしたら今度はバスが目の前に停まった。北海道のバスって手を上げれば停まってくれるんだっけ?
入り口のドアが開いた。乗ってもいいのか?これ…………
運転手の男が顔を赤らめて俺を見ていた、なんなんだいったい?
「すいません、ラーメンとお寿司食べれる店の近くのバス停まで行きますか?」
運転手は黙って頷いてくれた。よし!
俺は皆を呼ぼうとして振り返ると……………………
「……………………黒沢さんがバスを停めたぞ。すげぇ…………」
「………………………………俺も黒沢さんが手を上げてたら停まると思う。」
は?何を言ってるんだか、わからないんですけど?
兎に角皆乗れよ!
「早く乗って!」
そしてその謎のバスに俺達11人が乗り込み出発した。
幸い乗客はお婆ちゃん一人だけ乗っていたので「すみません。」と謝っておいた。
なぜか手を合わせて「ありがたや」って言われたけど…………誰かと勘違いしてるのかな?
そして誰も降車ボタンを押してないしバス停にも誰もいないのにバスは停まった。
そして入り口が開いた。ここなのかな?
俺達は運転手に「ありがとうございました。」とお礼を言って降りた。勿論お金は払ったよ。
降りた所は飲食店が並ぶ所で俺達は一番最初に見つけた寿司屋に入った。
やはり新鮮なネタは上手い。値段が書いてないのが気になるけど……………………
皆若い事もありかなりの量のお寿司を食べていた。そしてリーダーの杉本君が代表で会計金額を聞きに行ってくれた、すると青い顔で帰ってきた。微妙に手が震えているみたいな気がするけど……………………まさか。
俺はすぐに杉本君に近づき皆に気づかれないように伝票を受け取り金額を見た。
¥74800円……………………11人で一人当たり6800円。
これはマズイ。新人達で払える金額じゃないから!
俺は杉本君に小さい声で「大丈夫、何とかするからちょっと待ってて。」と伝え店のレジへと向かった。
店員に伝票と神様からのありがたいお金の5万を出して渡して、¥24800円の伝票を作って貰った。
それを持ってリーダーの杉本君に渡した。
さっきまで青い顔だったのが見る見る「え?いいの?」みたいな表情に変わっていったが、俺は頷いて見せて皆を見てから人差し指で口の前に持っていき内緒と伝えた。
皆は「あれだけ食べて安いって北海道凄いな!」とか喜んでいた。
だってさ、一番の年長者の俺が確認もしないで新人達に大金払わせたとか何気に嫌な訳ですよ。
それに今はお金に困ってないしさ。俺は心の中で「みんな次は気をつけよう!」って伝えた。
それに今は神様通帳の残金は270万。東京に行く前に車のローンも全部払えるし。
やっと気持ち的に豪遊できるって感じだったから。
杉本君や他の新人達に恩を売るつもりの行動ではなかったのだが、それが未来で優紀の助けになってくれるとはこの時はまだ優紀は知らない。
そして残りの時間で少しだけ観光をして無事に予定の時間30分前には本社に着けた。
本社ビルの1階には初々しい新人達が各地から集まっていた。総勢243人。
リーダーの杉本君が代表で受付に行き到着の報告をして2階に移動した。
何故かまだ移動する時は俺が先頭なのはどうしてなんだろう?
会場では事務職と営業とで座る場所が違っていた。
女性4人が俺と一緒に事務職の場所に行くものだと思っていたらしく別れる時に驚かれた。
そして座る指定された場所を案内図で確認すると……………………最前列かよ!
何でだ?前は後ろだったのに……………………仕方ない行くか…………
会場は事務職の43人が一番左に、そして残りの営業職が100人ずつで二つに別れていた。
俺はその100人ずつに別れている真ん中の通路を一番先頭に向かって歩いて行くと…………
歩いた後ろからざわつき始めた。
「おい!あれ女だよな?」
くっ、やっぱり目立つか…………なめんなよ?見た目女だからって営業できない訳じゃないんだからな!
そう思い気にしてない振りをして席に着いた。
そんな風になど思われてはいなかった。「おい!あれ女だよな?」「すげぇ美人!」「いや美少女だ!」
「この後の夕方のパーティーで俺声掛けてみようかな。」「お、俺も」等
200人近い男達に狙われていると思いもしない優紀だった。
入社式。
当事のよく覚えていないお偉いさんや社長のよくわからない、有難い言葉を聴き気持ちのこもらない拍手で席に帰って貰い入社式は終わった。
会場から1度退場する事になったけど、事務職が先に退場………少ないからな。
そして次が営業の退場となったが、最前列の俺は勿論最後の方で男達に混ざるのも何か嫌だったので待っていると本当に最後になってしまった。
会場の扉を出ると受付嬢らしき人が俺に向かって来た。
「黒沢優紀さん?」
「はい。」
「良かった~いつまでも出てないから、見逃したのかと焦りました。すみませんが私と一緒に来てください。」
強制?
「何処にですか?」
「すみません、言えないんです。ただ………」
彼女は小さく指で上を指した。
上?本社で上と言えば………お偉いさん?え?何で?
よくわからないまま5階まで受付嬢に付いて行った。
そして着いた部屋には情報システム宣伝課と…………まさかあの無能と言われた二人か?
宣伝課……………………どれだけ経費を使わずにうちの会社を有名にするかが仕事なのだが、この二人の考えは世間から極端に離れていて何をやっても不発、不発で最終的に10年で3億2千万を使っても社会的知名度は1%しか上がらなかった。
それも会社が気が付かないで10年も放置していた理由は情報システム調査課の課長から上に上がる報告を不正に偽造していたからだ。
何故そんな事が可能かと言えば調査課の課長より宣伝課の1人が部長で位が上なせいでだ。
そして3億2千万を横領でもしたならまだ何となく知名度が上がらなかった理由にでもなったのだが、違った。真面目にやってお金を使ってそれでも成果が上げられなかったのだ。
流石に知名度調査の不正がバレた時、逆にそんな事が可能なのかと調べた結果はとんでもなかった。
前にも言ったがうちは現場で使う機械や資材を仲介したりして利益を上げている、なのにうちの名前を付けたラーメンを作ってみたりしていた。それもまだ作った物を関連会社やお客に配ったり安く売ったりすれば面白ネタとして話題にもなったのだが、この二人海外に売った。本当に何故?って事をお金を掛けて繰り返した。まさに無能!
そしてそれは最悪な事に二人が退職してからわかった。立つ鳥跡を濁さず?濁すも何もほとんど変わらずにお金だけ使いまくって……………………
そんな二人がこの扉の先にいると思うと怖い。この会社で一番関わりたくないランキングぶっちぎりの1位だ。
俺がガクブルしていると受付嬢が死刑執行人の様に
「では、こちらの部屋へお入りください。」
そう言って立ち去った、いや立ち去った様に見せて通路の曲がり角から見ていた。逃げれないじゃん!
嫌な予感がかなりするが、仕方ない行くか。
ノックをして「失礼します。黒沢優紀です。」
「入れ!」
あ~もう嫌だ。そう思いながら中に入るとそこには2人の男がいた。1人は大きな机の椅子に座ってもう1人はその横に立っていた。
「ほほう!写真より美人じゃないか、これは中々逸材だな。」
「そうですね、ここまでとは…………これなら行けますよ。」
何が行けるのか気になるが聞きたくない感が半端ない。
「すまんな、呼び出して。わしは宣伝課部長の都丸、こっちが課長の佐原だ。とりあえず入社おめでとう。これから会社の為に励んでもらう。」
そう言って都丸部長は佐原課長に手で合図した。すると佐原課長が
「君にはその美貌を生かし宣伝課にて仕事をして貰います。まだ制作に時間が掛かるらしいので今すぐでは無いですが、いいですね?」
はい?え?俺宣伝課に異動?転勤する事に決まったの?
「あの~すいませんがお話がわからないのですが、私はいつから宣伝課に異動する事に決まったのですか?」
「何を言ってるんです。私達が貴女をこちらに来るように勧めているのですよ、光栄に思いなさい。貴女は私が言った様にただ異動希望を書けばいいのです、わかりましたか?」
……………………え?俺が自分で異動希望を出せと?何を言っているんだこの人。俺の了承も無しで人事課や社長の許可もなく宣伝課に来いと?断られるなんて微塵も思わない態度に俺は呆れた。
それに入社式をしたばかりの新人が異動希望など出せる訳ないでしょ?それも知らないの?
「すみません、今日入社式したばかりで異動希望を出す事が出来ないと思うのですが、それは人事課から許可を頂いているのでしょうか?」
「ん?そうなのか?佐原君。」
「はっ、そのような決まりなど聞いた事はありませんが人事課の池谷に都丸部長から言って頂ければ可能でしょう。」
「そうか、そうだな。では後で池谷に言っておこう。」
あぁ最悪だ。この人達……………………何かもういいや。断ったら断ったで不正に俺が異動希望を出した様に書類を作ったり裏で根回しとかするんだろうな。
仕方ない後でもう1枚退職届を書くか……………………
そう思い俺は内ポケットから退職届を出して都丸部長の机に置いた。
「すみませんが宣伝課には異動するつもりも、この会社にいるつもりもありませんのでお断りします。」
退職届を見た都丸部長と佐原課長は意味がわからないのかジッと見ていた。
そしてやっと意味がわかったのか顔を赤く染めて怒りだした。
「なんだこれは!わしの言う事が聞けんのか!お前は黙ってわしの言う通りにするしかないんだぞ!辞めるだと?わしは認めん、認めんぞ!」
そう言ってやっぱり退職届を破かれた。はぁやっぱりもう1枚書かないといけないか…………
「退職願を聞き入れて頂けないのであれば仕方ありませんね。では失礼します。」
「何だと!何処に行く?誰が帰っていいと言った!なんだその態度は謝れ!」
「そうです!謝りなさい!」
本当に無能だなこいつら……………………
「いいか?一度しか言わねーぞ!俺は辞めるって言ってるんだ。それをお前らが止めれると本当に思っているのか?社員じゃなくなる俺にとってお前らはただのおっさんだ。そのおっさんが赤の他人に命令出来ると思ってるのか?お前はそんなに偉いのか?えぇどうなんだ?」
俺の反撃に何も言えなくなって…………いや驚いてるのか。
俺はこのタイミングを利用して部屋を出た。勿論歩きでだ。走って出たら逃げたようで嫌だったから。
エレベーターのボタンを押して待つとすぐにエレベータが到着して開いた俺は乗り込み扉を閉めると閉まる直前に都丸部長の声が聞こえた。「黒沢ぁぁーーー許さんぞー!何処に行ったぁぁぁぁーーー」
もしかして追いかけてくるのか?そこまで馬鹿なのか?
エレベーターが1階に着くと俺はスタスタと歩いて受付嬢いる所まで行き一応待った。まさかな…………
1階の状況はどうなっているかわかるだろ?新人が沢山溢れていた。それに同期の10人も待っていてくれた。この後立食パーティーあるからね。
そこに顔を赤く染め息をきらせて都丸部長が降りてきた。オイオイまさかそこまで馬鹿な事しないよな?
「どこだぁぁぁぁぁぁ黒沢ぁぁぁぁぁぁーわしは部長だぞ!このわしに逆らうなんて許されるとでも思っているのかぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーくそっどけ!この新人ども!お前らもわしに逆らうのか!どけぇぇぇぇ」
あぁ~やっちゃたよ。あのおっさん…………あれはもうダメでしょ?
うわっ最悪じゃん!ちょうど社長が会場の入り口から見てるし……………………
あっ、社長が都丸部長に気が付いて止めにいっ…………あっ!殴った!後ろから肩を掴まれたからって殴っちゃったよ。
あぁ、もう逆に可哀想になってきたわ。
この後立食パーティーは1時間程遅れる事になった。
その間に俺は事情を聴かれ包み隠さずあった事を話した。その時に俺はわざとガクブルしながら「宣伝課は本当に知名度が上がる様な仕事をしていたのですか?」と付け加え退職届を提出したら破られたとウソ泣きをしながら話して聞かせた。すぐに破られた退職届は見つかり後日この事件の詳細が分かり次第受理すると承諾を貰った。




