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入社式 (前編)


夕食の時に母さんに芸能界デビューしようと思うって告白したら、「いいんじゃない。」と簡単に了承を得た。


内心反対されるかもって思ってただけに、はい?ってなってしまったけど。

そんな簡単でいいの?東京に行くんだよ?母さん一人になるんだよ?って言ったら、何を言っているんだこの子はみたいな顔をされて、「母さんも若い頃は東京にいたんだよ、娘のお前が同じ様に東京に行くのに何もおかしい事もないじゃないか。一人になるのが心配って、そりゃこっちのセリフだよ。あんたに一人暮らし出来るのかい?逆に心配だよ。」


くっ、何も言い返せない。この時はまだ一人暮らしした事無い事になっているし、実際5年後の転勤で一人暮らしを初体験したのだが、部屋が一時ごみ屋敷となった事があった。


東京ではどんな生活になるのかもジェシカさんに聞いておかないと……………………


とりあえず母さんからは了承を得た。


鮎美からもあれからきたメールは「わかったわ。優紀がしたいなら私は応援するし、何でも協力するから。」

と割りとさっぱりした返事が返ってきた。


あれ?あれーって思った。もっと反対とか私も付いて行くとか騒ぐと思ったのに……………………前の人生だと男だったせいもあるのか、鮎美とはたまに買い物に一緒に行ったり飯をおごらされたりと1ヶ月に1回か2回会うぐらいだった。

今とは大違いだ。今はもう二日に一回はあっちから来るからな。

何か腑に落ちないけど、まっいっか。


それよりも明後日の入社式、どうしよう?

今から辞める予定なので行かないです。とは言いにくいし……………………もう明後日の月曜日に、朝普通に会社に行ってから、桜田さんが空港まで送ってくれる予定になっている。

それから1時間飛行機に乗り北海道へ。本社へは電車で移動し15:00から入社式、18:00から本社での立食パーティー。その日は泊まって翌日には帰ってくる。


ん~~~戻ってきてから退職届を出すしかないけど……………………出しにくいな~。

鈴木社長の件とかもあるから、やっぱり1ヶ月後に辞める段取りにしよう。


当初は5年後の転勤までは会社にいるつもりだったんだけど…………転勤先で柳田 優に会えれば後はいつ辞めてもいっかぐらいで考えていたし。

でもそれだと香織を助ける為の11年後のうちの5年を無駄に消費する様で勿体無いし…………


何とかジェシカさんに助けて貰いながら頑張ってお金を稼ぐしかないか……………………秘策もあるし。


そう決めた俺は電話しようと思うとちょうど良く電話がきた。

ディスプレイに映っているのは橘さんの名前だった。


「はい。もしもし、黒沢です。」


「あっ、もし…………ちょっとやめ…………ぐふっ!……………………もしもし~あたしジェシカ。元気してる~?」


最初の声は橘さんだったよね?何があった?


「え、えぇ、元気ですよ。どうしました?」


「ん~~~どうしました?じゃないわよ!逆にどうなったか気になって電話したのよ。親御さんの了解は取れた?」


「はい、思った以上に簡単に『いいんじゃない』って…………なんか拍子抜けでした。」


「そうなの?でも良かったわ~結構反対する親御さんが多くて説得って大変なのよ。それで今働いているか会社はどうする?どのくらいで辞めれそう?」


「えぇ、さっきまでその事を考えていたんですけど…………1ヶ月後には辞めようかと思います。」


「ん~1ヵ月後ね、ちょっと待ってて……………………」


電話の向こうで橘さんに聞いてるみたいだった。「雅史ちゃん、1ヵ月であそこの準備出来るわよね?……………………………………………………そう、2人部屋………………………………そうそれでいいわ。」


「ごめんね~お待たせ~1ヵ月後からお部屋に入れる様にセッティングするから大丈夫よ。」


「やっぱり寮とかあるんですね?」


「えぇそうよ。うちのビルの中にあるの、セキュリティ対策もバッチシよ!」


へぇー今の時代からもうセキュリティとか気にしてるって、ジェシカさん凄いな。


「わかりました、1ヶ月後よろしくお願いいたします。」


「あ~優紀ちゃん、そういえばオーディションの締め切りが1ヶ月後なのよ。そちらに書類送るから悪いんだけど書いて応募してくれない?」


「オーディション?なんのオーディションなんですか?」


「え?あれ?雅史ちゃんから聞いてないの?」


あっ聞いてた事になってるのかな。


「すいません、忘れていました。」


「もう優紀ちゃんたら本当に興味なかったのね~いいわ簡単だけど教えてあ・げ・る。ドラマの主人公役を決めるオーディションよ。なかなか決まらないって理由で次で5回目なんだけどね……………………まっ今回で決まると思うわ優紀ちゃんで。4回のオーディションで他の役の子はみんな決まったし、これでやっと撮影に入れるわ~。」


「え?私で決まりとかまだオーディションに参加もしてないのに決まりなんですか?それって…………」


「確実に決まりって訳じゃないのよ。雅史ちゃんの意見が大きいと思うから多分決まりかなって感じ。」


へぇ~あの橘さんが……………………想像出来ないんですけど?


それから応募の締め切りが1ヵ月後でオーディションが2ヵ月後になるとの説明を受けた。あっちに行ったら最初の1ヵ月はオーディションの為の特訓だそうだ。大丈夫かな?




そして入社式当日



俺は普通に会社に朝出勤すると桜田さんの運転する車で空港に向かっていた。

その車の中で…………


「すまん!」


「な、何ですか急に?」


運転しながら申し訳なさそうに話始めたのは、昨日の休みに桜田さんが動いてしまったらしい。


「昨日な、『恵』の家でお義父さんお義母さんとで晩飯を一緒に食べたんだが……………………その時に家を建てる為に土地を探してるって言ってしまってよ。そうしたらまさかお義父さんがよ家を建てる気がある程本気なら認めていいってコロっと変わってさ……………………その…………来年に結婚出来そうなんだ。これってやっぱり未来変えちゃったんだよな?鈴木部長の娘さんの南さんが帰って来ないとかにならないよな?」


あ~あの時の話で桜田さんも南さんが帰って来るまでいつも通りにしようと思ってたのか。

あれは鈴木社長に言ったつもりだったんだけどね。

まっ俺が話をした時点で未来が変わってるとも思うんだけど……………………


「多分大丈夫ですよ。『南』さんが帰って来るって未来を変える様な行動じゃないですから。」


「そうか!良かった~結構心配してたんだよ俺。」


安心した様子の桜田さんを見て、やっぱり未来は変えられるんだなって思った。

今回はちょっとした桜田さんの「家を建てる為の土地を探してる」って言葉だけで変わったみたいだけど、これからどうなるかもちゃんと知らないとな。

もしかしたら未来は決まっていてそれを変えようとすれば強制的に何かしらの軌道修正が入るかもしれない。

そうなった時俺はどうすればいいんだろ?修正が入ったとしても直せない程変えてしまえばいいんだろうか。

ん~~~わからん。

あっ!そう言えば桜田さんにまだ教える事あったんだった。


「あ~~桜田さん。言うの忘れていましたけど、多分家を建てたら犬を飼うと思うんですけどちゃんと厳しく育ててくださいね。間違っても甘やかしすぎて超ビビりな子にしないように。」


「へ?……………………犬?俺が?まさか俺が犬を飼うとかありえない、ありえない。小さい時に俺足咬まれた事あるからさ、あの牙を見るとちょっと怖くてな。ってまさかマジで俺犬飼うの?」


「へぇ~じゃ恵さんの為だったんですね、それは知りませんでした。ん?もしかして……………………咬まれたくないから甘やかしていた……………………あぁ~なるほどなるほど、あの大きさじゃそう思うかもですよね~」


「お、おい!ちょっと待て!大きさってなんだよそれ!小型犬とかじゃないのかよ!」


「小型犬?あれが?まさか…………ゴールデンレトリバーで成長してあの大きさになった時は驚きましたよ。家の3人用のソファー1人占め…………いえ1匹で占めていましたから。」


「………………………………嘘…………マジでそんな大きさかよ。って家のソファー?室内犬?……………………マジかよ!」


「まぁ、まぁ、大丈夫ですよ。あの時の桜田さんは幸せそうでしたから、案外犬好きなんですよ。」


「はぁ~ショックだわ~まさか俺が犬を、とか信じらんねぇよ。」


それから空港に着くまで思い出した事また追加で話した。

でも流石に辞めるって話は切り出せなかったけど…………

空港に着いた俺は桜田さんにお礼を言って別れた。迎えの時も桜田さんが来てくれるらしい。


未来では何度も空港に来て飛行機で出張したけど、過去に戻ってからは初なんだよな。

そう思いながら手続きを済ませ様とすると、また懐かしい面々がいた。

同期の新人だ。初々しさが眩しい程オドオドしていた。

まっ俺もあんな感じだったんだけどね。


同じ県内の同期が一同に集合するのは社員旅行以外だとこれが最初で最後の事だ。今年の新人は俺も入れて11人そこは変わっていなかった。でも20年後の未来では皆辞めてしまって残るのは3人だけだ。

経理をする事になる加藤さん(女性)と俺と同じ営業の村田(男)だ。それ以外の面々の名前は正直ハッキリ覚えてない。

部署違いもあるし営業所の違いもあるから。


県内で一番大きい営業所の新人がリーダーに選ばされ恥かしい事にプラカードを持たされ立っていた。

あの時は恥ずかしいとか思わなかったけど、今見れば凄い目立つし恥ずかしいもんだな。


そんな初々しい同期に向かって歩いて行きリーダーに俺は声を掛けた。


「お疲れ様です、〇〇〇営業所の黒沢です。」


そんな俺の挨拶に全員が俺を……………………凝視していた。え?何か変か俺?


「な、なんか変ですか?」


「……………………い、いや全然。ただちょっとビックリして……………………あっ、俺がリーダーを任された杉本 徹(すぎもと とおる)です。え~と〇〇〇営業所の黒沢優紀さんと…………」


名簿を渡されていた杉本君はペンで〇と書いていた。


「これで全員集まりました。では次に……………………どこへ行けばいいんだ?」


あ~そうそう思い出した。俺達誰も飛行機に乗った事なかったからカウンターで手続きは何とか出来たけどそこから何処に行けばいいかわからなかったんだよな。それに千歳空港に着いても電車に乗る時も迷子になりかけたし懐かしいわ。

それにそうそう思い出した。


一泊二日なのに恰好付けてスーツケースだけ持って来てる奴が大半で、小さいカバンとか持って来てなくて折角持って来た本とかウォークマンを預け荷物に入れたままで結局飛行機の中でボーとしてたんだよな。

なにを隠そう俺もなんだけどね。


今回は勿論持って来てるから!


「え~といいですか?」


「は、はい。なんでしょう?」


いやそんな緊張しなくても…………


「とりあえず搭乗手続きをして荷物預けましょうか。」


「あ、あぁそうですね、えっと黒沢さんは飛行機慣れてるんですか?」


リーダーの質問に注目が集まる俺。仕方ないよなみんな新人だもんな。


「はい、何度か乗った事ありますから。」


って言ったらみんなしてお願いしますって目で期待された。

はぁ~リーダーの杉本君からしてそんな目で見るかよ。


それから俺はリーダーの杉本君の前を歩きみんなを先導していった。

って一列に並ばなくていいから!何か引率の先生にでもなった気分になるから!


手荷物検査を無事に皆済ませ、飛行機のチケットに書いてある番号の搭乗口まで着いた。

後は時間になるのを待つだけだ。

それはみんなも説明しなくてもわかったらしく自由に休み始めた。


俺も何気にここまで来るのに気を使って疲れたので一人椅子に座って休もうかとしたら11人中の4人の女子に囲まれた。

そこから女子トークに巻き込まれ彼氏はいるのかとか他の同期の男の中で誰がカッコいいとかいろいろ聞かれた。

ちょっと休ませてくれよ!なんでそんなに元気なの?


それから本社に着くまで女子達に囲まれたまま過ごす事になった。はぁ~キツイ…………



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― 新着の感想 ―
[一言] 長澤さんも空港まで送ってくれたらしいのに会話は桜田さんとだけしていて、それでも空港では長澤さんにお礼を言って、迎えには桜田さんが来る・・・ところでこの長澤さんて最初からいましたっけ?
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